「断神って言やなんでも切り裂く筆業一閃の神サマだァ
この野郎それじゃお前まるで…」

「英雄イザナギと共に怪物を退治した後おっ死んで、十三の筆業をこの世にバラ撒いたっていうあの――」

大神・白野威みてぇじゃねェか!





『大神』・『天照』

太陽の神といわれたその名の通り『天を照らす神サマ』。

神サマの仕組みがどうなってるのかは詳しくは知らない。けど、こんな神なる業を、そして神なる存在を二対も見せ付けられたらそれはもしかしたらそうなのかもしれない。

「そんなバカな…イザナギ窟だの白野威だのは神話の中の話だぜェ?」

いまだ信じられないとぼやくイッスンは、それならとそばにあった岩を指差した。ヤマトの身長ほどあり、とても頑丈そうな岩。

「と…ともかく一閃の力はオイラもまだ目にした事がねェ…ホレあそこに丁度いい岩があるから、ホントにお前が使いこなせるのか見せてみなァ!

一太刀線を引きゃ忽ち真っ二つにするっていう業をよォ!」

イッスンがそういえば、それはすぐに起こった。

岩が忽ち、呼んで字の如しに真っ二つになって見せた。それは崩れたわけでも壊されたわけでもない。正しく鋭い剣の切れ味が、岩を襲ったのだ。

「…………!」

「…す、すげェ!!」

すごい。そしてかっこいい。
イッスンのいうことが本当なのだとしたら、彼(?)は、アマテラスは本当に…

「あ、じゃあさ。」

ふと思い出したことを口にすれば、イッスンとアマテラスはヤマトに向き直った。

「なんだよォヤマト姉?」

せっかくいいトコだってのに。と拗ねるイッスンを尻目に自らの身長を超える真っ黒い髪を掴みあげた。

「これ、切れる?」

そうアマテラスに聞いてみれば、何故か反応したのはイッスンだった。「なっ!?」と一度飛び上がるのをやめるほどに。

「いいのかよォ?」

「えー?いいよいいよ。もともと短い方だったし、流石にこれは邪魔だからさ。

わたし自身を切らないでくれるならお願いしたいんだけど…ダメかなあ?」

にこりと笑ってアマテラスを見れば、「ワフ。」と一声鳴いて見せる。了解、でいいのだろう。

「せっかく綺麗なのに勿体ねェなァ…」

ブツブツ言ってるイッスンは置いておくとして、ヤマトはアマテラスから降りると、フラつかないことに気づいた。

「あ、立てる」

「そういやァ随分顔色良くなったかァ?」

「お、まじか?じゃあ体調良好記念とでも思って。」

その長い髪を一束にまとめ、アマが切りやすいように高く上げる。

「首ら辺まで、ザックリお願いします」

後ろ目でちらりとみれば、ワン!と自身満々な声が聞こえて、

斬!

バラリ、黒い束が床に落ちる直前――。


「!!?」


まばゆい光がヤマトを包んだ。


「!ヤマト姉!?ヤマト姉!!!」

桃色の羽織りがはらりと落ちる。光が収まった後アマテラスが駆け寄る。イッスンが息を呑んだ。

「な…!」

身体自体にたいした影響はない。しかしヤマトの外見に大きな印象を変えた。ヤマトの髪がバッサリとショートになり、長かった時とは別人のよう。
しかしそれだけじゃない。彼女の身にまとうもの。
漆黒の布。それがヤマトの身体に丁度良い寸法、かつ動きやすく作られたそれは、

「…つなぎ?」

現代でいう、足袋などが着る真っ黒いつなぎだった。

「ヤマト姉の髪が、布になりやがったァ!?」

そこまで言ったイッスンは、ハッと何かに気づいた。

「…そうか。サクヤの姉ちゃんが言ってた土に眠る彼の方…蘇神も断神のヤマト大国魂神…」

「まさか、あれはヤマトの姉ちゃんのことだったってのかァ!?」

イッスンの言葉に、驚きに目を見開くしかない。さっきから驚いてばっかりだ。とも思ったが、己が神サマと言われたことが一番びっくりだった。

「…まっさかあ。だって、そんなん…」

「だってよぉ!ヤマト大国魂神ってのは地母神――地の神の名だぜェ?ヤマト姉だって土から出てきたし…アマ公の力が戻れば、同時にヤマト大国魂神の力も元に戻る…姉ちゃんの体調が良くなったのも頷けらァ!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねるイッスンの下。アマテラスを見てみると、尻尾をぶんぶんと振ってヤマトにすり寄っている。

「…じゃあ、あれか。そのヤマト大神?は、わたしの祖先様で、わたしが今それに生まれ変わったとかそんな感じか」

「かもなァ」

ヤマト大神は省略の末である。しかし俄には信じられないとはこのことだ。だってまさか、生まれ変わったってことは…、

・・・・・・。

「…死んじゃったのかあ」

「ヤマト姉?」

「あ、いや」

「…ってことはよォ!もしかして、ヤマト姉も筆技が使えるんじゃねェかァ!?」

興奮気味にアマテラスの頭の上で細やかに飛ぶイッスンが言う。

「姉ちゃんの布も、元は姉ちゃんの髪で造られたのかもしれないぜェ?だから画竜になったとかよォ!」

その論理でいくと、なるほどそうかもしれない。

「でも、どうやるかすらわかんないんだけど」

「それは後々オイラが教えらァ!オイラもやることが決まったしな!」

「やること?」

その小さな体は仁王立ちでふんぞり返っていることだろう。(小さすぎて見えないが)
イッスンは四つの目が自身に集中することを確認すると、こう言った。

「アマ公は十三の筆業を使いこなしたあの白野威の生まれ変わりだろォ?ヤマト姉もヤマト大国魂神っていうまさに母なる大神サマの生まれ変わりだァ!
それならオイラのやることは一つだけ…その筆業を全部盗んで一人前の絵師になるまで、お前らに付いて離れねェ!」

「へ。」

これには普段ぽあっとしてる二人は驚いたようで、アマテラスにいたっては急いでイッスンを引っぺがそうと身体をぶるぶるとがむしゃらに震わすが、イッスンが離れることはなく、得意げにアマテラスの身体を飛び回っている。

「へっへ、無駄無駄ァ!オイラは一度しがみ付いたら何をされても絶対離れねェのよォ」

・・・・・・ノ●のようだと言う言葉は何とか飲み込むことが出来た自分を褒めてほしい。ヤマトのそれは切実だった。

「それよりアマ公!その一閃がありゃ、サクヤの姉ちゃんが言ってたアレを切り落とせるんじゃねェか?」

「アレ?」

「ああ、ヤマト姉はまだ見てなかったな。まあそれも歩きながら教えるよォ!さァ戻ろうぜェ、名残惜しいけど先ずは村だァ!」








@修正、と言うかページを分けました。
サイトなんだけど、同時に本のつもりだったことに気付いた今日この頃。



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