雷が、鳴り響く。

「ルフィ、さっきからニコニコしてんねぇ」

「当たり前だろ!!キイが仲間になってくれるんだ!!」

「そんなにうれしい?」

「おう!」

「…そっかぁ。」

「ししし!」

そしてついに、キイの視界から見えたのは大きな海賊船。

「わ…でっかい船」

「すげーだろ!ゴーイングメリー号って言うんだ!」

「へえ、メリー…」

「ルフィ!!!」

その名の通り、羊をモチーフにしたデザインの船は、帆の上の海賊旗、ジョリー・ロジャーが激しくたなびいている。
綺麗だと思った。
その髑髏のマークに、心なしか背中の辺りがぞくぞくする。

ちなみに、ルフィの名を呼ぶのは船の上でロープを扱う少年で、キイが彼を見たとき「鼻長っ」と呟いたのは誰も聞いていない。

「すげー雨だ」

「ナミさんただいまー!!!」

「急げ急げ!!!ロープが持たねェ、
って誰だー――――――!!!?」

「あっ、どうもさっき麦わら海賊団に推薦されましたキイですよろしく」

「何ーー―――!!?
お、おいホントかルフィ!!」

「おうっ!新しい仲間だ!!」

「ぐず!!!早く乗って!!!船出すわよ!!!」

同じく船に乗っていた橙色の髪の女性ことナミは、キイの存在を特に気にせず整った眉を吊り上げて男達に言う。その凛々しい姿はどこかカッコいいと思った。

「で、でもよぅナミ…」

「ルフィが選んだんなら問題ないわ!!例えもしなんかしでかそうとしたら海のど真ん中に突き落としてやるから!!!とりあえず今は早く乗りなさい!!!」

「はーい」

「お、おまえさりげなく怖えこと言ったな…」



ところ変わって、海軍達が集まる頑丈な建物。

「申し訳ありません、思わぬ突風でバギー一味を逃がしてしまいま…」

「“麦わら”を追うぞ。船を出せ」

兵士達は頭を下げて謝罪するも、スモーカーは特にそれに突っ込むこともせずスタスタと真ん中を歩き、告げた。

「え!?追うって!?」

「“偉大なる航路(グランドライン)”へ入る」

「え!!?」

その瞳に勿論、迷いは無い。

「行きましょう!!私も行きます!!」

「曹長まで!!」

「私はロロノアを許さないっ!!!!必ず私の手で仕留めてやる!!!」

たしぎもそう、強い眼をして言えばそれを遮るように慌てて一人の海軍は言う。

「ですが大佐、この町は大佐の管轄で…!!!上官(うえ)がなんと言うか…」

「『おれに指図するな』と、そう言っとけ!!!」

鬼も裸足で逃げ出す形相でそう豪語するスモーカーに向かうは右腕であるたしぎだ。先ほどとは裏腹に、気になっていたことを眉を下げてスモーカーに問うた。

「スモーカーさん、あの、キイちゃんは…」

「…海賊に入った」

「え…、」

「キスライトは、海賊になった」

冷静な声でスモーカーは言う。
その衝撃なる事実に、彼女を知るものはたしぎを含め誰もが動揺した。

「キイさんが!?」

「キスライトって?」

「馬鹿!脱兎のキイだよ!」

「えっ!?」

たしぎはざわめく彼らの中心で佇むスモーカーを、困惑の表情で伺う。

「スモーカーさん…」

白猟の鋭き眼が、見据える先は。




ところ変わって、とある建物。

「グ…“偉大なる航路(グランドライン)”へ!!?」

「ああいい機会だ、クソゴムとの決着もある。
このまま入っちまおう」

そこでは黒焦げになったバギーがにやりと口はしを吊り上げて言う。

「なつかしき“偉大なる航路(グランドライン)”!!!」




「キスライト」

「ん?」

「私の名前」

「そうか。キスライトって言えばいいのか?」

「んー、どっちでもいいよ」

「そうか、じゃあキイ!」

「はは、うん」

「なんて美しい名前なんだキスライトちゃあんっ!!!」

「少しは静かにできねえのかおまえ」

「おまえ、なにが出来るんだ?」

「ん?逃げ足。」

「どんな特技!?」

またところ変わって、ゴーイングメリー号。
今はキイの軽い自己紹介タイムとなっていた。

それなりに終われば、闇に蠢く嵐を再度見上げる。
服は当の昔、雨によってぐしょ濡れで多少体が重たい。

「うっひゃーっ船がひっくり返そうだ!!!」

「あの光を見て」

ナミの言葉の先を一同が見れば、暗闇の中一筋の光が見える。

「島の灯台か」

「“導きの灯”」

「あの光の先に“偉大なる航路(グランドライン)”の入り口がある」

「どうする?」と、薄く笑ってナミが聞けば、長鼻の少年ウソップが顔を真っ青にした。

「しかしお前何もこんな嵐の中を……なァ!!」

「よっしゃ偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!!」

「オイ!!!」

そんな言葉に耳を貸すことも無く、サンジは厨房から持ってきたであろう樽を甲板の中心にそれを置き、自らの長い脚を樽の上へ静かに乗せた。

「おれはオールブルーを見つけるために」

その行動に、今度はルフィが脚を乗せる。

「おれは海賊王!!!」

ぬん!!なんて勢いよく脚を乗せれば、次はゾロだ。

「おれァ大剣豪に」

そして次にナミが。

「私は世界地図を描くため!!」

慌ててウソップも脚を乗せる。

「お…お…おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!!!」

「……」

しかし、それを見ているだけの存在が一人。

「おいキイ、お前もやれよ!」

「ん〜何言えばいいかな」

「なんでもいいだろ」

「ん〜…じゃあ、」

コト、と、脚を乗せて言う。

「偉大なる海で、それなりに楽しむため」

「あ、そうそう。」

彼女はきだるくそう言って、今まで被っていたフードをパサリと外した。赤い髪が揺れ、額のジョリー・ロジャーの刺青が露になった。

「改めまして、ルビー・T・キスライトです。

よろしく。」

「おう!」

そして六本の脚が持ち上がり、振り下ろした。

ガゴォン!!

「行くぞ!!!“偉大なる航路(グランドライン)”!!!!」















海が弾け風は高らかに舞い、彼らの背を船を後押す。
その道の先は天国か地獄か。
それを知るものは誰もいないし、知らされることなど彼らは望んでいないだろう。

なぜならそれは、彼らの浪漫なる旅となるからだ。

さあ野郎共。
武器を持て、心しろ。

覚悟など、今更だろう?




――時は、大海賊時代。
  物語は今、始まった!!!




(世界へ飛び込め!!!)

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