四・結構毛だらけ祢狐灰だらけ




「「…おお。」」

「こいっつ…!(?)キイに化けやがった!!」

「面倒な…!」

感嘆の声を上げる二人のキイと、朧と真知は驚愕と怒りをぶつけるように二人のキイを見る。ちとしは意外に冷静で、互いを見て互いに「おお…」と地味な感動を堪能する二人のキイを見る。
しいて言うなら、ちとしの時は自分に化けた姿だけで恐怖を植えつけようとしたらしい。が、それでもこの短時間でキイの性格やしぐさを(キイは態度が性格を表している為、簡単と言われればそうかも知れないが。)、そして妖怪であるちとしの嗅覚すら化かすのはなかなかに難しいことだ。確かに“化ける”ことに関しては一級らしい。それにしてはやり方が温い手前、やはりそれほどのモノで無いことは伺えるが。

「で?どっちがキイだ?」

「「はーい」」

「まぁそうなるか。」

とりあえずちとしが聞いてみるが、当たり前とでも言うように二人のキイが同時に手を上げた。落ち着いたのか真知は当然だろうと呆れ、朧は「うわぁ…」と心底面倒くさそうな顔をする。

そんな中、この中で一人だけ、心の内でほくそ笑む存在がいた。

勿論、それはキイに化けた狐である。

化け狐は知っていた。キイが半妖であることを。
その正体こそすれ謎ではあるが、仮にも彼は獣で妖だった。そしてちとしの思う通り、化け狐は観察力が鋭かった。だから狐は匂いで嗅ぎ分け、彼女の異端な容姿で、或いは獣の本能、そして或いは妖怪の本能で彼女の内の妖力を見抜いたのだ。

自身が強者でないことは百も承知だ。けれど、

(半妖“ごとき”に…、妖怪が負けてたまるか!)

そもそも女の顔だ。化けられた本人は兎も角、仲間の姿をした人物をそう易々と殴れるだろうか?(ちとしのように変装をした女がいれば別だろうが、そこはきちんと確認積みである。)

だから、この顔を使って半妖をいたぶるか、その仲間を、そして自分を馬鹿にした妖怪の畜生をいたぶるか。そう考えては口を吊り上げて自身の牙を見せないことに専念する狐は気付かなかった。気付くべきだった。


めごっ。


自分の、否、キイの顔に入った見事なストレートに。

【!?!?!?!?!?!???】

そして、自身が化けた張本人の拳だと言うことに。


【なっ、なぁっ・・・!?!?!?!】

「おーコッチが偽者か」

「やっぱコイツが一番わかりやすいわなあ」

そういう真知たちと、ブンブンと肩を振るキイに、すでに顔面が半壊した顔を抑えて狐は絶叫する。自身が負けるわけが無いと自負した相手に、あっさりと一撃をかまされてしまったのだ。

「言い忘れてたがなあ」

ぽん。とキイの頭に手を載せて、その謎、否、怪奇現象を解説してくれるかのようにちとしが声をかけた。

「うちのリーダーはコレでも鬼の半妖だからな。ついでにこん中で一番強いのコイツだから。

手っ取り早くガチンコしてくれりゃ助かるのよ」


【お、鬼…!?んなばかな…!!】


そんな小奇麗な顔した半妖(バケモノ)なんて、聞いたことが無い!!
こんな力に満ちた半妖(バケモノ)なんて、見たことが無い!!

【ふ、ふざけんな…!こ、こんなこと・・・!半妖が、妖怪に勝てるわけ…!!】

「コッチから言わせてもらうとねー」

キイが、一歩近づいた。パキリ、と関節が悲鳴を上げた。

「半妖(バケモノ)なめんなよ。」

言われればその無表情が、そのやる気の無いはずの顔が、冷たい視線に、鬼の視線に見えてきたかも知れない。ひくり、と狐本来の表情が(勿論恐怖に満ちた表情である)キイの顔を借りて現れたときだった。






「あ!」

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