「いい加減にせぇこんアホンダラあああああああ!!!」

眼帯が触れられる前に、その怒鳴り声によって遮られた。全員がそちらを見れば、狐に抱えられたまま顔を真っ赤にして息をつく志。

狐はすぐそこで起こった爆音に一瞬意識が飛んでいた。しかし直ぐに回復し、暴挙に走った彼女を必死に押さえようとする。
しかし狐の努力も虚しく、志はドッペルゲンガーを指差して変わらない音量で怒鳴り散らした。

【お、おい…!】

「なんやいきなりぽっと出たいくせにつけやがりやがって!!
キイちゃん達になにすんねんこんオタンコナスビこれ以上調子づおってるといてまうぞこら!」


「………………………志がキレた…」

「久々に見たな…」

「…?」

初めてでは無いらしい妖万部がおのおのの感想を呟くなか、キイがとある変化に気が付いた。腕を掴む手には力が無く、むしろ何故か震えていた。
志を見ているドッペルゲンガーの表情は見えない。

「なんなんやねん、さいぜんまでぇうちのこって狙ってたくせに的かえやがってからに!いっつもそうや、毎度毎度私を通してキイちゃん食べようとすんなバカあ!!」

「………………」

「アンタなんか嫌いや!狙おんやったらしまいまでぇ突き通せ卑怯者!弱虫!私は逃げへんよってにな!なあんもしやんでぇ逃げるだけのアンタになんかに負けへんよってにな!

キイちゃん食べようとするアンタなんか、だいっきらいやあ!!!!

【よせっ!!】

その時、ドッペルゲンガーの空気が変わった。ざわりとそれは揺らめき、キイの姿がみるみる変わる。再び収まったそれは、志の顔。

志の姿に変わったドッペルゲンガーは、キイの手を離し真っ直ぐ跳んで行った先は、同じ顔。それに気づいたキイ達はすぐさま向かおうとするが、ギリギリだった。

瞳孔が開き、手を伸ばして志に飛びかかろうとした。







チリッ

その手が、指が、突然青い光で焦げた。

「!!!」

「あ、…!」

ぼうっ、と自身を包んだ炎と共に志の前に出て、守る為に手を広げた。
キイの姿を借りた獣。

【っ…………】

大粒の汗が頬をつたい。どこか苦しそうな狐は、それでも炎を止めずドッペルゲンガーを同様に包み込んだ。

【…触るなっ!】

精一杯の、そして最大の声でドッペルゲンガーに吠えた。炎の勢いは増して、二人の周りを禍々しい青が取り囲む。
しかしドッペルゲンガーに大した変化は見えず苦しむことももがくこともせず、志だけを見つめている。そして伸ばした手をキュッと握り、

「………!」

一筋の涙を流した。
“彼”は炎に溶けるように静かに黒い煙と化して消えていく。




その顔は、悲しそうだった。

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