ザブンザブンと波打つ音が船の下から聞こえた。恐らくは海王類たちが巣に帰るために海に潜って行ったのだろう。ただ唯一、鼻の上にのってしまった船に首を傾げる一匹の海王類を除いて。
「い…いいな、とにかく…!!コイツが海に帰っていく瞬間に思いっきり漕ぐんだ!!」
オールを構えて一汗垂らすゾロに、同じくルフィとサンジが「おう!!」と意気込んだそのときである。海王類が突然ムズリと身構えて、
ッキシ!!
くしゃみを、した。
側から見ればなんとも可愛らしいのだが、その上にいた海王類の10分の1ほどの船、つまりルフィたちにとってはとんでもないことで、
「なにいいいい〜〜〜〜!!?」
くしゃみをした振動で吹き飛んで行ってしまったのだ。しかも災難はそれだけではなく、
「わ!!カエルが飛んできたぞ!!」
先ほどの海王類とは一回り小さいものの、充分大きなカエルが餌を求めてやってきたのだ。さらに、
「ウソップが落ちたァーー!!」
麦わら海賊団。グランドラインに入る前に仲間を一人失いかける。なんてことも笑えないわけで。思わず背中にゾワッと悪寒が走ったキイは、
「ウソップー!!」
「どいて!!」
「!!!」
「キイ!?」
ルフィがゴムの手を伸ばそうとする前に、脱兎のキイは飛んだ。
甲板まで数秒とかからず踊り場を踏み台に跳躍、そしてまた数秒とかからずその小さい体はウソップをキャッチした。しかし何も無い空中でその跳躍の勢いは殺せず、カエルの舌に着地した瞬間、あのルフィを撒いた時の跳躍を出した。カエルの口が閉じる前に口の中を脱出し、(丁度口が閉じられのか、キイの後ろで『バクン!』と聞こえた。)手を伸ばすルフィの腕を掴んだ。そして船に戻ったころには。
ザバァアン!!
「…これでわかった?入口から入る訳」
「ああ…わかった…」
「……!!」
また、激しい嵐の中に戻っていた。波の音と共に男たちの野太い悲鳴がわずかに耳を掠め、(船の甲板に叩きつけたれたが偶然とウソップがクッションになってくれたのだ)戻ってこれたのだとキイは気絶したウソップを抱えたままほーー…っと長い息を吐いた。
「すげーなキイ!!また飛んだ!!」
「へ?」
「ウソップてめぇ何キイちゃんに膝枕してもらってんだ羨ましいぞコラ!!」
「あ、サンジさん。ウソップさん気絶してるっぽいから…」
「人間の脚力とは思えないわね…またここにも人外人間が…」
「………」
「はは、うん。死ぬかと思った…」
ルフィがキイの肩を掴み、サンジが気絶してるウソップを蹴ってナミが傍で信じられないとキイを見て、ゾロは無言でキイを見ていた。彼女の周りが賑わしくなったところで、ナミが閃いた。
「わかった……」
「何が」
「やっぱり山を登るんだわ」
「まだそんなこと言ってんのかお前」
ナミが説明を始めていると、キイに膝枕をされていたウソップが呻きながらもムクリと起き上がっていた。
「お?大丈夫?ウソップさん」
「ん…?ってうおっっ!!?おおおおま!!」
「ん?」
「お、おお…!お前が助けてくれたのか、ありがとなぁ」
「いーえ。初めての船出で仲間が死ぬのはいやだからね」
「そ、そうだな。あ、敬称やめろよ。」
「おーわかったウソップ」
「不思議山が見えたぞ!!!」
嵐の中でほのぼのな空気が流れたとき、そんな船長の声が聞こえた。ウソップとキイはそれに習い立ち上がると、見えたものは壁、否。
「待て!その後ろの影は何だ!?」
「バカでけェ!!!」
大きいと言う表現では足りないんじゃないかと言うほどの大陸だった。
「あれが…レッドラインか!!」
「雲でてっぺんが見えねェ!!!」
先に見えるのはその名の通り“赤い大陸”。キイは思わず身震いをした。
「吸い込まれるぞ!!!舵しっかり取れ!!!」
風音に負けないくらいのルフィの声にハッと思考が戻った。雲が晴れた先を見て、ナミは「凄い」と言って、双眼鏡を覗くゾロは「ウソみてぇだ…」と感嘆した。キイもそれを見て頷けた。
「本当に海が、山を登ってやがる…」
運河の入口だ。
しかし驚く暇も無いらしい。船がずれて運河に建てられた囲いに向かっていたのだ。
「もうちょっと右!!右!!」
ルフィの言葉にサンジとウソップが右に面舵を執り、右へと傾けた。ギギ、と舵が唸りそして。
ボキィッ
「…え?」
「舵が…!!」
不吉な音と共に、進路の変更手段が、消えた。
「ぶつかる―――――!!!」
今正に、船が柱に一直線に向かって行くときである。
「ゴムゴムの…風船ッ!!」
麦わら帽子をゾロに託し、船から飛んで自らの身体を風船のように膨らまし船と柱の間に入った。船と柱に挟まれ、一瞬苦しそうにしたルフィだが船はゴムゴムの風船で見事に跳ね返った。
「助かった!!!」
「ルフィ、捕まれ!!!」
ルフィはゴムの腕を伸ばし、ゾロに捕まった。引き込まれそうになるが、そこはゾロの怪力である。何とかルフィを船に戻すことが出来た。(ルフィは頭が船に突っ込んだ)
「入った―――!!!」
大きな波の音をたて、頂上に弾けれれば、そのまま下り坂になって船は進んだ。
「後は下るだけ!!」
ルフィは興奮してメリーに登り、おお、と感嘆の声を上げた。
キイは目を見開いてただその先を見つめた。
そして――。
「おお見えたぞ!!グランドライン!!!」
――かくして麦わら海賊団の船は、偉大なる航路・グランドラウンへ突入したのである。
▲|▼ ×back
しおり|