「はっ…はぁ」

「足早いねぇ、キミ」

先輩が後ろを向いてる隙に、啓介が少女の腕をつかみ、全速力で廊下まで走った。そして現在、廊下にいる。昼休みのため、まばらに生徒がそれぞれの時間を過ごしている。
ちなみに言うまでもなく啓介は息をきらせているが、少女は息ひとつ切れずに無表情でもう一つの焼きそばパンを頬張り始めた。

「(…なんで一緒に走ったのに全然余裕なんだ?)た、助けてくれてありがとう…。

高橋さん」

ここでやっと主人公紹介。
彼女の名は高橋キイ。

なぜ啓介がキイを知っているか。それは啓介とキイがクラスメイトだからだ。とは言っても、まっ白い髪の生徒なんて一目見たらなかなか忘れるものではないだろうが。
啓介が入学式で一番最初に目にはいったのがその純白の髪で、クラスメートで一番最初に覚えたのが彼女である。

だかしかし、キイはきょとんとした顔を啓介に向けていた。

「…………………誰?」

「………」

一応言っておけば、入学して同じクラスになってから2ヶ月はたっている。増してや新入生と言うのは初めてのクラスメートも覚えやすいもののはずである。

――それでも未だに覚えられてない自分って。

苦笑しながらも、とりあえず自己紹介を最優先するべきなのは分かった。

「お、同じクラスの佐々木啓介です」

「うん、そっか。
まぁ良いってことよ。焼きそばパン食べれたし」

ご馳走様。そう言ってキイはスカートをパンパンとはらった。

「(そんなに好きなんだ焼きそばパン、まぁボクも好きだけど。二つも食べちゃうんだもんなー…って)

…………ん?」

そこで、啓介は思考を停止した。

――焼きそばパン、二つ、先輩、二人、パシリ、ゴリラ、パン、食べて、

逃亡………。

殺 さ れ る


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「?」

「どうしようボク殺される殺される殺される!!」

頭を抱えてわめく啓介。
キイはああ、と呑気に言い放った。

「さっきの?まぁあれだけやったから、今回は逃げたからいいけど次会ったらフルぼっこだろねー」

「そんなあああ!!」

事の元凶の、まるで他人ごとのような発言に啓介は悶えた。そんな彼を見てキイはワイシャツの胸ポケットから紙を取り出し、渡した。

「まあ落ち着きたまえよ佐々木クン。お礼といっちゃなんだけど、そんなヘタレ眼鏡なキミにはこれをあげよう」

「?…紙…?(なんか、さり気なくひどいこと言われた…否定できないけど…)チラシ…」

キイから受け取った四つに追ってある紙。それを開けば、どうやら何かの広告だった。

「妖万部(アヤカシヨロズブ)?」

チラシの一番上には大きな文字で【妖万部】。

その下にはつらつらと文字が書かれてあった。それを目で読む啓介に合わせて、何故かキイがその文を語り出す。

「『うち達妖万部は妖(アヤカシ)に関わる、とにかく妖しい事ならなんでも解決しちゃう、とーってもスゴい部活でーす。例えばー、

『自殺しちゃったイジメっ子に呪い殺されそう!』とか、

『トイレの花子さんが怖くてトイレにいけない!』とか、

『お供え物つまみ食いしちゃって祟られる!』などなどー。

勿論幽霊や妖怪でも依頼可能でーす。でもー依頼してくれた人や妖怪達には必ず言う忠告がみっつありまーす」

キイは指をたてる。

「ひとつ『人間に忠告
妖《アヤカシ》此侮るなかれ』」

「ふたつ『妖怪に忠告
人《ヒト》此侮るなかれ』」

三本、たてた。

「みっつ『人間・妖怪に忠告

――"化物"《バケモノ》

此侮るなかれ』」

手を下ろし、彼女は続けた。

「《人を呪わば穴二つ。》誰彼構わず喧嘩ふっかけんなよってことですねーまあそんなわけで、

あなたの妖怪現象解決します」



「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「とまぁそんな感じで、
なんかあったらこの妖万部"部長"キイちゃんが相談にのるぜ」

――部活の宣伝かよ!!

ビシーッと今度は親指を啓介にてたキイ。ハッキリ言って意味が分からない、というか。

「今、それ、関係なくないですか…?」

そういって啓介は涙ぐんだ。
言うまでもない。確かにそれと、ましてや妖怪なんてオカルト部活とは全く関係がない。
しかしキイは、突然啓介の顔をズイと覗き込んだ。
整っている彼女の顔が急に近づいたため、啓介は思わず肩をビクリと震わせほんのり頬を赤らめる。

しかし次の言葉に、目を見開いた。

「キミが"匿ってる猫"、あまり関わらないほうがいいよ」

「!」

「アレはキミとは一緒にいれない」

「え…」

「じゃ」

「ちょっ待っ…!」

「信じるか信じないかはあなた次第ー」

「都市伝説!?」

「あとさぁ」

呼び止める啓介の声に反応したのか違うのか、キイはピタリと止まり彼へと向き直った。

「キミはそんな、弱くないんじゃない」

「え…」

「だってうちのこと、助けてくれたし」

「じゃ、」そう言って、今度こそ教室へと姿を消した。

「…………弱く、ない」

彼女の言葉は、何故かストンと啓介の中に収まった。

別に、彼女のいうことを鵜呑みにするほど、自分を"弱くない人間"なんて思っていない。
ただ、釣られた。といえばいいのだろうか、キイの無表情かつ落ち着いたはらったアルトが、落ち着きを取り戻し、すんなり彼の脳内へ入ることを許可していた。

だからこそ、彼は脳内を落ち着いて整理して、ひとつの疑問と、ほんの少しの不安感を見いだしたのだ。

「……なんで」

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