はるか未来に語り継がれる伝説は―――

はるか昔に幕を開けたる物語―――



「罪人!!!海賊モンキー・D・ルフィは“つけ上がっちまっておれ様怒らせちまった罪”により、
『ハデ死刑〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ』!!!」


ハデに騒げ!!!歓声と共に銃弾の音が広がる。威嚇と脅しを含めての行為は民衆たちには十分効いたらしい。固まって動くことは無い。
その民衆の一人であるキイは、恐怖で動かないというより、驚きと呆れを含んだ意味で死刑台を眺めていた。

「…何してんのあのこ」


――あらすじとして。

なかなかやってこないルフィに諦めたのかと推測し、(あの少年がそう簡単に諦めるようにはあまり思えなかったが)武器屋をあとにしたキイは鬼ごっこスタート地点であった死刑台へ行ってみることにした。
そこで見たものが死刑台の上で首と手首だけ出されて確保されているルフィと、その上に乗って高笑いをするピエロみたいな海賊、バギー。
そう、それはまるで首打ち処刑される寸前のよう…。

「……。」

「おれ死刑って初めて見るよ」

「てめェが死ぬ本人だよ!!!」

「ええっ!!?ふざけんな――っ!!!」

「てめェがフザけんなァ!!!」

――鬼ごっこの鬼が捕まってどうする。

ようやく己の危機的状況を理解したルフィとそれにキレるバギー。ギャーギャーと騒ぎ始めた二人を(もとから煩さかったが)今度こそ呆れつつ、キイは思う。

「これよりハデ死刑を、公開執行する!!!!」

「いやだーっ!!!」

――どうしよう。

ふと適当に上を見上げると、高い建物のバルコニーに集まる白と青。海軍だ。恐らくあそこに彼女の悪友と友人もいるのだろう。
もう一度死刑台を振り返る。
まるで危機感が無いルフィにバギーが怒鳴っている。
どうしようとは言っても、あの男がいる時点でどうしようもないのだけれど。

「最後に一言何か言っとくか?せっかく大勢の見物人がいる」

そうバギーは問うが、一方のルフィは見たことも無いむっすり顔だ。

「……」

「まーいいさ。言うことがあろうがなかろうが、どうせ誰も興味など…」

「おれは!!!!」



「海賊王になる男だ!!!!」

「「「!!?」」」

「………!」

空気が、震えた。



「な……………………!!!」

「か…海賊王だと……!!」

「…よりによってこの町で」

「なんて大それたことを…」

バギーの言葉を遮り吠えたルフィ言葉に、民衆達は驚愕した。
あたりまえである。
この場で、この死刑台でそんなことを口にした輩など、最初で最後なのかもしれないのだから。
そんな、ざわつく人の中に一人だけ、彼らと違う空気の人間がいた。

キイだった。

「言いたいことは…それだけだなクソゴム!!!」

剣を振りかぶるバギー。そしてなんとか逃げ出そうと必死にもがくルフィ。
同時に、人のゴミの中へ自ら飛び込んできたルフィの仲間であろう男が二人。

キイにとって全てがコマ送りに見えた。
ほうけているでもなく、呆れているでもなく、ただ無言で死刑台を見つめていた。
何を考えているとかなんて、とくにない。

強いて言うなら――

「そこでじっくり見物しやがれっ!!!
てめェらの船長はこれにて終了だァ!!!」

高らかに笑うバギーが剣を振り下ろす直前。

「ゾロ!!」

あれが彼の首を撥ねるまで、あと5秒。

「サンジ!!」

――4。

「ウソップ!!」

――3。

「ナミ!!」

――に、

「――キイ!!」

己の名が聞こえた。
は、として、上を見上げる。男は、笑っていた。


「わりい、おれ死んだ」

「――――。」


「バ…っ!?」

ゾロはその笑顔に反論しようとして、できなかった。
目の前を、黒い何かが光のごとく通り過ぎたからだ。

「バカなこと言うんじゃ、!!?」

それはサンジも同様で、全てが一瞬。彼の視界を横切り、それが通った痕は空気が切り裂き、しゅるしゅると死刑台に向かっている。
一瞬、だった。見えたのは黒い、

――ウサギ…?


剣が、振り落とされる。

――1。



「ルフィ―――――――!!!!」

――刃が、ルフィの首に、触れた。


バリバリバリッ!!!

ドドオオンン!!!


―――
――――――

――――――――……。



ポツ、ポツ。
天からの恵みが地面を濡らし、燃え盛る炎を鎮める。
死刑台は焦げ、そのままバタリと崩れ落ちた。

ひらりと空から麦わらぼうしが舞い落ちた。それを拾ったのは、

「なはははやっぱり生きてた。
もうけっ」

太陽みたいな笑顔の男だった。


ヒュ〜〜〜〜〜…

…そうそうそうそうそうそうそ!!!」

「ん?」

「ごめ―――――――ん!!!!」

「ぅおっ!!?」

ズドンッ!!!

ガシャアアアアアアン…


―――そして、天から光のごとく落ちてきたのは、
兎耳のフードを被った、燃えるような赤い髪の女だった。


(偉大な戯言を吐く男)

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