校舎裏。
そこには男子生徒が三人。
そのうちのひとりは眼鏡をかけた、気が弱そうないかにも苛められっ子の雰囲気を漂わせた少年だった。
現に、一年・佐々木啓介は只今パシられ中である。
「おい佐々木ィ!さっさと焼きそばパン買ってこいやぁ!」
「お仕置きされたいのかなぁ!?」
開口一番に怒鳴ったのは、人工の金髪、毛先に黒のメッシュがかかった細身の男子。
元ボクシング部、現在不良の二年・堂本響。
そしてがたいの良い長身の男子は、同じく元ボクシング部、現在不良の二年・名倉仁。
「すっすみません!今行きます!」
――変わりたいと思ったのは、いつからだっただろう?
最近、彼の脳内を過ぎるのはそればかりた。
根暗で空気で弱虫で、そんな彼が先輩に目を付けられるのは当たり前なのかもしれない、いつの時代だって弱いものは虐げられる。
いつからだったなんて、今更。
――弱い自分が嫌いだ。
断りたいのに殴られるのが怖くて断れない、嫌だと言いたいのに動く体はいつも思ってることとは逆で、結局殴られることには変わらないのに。
「おまっ、たせ…しました…」
「おせーぞ佐々木ィ。5分もたってるじゃねーか」
「こりゃお仕置きが必要だな!」
「……っ」
――嫌いだ。
――こんな弱い自分が、大嫌いだ。
「お前の為なんだぜ佐々木」
そんな理不尽で殴られるのも、変わらない。
「歯ぁ食いしばれや!」
この鈍い痛みもいつもの…、
「!!」
―――どたっ
「いてっ!」
「!?」
拳がふりかかることはなかった。その代わり、高いとも、低いとも言えない声がふってきた。
そのあとすぐに鈍い音と一緒に胸ぐらを捕まれてた手は離れ、今は地面に尻餅をついていた。顔をあげて視界に映ったそれは、
――女子!?
顔を上げて一番に眼に入ったのは、綺麗で真っ白い髪の毛、揺れるスカート、ワイシャツのすそを出し女子用のリボンではなく男子用のネクタイ。
とにかく変わった容姿をしたその少女は目の前の大男(名倉)の拳を片手だけで受け止め、もう片方の手はパシられて買わされた焼きそばパンを持ち、なにくわぬ顔で頬張って、
――って。
「高橋さん…!?」
「あ゛!?んだこのしらが頭!」
いや、その前に大の男の拳を片手で受け止める、それ自体が有り得ない。
彼女の細腕のどこにそんな力があるんだ。
「白髪、ねえ…」
ポツリと少女は、呟いた。
「悪口の発想が短慮すぎですね。」
「あ”!?」
「それに美味しいものを弱いコに脅してパシらせるゴリラみたいな顔の人に言われたくありません。」
「はあ!?」
「ていうか五月蠅くて寝れないから余所でやってくださいゴリラみたいな顔しやがって」
――ゴリラ二回言った!
「んだとコラァァァァ」
「ゴリラ二回も言う必要ねーだろがああちょっと傷つくだろがあああ」
「ゴリラっぽい人にゴリラ言ってなにが悪いんでしょうか?あー、せんせーここにゴリラがいまーす動物園に連行してくださーい。」
「ゴリラ五回言ったぁああ!ゴリラいいきったあああ!」
「つーか、先公いんのか!?」
一人は半泣き、もう一人は慌てて振り返ったが、誰もいない。
「てめぇ!いねーじゃね…ってあれ?」
そして、二人もいなかった。
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