場所は変わって人一人いない空き地。この町に唯一学校から近く人気の少ない場所。啓介はそこにいた。キョロキョロと首を回し、誰もいないことを確認する。そして、呼んだ。
「チビ」
「にゃあ」
出てきたのは小さな子猫。
子猫が啓介に近づけば、啓介はカバンから袋と皿を取り出し、皿に袋の中にある煮干しをバラまいた。子猫はその煮干しにがっつく。
「おいしい?」
「にゃあ」
啓介が子猫に触れれば、動物独特の暖かさ――ではなく、ひんやりと冷たい体。
これを感じる度に啓介は少し寂しくなった。しかも今日はキイのあの言葉を聞いてからは特にだ。
『キミの"匿ってる"猫、あまり関わらないほうがいいよ』
"飼ってる"じゃなくて"匿ってる"
なぜ、彼女はこの猫の存在を知っているのだろう?
なぜ、彼女は“この猫が捨て猫だということ”を知っているのだろう?
チビが妖怪の類だと言いたかったのだろうか?
確かに動物としてはおかしいのかもしれない、でも自分はそんな動物に詳しいというわけではないので、これはただの体質なのだと思ってた。
でももし、もしチビが妖怪なのだとしたら―――
『アレはキミとは一緒にいれない』
「って、何考えてんだ僕は」
そこで、啓介は我に帰った。
むしろそれで信じるほうがどうかしている。たかだか一般の少年に、それを受け止められるわけがなかった。
「有り得ないじゃないか」
――チビは、ぼくの唯一の友達なのだから。
「有り得ないよ…」
大きく丸い猫の目は、真っ直ぐに啓介を見つめていた。
★
――翌日。
「……………(いやまぁ)」
「よう佐々木ぃ」
「昨日はよくも逃げてくれたなぁ」
こうなるのはわかってたけどさぁー――――(涙)
「俺たちの貴重な昼休み潰してくれやがったって」
「ちょーっと顔貸せ」
「(ひいいいい)」
校定の門でものすごい形相で待っていたのはあの先輩達。名倉に胸ぐらを捕まれ強制的に引きずられていく事態(否、足がついてない)に、啓介は悲鳴を(心の中で)あげるしかなかった。
昨日のクラスメイトの言葉が蘇る。
――フルぼっこだろうねー
「(うわ〜フルぼっこ…)」
「どこ行くよ?」
「ついでにサボるべー」
涙ながらに先輩二人の会話を聞いていた。けれど、次の予想も出来なかった言葉は彼の耳を掠め、流すことはできなかった。
「あ、じゃあ空き地行くか」
「あ〜まぁ今の時間なら誰もいねーかぁ」
「つかアソコ普段ヒトいんのかよ!?」
笑う二人の下で、彼は自分の肩が震えているのが分かった。
この町にある、この学校に近い空き地など一つしかない。
そう、あの、自分の唯一の友達がいる―――
「ま、って下さい!」
「うるせぇっ!!」
「!」
バンッ
怒鳴り声と共に瞬間的に鋭い痛み、殴られた。後から鈍い痛みが啓介の頬をゆっくり渡る。
「ネクラのクセに調子のってんじゃねぇよ!」
「黙って俺らのいうこと聞いてりゃいんだよ!!俺らとテメェの立場わからせてやる!!」
「…っ」
渾身の一撃に、頭がグラつく。必死の抵抗も虚しく連れて行かれる。
恐怖と痛みでブレる視界に、白が掠めた気がした。
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