場所は変わって人一人いない空き地。この町に唯一学校から近く人気の少ない場所。啓介はそこにいた。キョロキョロと首を回し、誰もいないことを確認する。そして、呼んだ。

「チビ」

「にゃあ」

出てきたのは小さな子猫。
子猫が啓介に近づけば、啓介はカバンから袋と皿を取り出し、皿に袋の中にある煮干しをバラまいた。子猫はその煮干しにがっつく。

「おいしい?」

「にゃあ」

啓介が子猫に触れれば、動物独特の暖かさ――ではなく、ひんやりと冷たい体。
これを感じる度に啓介は少し寂しくなった。しかも今日はキイのあの言葉を聞いてからは特にだ。

『キミの"匿ってる"猫、あまり関わらないほうがいいよ』

"飼ってる"じゃなくて"匿ってる"

なぜ、彼女はこの猫の存在を知っているのだろう?
なぜ、彼女は“この猫が捨て猫だということ”を知っているのだろう?

チビが妖怪の類だと言いたかったのだろうか?

確かに動物としてはおかしいのかもしれない、でも自分はそんな動物に詳しいというわけではないので、これはただの体質なのだと思ってた。
でももし、もしチビが妖怪なのだとしたら―――

『アレはキミとは一緒にいれない』

「って、何考えてんだ僕は」

そこで、啓介は我に帰った。
むしろそれで信じるほうがどうかしている。たかだか一般の少年に、それを受け止められるわけがなかった。

「有り得ないじゃないか」

――チビは、ぼくの唯一の友達なのだから。

「有り得ないよ…」

大きく丸い猫の目は、真っ直ぐに啓介を見つめていた。





――翌日。


「……………(いやまぁ)」

「よう佐々木ぃ」

「昨日はよくも逃げてくれたなぁ」

こうなるのはわかってたけどさぁー――――(涙)

「俺たちの貴重な昼休み潰してくれやがったって」

「ちょーっと顔貸せ」

「(ひいいいい)」

校定の門でものすごい形相で待っていたのはあの先輩達。名倉に胸ぐらを捕まれ強制的に引きずられていく事態(否、足がついてない)に、啓介は悲鳴を(心の中で)あげるしかなかった。

昨日のクラスメイトの言葉が蘇る。

――フルぼっこだろうねー

「(うわ〜フルぼっこ…)」

「どこ行くよ?」

「ついでにサボるべー」

涙ながらに先輩二人の会話を聞いていた。けれど、次の予想も出来なかった言葉は彼の耳を掠め、流すことはできなかった。

「あ、じゃあ空き地行くか」

「あ〜まぁ今の時間なら誰もいねーかぁ」

「つかアソコ普段ヒトいんのかよ!?」

笑う二人の下で、彼は自分の肩が震えているのが分かった。
この町にある、この学校に近い空き地など一つしかない。
そう、あの、自分の唯一の友達がいる―――

「ま、って下さい!」

「うるせぇっ!!」

「!」

バンッ

怒鳴り声と共に瞬間的に鋭い痛み、殴られた。後から鈍い痛みが啓介の頬をゆっくり渡る。

「ネクラのクセに調子のってんじゃねぇよ!」

「黙って俺らのいうこと聞いてりゃいんだよ!!俺らとテメェの立場わからせてやる!!」

「…っ」

渾身の一撃に、頭がグラつく。必死の抵抗も虚しく連れて行かれる。

恐怖と痛みでブレる視界に、白が掠めた気がした。



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