「ここが世界で一番、偉大な海・・・・・・・!!!」
「行けーーーーー!!!」
ルフィの声に、ゾクゾクと背筋が震えた。
ここにたどり着くだけでも驚きを超えることがありすぎたというのに、その壮大さに感動とは違う迫力を感じた。
始まりは突然だった。悪友を敵に回した。生まれて初めて街から出た。生まれて初めて“仲間”と契りを交わした。ありえないくらいの大嵐に船に乗って早速船酔いしてしまい、ありえないくらい大きい海獣に食べられそうになって、巨大カエルの口の中に入った。雲より高くて赤い大陸をくぐって、ありえない(らしい)船で山を登った。そして、偉大なる、もう一つの世界に脚を踏み入れた。
激しく波立つ風を全身で受け、まだ見えぬ世界に目を凝らし、彼女は思うのだ。
――海に出て、よかった。
「ルフィ」
「ん?」
「…ありがとう」
「なにがだ?」
「んんーなんでもない」
「ししっへんなヤツだなぁーキスライトは!」
「ひひッ」
ニカリとルフィが笑えば、眉を下げてキイも笑った。なんだか泣きそうになってしまった。なんて言えない。
と、そのときである。ふと、キイは顔を上げた。ゴオオオオ、という風の音と共に、違う音が混じってきたからだ。
ブオオオオオオオオオオッ!!!
まるで吼えるような音にクルー達も気づいたらしい。
「おい何だ、何か聞こえたか?」
「知るかーー行けーーーー!!!」
「風の音じゃない?変わった地形が多いのよきっと」
「違う。」
「え?」
ナミはそう言うが、キイは違うと断言した。通常の人より少しばかり耳がいいキイは、聞こえる音の先をじっと見て言う。
「なんか…ちがう」
「キスライト?」
「風っていうか………」
ブオオオオオオオオオオオオッ!!!
キイの声が音に遮られたとき、帆に登っていたサンジが前方に見えたモノをナミに報告する。
「ナミさん!!前方に山が見えるぜ!!」
「山?そんなハズないわよ!この先の“双子岬”を超えたら海だらけよ」
「ん?」
ルフィが目を凝らした。その先は。
「風っていうか……鳴き声?」
ブオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
「山じゃねェ!!!クジラだァ!!!」
鳴き声の正体は、山ほどある巨大なクジラだったのだ。
あまりの大きさに、それなりに大きいキャラベルがまるでアリのようである。そんな物体が船の目の前に立ちふさがっているから、ルフィは戦いを挑もうとして全員に止められるしまず進路をふさがれてしまっている。戸惑う彼らにサンジが言う。
「ここまで近づくとただの壁だ!!!まず『目』はどこだよ!!!」
「そっか、向こうが私たちに気づいてるとは限らない」
「でもこのままじゃぶつかるぜ、左へ抜けられる。とり舵だァ!!!」
ゾロは叫ぶがまずとる舵が無い。先ほど折れてしまったのだから、焦るウソップにゾロとサンジも短い舵を取るため手伝いに走る。
「そうだいいこと考えた!!!」
「ルフィ?」
「何すんのルフィ!!?」
意気込んて船内に入っていくルフィにキイも慌ててついて行く。するとルフィの向かった先には大砲があった。
「え、大砲!何処に撃つの」
「うりゃ!」
キイの話をろくに聞かず、ルフィが撃った先は。
ドウンッ!!!
「……………!!!!」
撃った、先は。
「る、ふぃ……」
「よしっ!!船止まったか!?」
大砲の先は、クジラだった。しかも何があったのか、バキリ、露骨音がした後にメリーの首が落ちてくる始末。
「!!!?おれの特等席っ!!!」
「ルフィ、!ぅわっ!?」
ブオオオオオオオオオオオオッ!!
キイが慌ててルフィに話しかけようとした瞬間、またクジラの鳴き声が船を襲った。鳴き声で『襲った』と言う表現はおかしいと思うが、そもそも近づく前からあの音量だったのだから、間近にいて平気なわけがない。思わずキイも耳を塞ぐが、彼女の前を通り過ぎるのは、言わずもがなルフィだ。
「る、ルフィ!?」
迷わず甲板に向かって行く彼は、なんだか表情が怖かったとキイは語る。そして甲板に飛び出しクジラの前に立ちふさがった。キイはまた慌ててついて行き、ナミと共にルフィの次の行動を見守った。
「お前いったい、おれの特等席に」
見守らなければ、よかった。
「何してくれてんだァ!!!!」
ゴムの手を伸ばし、その巨大なクジラの目玉に自身の拳を叩き込んだのだ。
「アホーーーーーーーーー!!!!」
クルー達は涙ながらに叫び、ルフィの傍にいたキイは、
「ルフィ、ばか!」
「なんだよ!」
「さっきのもそうだけど、目はさすがに痛いよ!!」
「バカはあんたらよ!そうじゃないでしょ!!」
「わ、こっちみた〜〜〜〜!!!」
「かかって来いコノヤロォ!!!」
「テメェもう黙れ!!!」
「うおお!?」
そのときである。突然クジラがその今まで閉じていた口を大きく開け、そのまま船を吸い込んだ。しかもルフィが船から飛び出してしまったのだ。
「わーー!!ルフィ!!」
「キイちゃん危ない!!」
血相抱えてキイは柵に乗り出すがすでにルフィの姿は無い。そんなキイに慌てて彼女の身体を支えたサンジだったがそれに意味はあったのか、そのまま彼らの視界は暗闇に消えた。
「…こりゃあ夢か?」
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