「…こりゃ夢か?」
そう言ったのは誰だったか。
「…ああ、たぶん夢だ…」
そう言ったのは誰だったか。
「・・・・・・・。」
わずかな意識で考えながら、目の前の景色を眺めていた。景色とはそのまんまであって、クジラに船ごと飲まれた筈なのに、見える景色は青い海、青い空、そして範囲の狭い島が一つ。どんな手品か、クジラに飲まれた船の行方はグロテスクな胃の中でば無く先ほどと変わらぬ景色だった。そう、ただ一つの島を除いて。
「――で?あの島はなんなのよ?」
「…幻だろ」
誰もが思った疑問を、ナミが言って見るがだれも答えられるはずも無く、ゾロが答える。
「…………じゃあ、これは?」
そして普通に海海の中から現れた、巨大なイカ……。
「大王イカだ!!!」
巨大な身体に巨大な吸盤の脚をくねらせ船を襲おうとイカが迫ってきた。その時。
ドドドッ!!!と、そんな音がイカを襲った、何事かと見てみると、イカの身体を貫いたこれまた巨大な槍が3本。それに一発で衝天したイカは再び海へと倒れ、島に引きずられて行くのだ。
「人はいるみてェだな」
「“人”だといいな」
戦おうとして構えていたゾロとサンジがその島を睨む。因みに、同じく襲ってきたイカにとりあえず刀を鞘から少し見せた状態で構えているキイの後ろには、彼女を盾にするかのように隠れて怯えっぱなしのナミとウソップが泣く泣くもその島へ目を向けている。
「撃つか!!あの島大砲でドカーンと…!!」
「待て!!誰か出てきた・・・・・・!!」
ウソップがそういうのも無理は無い。その巨大な大王イカを巨大な槍で一発で射止めたのだから。そしてその槍から生えるように繋がれたロープの先は、小さな島に建つ一つの家。
「船…」
そう呟いて、家から出てきたのは。
「花だ!!」
「え、花!?」
家から出てきたのは、花じゃない、人だった。一瞬花と断言したサンジも訂正する。正確には花のような髪形をした老人だった。老人と言っても、体格はしっかりしている方ではあるのだが、それでもその光景は異形だった。
「あんなじいさんが大王イカを一撃で!!」
「ただの漁か、おれ達を助けてくれたのか」
そういってる間にも老人はイカをズルズルとおそらく自宅へ引きずっていく。そして、老人はふいとこちらを向いてきた。不運なのかなんなのか、目が合ってしまったサンジが息を呑みながらその眼差しに対抗しようとした。重い空気が一瞬流れた。
パサ…
「なんか言えよテメェ!!!」
老人は特に何も言わず、外に立ててあった椅子に座り新聞を広げ始めたのだ。なんだか休日でバカンスを楽しんでいる姿が頭に浮かんだ。当然出鼻を挫かれたサンジが怒鳴るのだが、なかなか鋭い形相で老人は睨み返す。
「……」
「や…戦るなら戦るぞコノ野郎!コッチには大砲があるんだ!!」
「…やめておけ、死人が出るぞ」
「……!!…へぇ、誰が死ぬって?」
「私だ」
「お前かよ!!!」
すっかり老人のペースに乗っかってしまったサンジをゾロが抑えた。
「まァ熱くなるな。おいじいさん教えてくれ。あんたは一体誰で、ここはどこだ」
ゾロが落ち着いてそう老人に聞けば、また先ほどの睨みを今度はゾロに聞かせる。剣士ゆえの経験か、ゾロがそれにタジタジに、なんてことは無かったのだが。
「………人に質問するときはまず自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのか?」
「ああ…まァそりゃそうだ悪かった」
「私の名はクロッカス。双子岬の灯台守をやっている。歳は71才、双子座のAB型だ」
「アイツ斬っていいか!!!」
「まァ落ち着け」
刀を構えたゾロに今度はサンジが否めた。その間、それに続くようにキイが手を上げた。
「私、キスライトっていいます。もしかしてここ、クジラの中だったりしますか?」
「…お前ら、よくも私のワンマンリゾートに入りこんで、そんなデカい口が叩けるもんだな。ここがネズミの腹の中に見えるか!?」
「あ…ごめんなさい」
「…ピノキオの人食いクジラを知ってるか?」
「え…はい」
「あれは実はデ●ズニーオリジナルで原作では人食いザメなんだぞ」
「え!?なにそれすごい」
「さらに腹から脱出するのをマグロが助けてくれるんだ」
「へークロッカスさん物知りだなぁ」
「どーでもいいわそんなそんなトリビア!!!」
「なんだこの老人と孫!?」
グダグダである。
「じゃなくて!!やっぱりクジラに食われたのか!?」
「どうなんの私達…!!!消化されるなんていやだ!」
やっとのことでこの空気を割ることが出来たウソップが切り出した。なんやかんやで話が脱線してしまったが、結局はクジラに食べられてしまったことには変わりないのだ。
ナミが顔を歪めたとき、クロッカスがそれを聞いたのか、あるところを指差した。
「出口ならあそこだ」
「出られんのかよっ!!!何でクジラの腹に出口が…それに…」
「なんで空に扉が!?」
「いや待て、よく見ろこの空…雲も、」
普通に言っただけでは予想は出来ないだろう。だが言葉の通り、クジラの腹に出口があり、またクジラの腹に空が浮かんでいるのだ。しかし、美術センスが高いウソップはあることに気づく。
「こりゃあ、絵だ…!!クジラの胃袋に絵が描いてあるんだ!!」
「絵!?」
次々と発覚する出来事に、新聞を読んでいたクロッカスがまたボソッと答えた。
「遊び心だ」
「てめぇ一体何やってんだよここで!!!」
「いいさ関わるな」
憤慨するウソップを引っ張ってまたゾロが否めた。言い分は全くなのだが、出口も見つかったことだしここでいつまでも長居する必要は無い。
とりあえずはここから出ることが先決だと考えを改めたその時。
ズズゥ…ン
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