志の体が包まれた。それは彼女より小さな体だった。眼前にはいつ見ても綺麗だと感じた、真っ白い髪。
抱きつかれたことで二人一緒に宙に舞い、地に着く前に、
ズドン・・・!!
けたたましい轟音が体全体を響かせた。
それは先ほどまで志が居た場所。そこには留まっていたはずの電柱が倒れていて、志の眼鏡はそれによって跡形もなく砕け散った。
震えながらもぼやける視界で必死に状況理解しようとする。あれはきっとドッペルゲンガーで、霊力の高い志を襲うとして、助けてくれたのが、
上を見上げれば、いつもは頼もしいの少女の姿。けれど。
(…………?)
そんな志の眼差しに気づかないキイは、確かにキイじゃなかった。そしてキイの姿をした獣は脅えていた。
耐えるように、守るようにぎゅうと細い腕で、震える腕で志を抱き寄せ、電柱を跨いだ先を睨みつける。
彼女の姿で、妖しく口を耳まで引き寄せる形のそれは三日月を思い出される。偽志、もといドッペルゲンガーは、さらに口端を吊り上げ、一歩近づいた。
【!】
スパン!!
そのとき、ドッペルゲンガーの顔が歪んだ。
ドッペルゲンガーの顔には刃が突き刺さり、黒い煙となってゆらりぐにゃりと空気に溶ける。
刃はキイの刀。彼女がそれを渾身の力で凪払えば、偽志の半身が吹き飛んだ。
「!」
「なっ、」
しかし、煙が集まりキイの手に絡みついたのは確かにドッペルゲンガーの手。形を取り戻したソレは標的を変えた。キイの姿でニヤリと唇が歪んだ。
メキメキ、メキ、
「!!!?」
今度は公園の柵のそばに立っていた大木がキイとドッペルゲンガー、そして妖万部の頭上で大きく傾き、メキメキと悲鳴を上げていた。
「うおわあああああ!!」
「みんな!キイちゃあん!!」
【…………………!!!】
さっきより大きな地響きがキイ達を襲った。志はつんざくような悲鳴をあげて、狐は目を見開いてそれを見届けるしかない。
煙がまい、辺りが晴れた場所は、
【…………まじ、かよ…】
キイが、片手で身の丈何倍もある大木を受け止めている。
その下では妖万部が息を呑んで自分たちを覆う影を見上げ、朧にいたっては腰を抜かし魂が抜けていた。
片方の腕は大木を、片方の腕は捉えられたキイと目が合うとドッペルゲンガーはまた笑う。
今度は何をしようと企みかのように、キイの顔を借りた笑みは、あくどい。
「!」
そして、ドッペルゲンガーは空いている手を伸ばした。その先は、キイの眼帯。
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