ぱぱん!


「さぁさぁ皆さんお立会い!」

ひとつの箱で簡単な仕切り。
それに扇子を叩きつけ、声を張り上げる男が一人。

「誰かは言った、この世に神は百八いると!
誰かは言った、この世に神は存在せ無いと!」

場所は都。大きな町中、男の話を聞くものはただ一人の少女。
彼女意外の人間は我関せず、興味は端ほども無いと男を見もせず横切った。
それでも男は構わず続ける。

「俺か?俺は勿論神を信じるさ。なんたってこれからその神様のお話をするのだから」

「そんなわけでお譲ちゃん」

そう、男は頬杖をついていた少女を指差した。

「お譲ちゃんは“天”と“地”、どちらか好きかい?」

突拍子もないと言うか、よくわからない質問に少女は首を傾げた。

「なぁに、そう難しく考えることはない。お天道様と、畑なんかで使う土。どちらがいいかって話だ」

簡単に例えられた二択に、少女は正に純粋無垢な瞳を男に向けた。

「…お日さま。土は着物が汚れるからってかかさまに怒られるわ」

「そう!我らが称えるはそのお天道様、天照大神様だ!!」

少女が答えた瞬間、それを被せるかのように声を上げ、指を彼女に突きつけた。

「うん百年も昔、大剣士イザナギと共に八つ首の大蛇を倒したと言われる白野威(しらぬい)。何より、俺たちの地を照らしてくれる神の中の大神様さ」

「…?白野威と大神さまは違うヒトじゃないの?」

「まぁまぁ、その話は置いといておくれよ。なんたって――」

今日は“天”の話じゃあないんだから。



「おさき!」

「あ、かかさま!」

遠くから聞こえたのは、女性の声。少女の母親らしい。

「バイバイ、オジサン」

「あぁ、バイバイ」

少女はさっさと母親のもとへかけて行ってしまった。

「ダメよ、知らない人についてっちゃ」

「でもかかさま、さっき神さまのお話してたのよ?」

「神様なんているわけないでしょう」

「……」





お天道様は我らを照らし、生きるモノ全てに恵みをくれる、それはそれは有り難き縁起モノだ。

   ・
では、土は?

“天”の逆の、“地”は?

“天と地”なんて例えがあるくらいだ。“地”って言葉はそれなりに“負”の印象が植え付けられちまってる。
だからあえてその“地”の話をしてやろうと思ってね。

いいじゃないかそれくらい、だってお前、考えても見ろぃ?そもそも大地がなけりゃあ俺らはその場に足踏みすることさえできやしねぇだろう。“地に足つかない”わけでもあるまいし。

そうそれは正に、“縁の下の力持ち”。
誰にも見向きされない存在を認識することさえ許されない。



「そんな“哀れ”で頑張り屋な、女の子の話。」




































目を開けてるのか閉じているのか。それすらも解らないくらい真っ暗だった。鳥目のため、目を凝らしたところでこの空間に慣れることは無い。
とりあえず手探りで辺りの状況を把握しようとした。ところがどうだ。
瞼を動かすどころか、体が金縛りにあったかのようにピクリとも動かないではないか。
おまけにとても寒かった。肌と言う肌に氷が張り付いてるように冷たい。


コレは夢なのだろうか。夢だとしても、この暗闇しかない世界は気が滅入るというか、怖いと思った。

怖い、寒い、冷たい。

瞼を開けたつもりでも、暗闇は晴れることは無い。
歩きこうと神経に指示を出しても、足どころか体全体が毛ほども動かない。

これではまるで、死んでいるようで。

暗いよ、怖い、暗い。


―――・・・?


そのときだった。
上のほうから、(上なのかはよくわからないが、多分上だ。)一点の光が見えた。その光は本当に小さいのにとてもあたたかく感じた。必死に光に縋りついた。なぜか体が動かせた。光がだんだん大きくなっていく。


ああ、あたたかい。

これは・・・・・――



たい よ、う――?


光の塊から現れたのは、



真っ白い、犬。



      ! ?


「な、ななななにぃ!?」

何処からか聞こえる素っ頓狂な声と共にむくりと起き上がれば、目の前にいたのは大きな犬(犬、なのか?)だった。
その真っ白い毛に刻まれている赤い模様はとても綺麗に栄えていて、背中には赤々と燃える円盤(?)を背負っている。

真っ暗な世界に明かりが灯されたような空間。
そこには大きな枯れ木に、なぜか土台だけの石造。

そして――白い犬。

犬はこちらを見てブンブンと尻尾を振って、「ワン!」一つ吠えた。

「ど、どういうこったィ…!?」

「土の中から…女が出てきやがったァ!!?」

「・・・・・」



・・・どういうことなの。



昔々あるところに、天の神様と地の神様がおりました。



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