「こりゃすげェや、無くなった村が蘇ったァ!」
真っ暗だった場所に村が現れた。そんなマジックのようでマジックでは到底難しい、まるで魔法のような現象にヤマトは口を空けて惚けるしかない。イッスンは飛び上がり、「サクヤの姉ちゃんが本当に村を守ってくれてたんだなァ…」なんてしみじみと口にしては、急に静かになって…
「そんな女の乳をまさぐっちまうなんて、オイラぁ…、オイラぁ…」
プフフフフ!
「……………」
なんだろう、なぜかサクヤ姫が可哀想に思えた。
何を思い出したのか、ニヤケて笑い出したイッスンに若干引きつつ、いや、今はそんな場合じゃないと頭の片隅に置いておくことにする。
「…でも村が無事かどうかはまだ分からねェ。何やらとんでもねェ怪物が現れたみたいだし…ともかく村の様子を見に行こうぜェ!」
気を引き締めたイッスンの言うとおり、元に戻ったはずの村が異様に静かなことに疑問を抱き、アマテラス一行は山を駆け下りた。
★
「…何だいこりゃ?」
彼らの前にある岩。
ただの岩では無く、人の形(詳しく言えば坊主なのだろうか?笠で首までスッポリと被ったちょっと怪しげな石像だ。)を象ったそれにイッスンは違和感を感じた。
「こんな所に石像なんてあったっけェ?」
イッスン曰わく、覚えは無いらしい。今の目的は石像ではない為「サッサと人間を探そうぜェ!」とイッスンも特に気にすることなくアマテラスに道の詮索を促した。
一言で言えば、“静寂”だった。行けども行けども村には人っ子一人居ない、あるのは乱雑に置かれたさまざまな石像だけ。違和感がありすぎる光景にイッスンが首を傾げる。静かすぎると。
「この神木村は天下の拝承地と謡われた名所なんだぜェ?」
「そうなんだ?」
「オイラからすりゃあ神木村を知らないヤマト姉ェが信じられねェよ。一体どんな田舎からきやがったんだァ?」
「だから、わたしもよくわかんないんだって」
ヤマトから見たそれは、また一言で言えば“過去”だった。一瞬、田舎にでも来たのかと思ったが、江戸時代のそれかもっと前か。田舎にしたっても、彼女の住んでいた現代とはまるで違う土地だ。そう、まるでタイムスリップでもしたのかと言うほど、地が、世界が違いすぎる。
そんな会話をしながらも彼方此方村を回ってみるものの、その景色が変わることが無い。
「こっちもだァ…石みたいに固まってまるで動かないぜェ…」
そんな光景に気味が悪いとイッスンが唸る傍で、その石像をじぃ、と眺めるヤマトは冷や汗を額に滲ませてつつポツリと呟く。ただの石像のはずなのに、こんなにいやな感じがするのは何故だろう。むしろイッスンは確信を持っているようだったから。
「こ、これ、ほんとに人げ…」
そのときである。
ヴオオオオオオオオオオ!!!
腹の底から響くおぞましい雄叫びが村中、否、恐らく世界中を轟かせた。
その咆哮はまるで心臓をに握られた感覚。呆気からんとする自身をバクリと飲み込む感覚。それは、
逃がさぬ。
「・・・・・・・・・っ!!!?」
これが、正しく“こわい”ということかと認識させるように、いつの間にか震える自身の身体をヤマトは抱きしめた。
「ま…またかよォ!?
小さい妖怪なら方々で見るけど、あんな唸り声は聞いたことがねェや…」
「は…早くまともな人間を探そうぜェ!」それはイッスンも同様なのか、しかしアレを聞いて未だ気丈としていられるイッスンに素直に感心した。
気のせい、だったのだろうか。
大分治まったものの、それでも止まない身体の震えを必死に抑えようとするヤマトをアマテラスは見上げていた。
そんなわけで、石像自体が神木村の住人ということが発覚し、石に姿を変えてしまった彼らを調べてみるも、何かが変化する様子は全く無い。
「ダメだァ…ピクリとも動かねェや。昼間はみんな普通に生活してたのによォ!
…アマ公、やっぱりこいつは普通じゃねェ。村が復活してからも空が真っ暗ってのはどういう事だィ?」
「まさか…村の外まで真っ暗闇なんじゃねぇだろうなァ!?」
上を見上げているだろうイッスンの言葉は、どこか恐怖しているのが伝わった。まさか世界の終焉とでも言えるかというような暗闇。静寂。
それを振り切るかのように、辺りを調べるためにも見晴らしのいい場所へ向かおうと言うイッスンの提案によって訪れたのが、神木村の高台のやぐら。
しかし予想通りというか、やっぱり辺りはただ只管に闇に包まれていて。
「空のお天道サマも消えちまって、地平線の向こうまで真っ暗だァ」
もしかしたらさっきの咆哮も、村人の石化も、この暗闇が関係しているのかもしれない。
「やっぱり、得体の知れない怪物の呪いかよォ?」
――怪物。
今の今まで、流れに流れてここまで来たわけだが、イッスンといい彼自身の言葉といいそしてあの、化物(イッスン曰く妖怪)といい――、
もしかしたら自分は、とんでもないことに巻き込まれているのだろうか。
「…や、今更だけどさぁ……」
自身が神サマ(らしい)になったり、妖怪をよくわからない力で斬ったり、まして、
「せめて、まァるいお天道サマが照らしてくれりゃよォ…」
ましてや、このオトボケ顔の白い狼が、太陽を天に描くことなんて、誰が想像しただろう。(想像すること事態、あるわけが無いというのに。)
空にクルリと○を描き、その中心から現れたそれは、正しく。
「“天照”・・・」
正しく、太陽神を表す彼(もしくは彼女)は、
「太陽の筆業 光明」
「これだけは、失うハズがねェや!その力さえありゃ、夜を昼に変えるのも思いのまま…。
…まったく大したもんだぜェ“大神”サマってのはよォ!」
@称えよ、御仁は天照大御神様なり。
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