「みんなここにいたん?」

「え?」

「!!!!」



聞き覚えのある声だった。
そう、それは、『自宅待機』と指示したはずの、今、この場に居るべきでは無い存在。


「志!!!」

星野志が、そこに居た。

ラフな格好にカーディガンを羽織り、走ったのか少しばかり息を切らせている。
しかしその再開に喜べるはずもなく、キイと、今度こそ腰が抜けたと言わんばかりの狐(いまだキイの格好をしている、キイのキャラ的な意味での顔面崩壊寸前の姿である。)以外の人間が憤慨した。彼らが志に対して過保護な面は否めないが、仮にも物騒な場所で、しかも霊媒体質な志がこんな夜道をここまで来たと言うことにだ。

「こんの…ッ!!馬鹿女!なんで来た!来るなってあれほど……!」

「手前な、立場わかってんのかあ”ん?喰われたいのか?巣に放ってそのまま放置してもいいんだぞ?お”?」

「ただでさえ可愛ンだから下手したら狼共に喰われちま…って、お前らこわいこわい!!落ち着けほら星野ちゃん半泣きだから!!!」

主に“オカン”とキイに名づけられた真知と夜の本来の姿で静かにキレるちとしは志にとって恐怖の対象でしかない。叱りたい朧でさえ、やんわりとフォローに入らなければならないほどには、彼女が友人であり、大切な存在だからだ。

しかし、恐怖で目にいっぱいの涙を何とか零れないように、志は恐る恐ると口にする。

「そ、そやかて…電話で、『会いたい人に会わせてあげるからおいで』って…



藤重くんが・・・・・・・・」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」

いっせいに向けられた視線に、いままで志のフォローをしていた藤重朧の穴と言う穴から、滝のような汗があふれた。恐怖と、混乱と、殺気で。


「私、ちゃんと聞いたよ?『出ても大丈夫?』って…そしたら朧くん、『大丈夫だからおいで』って・・・

わ、私それで・・・」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」

「ほ、ほほほ、ほし、ほし、ほし、の、ちゃん!?じょ、冗談にもほどがあ……ぎゃアアアアああ待て待て待て!!誤解だ!!!オレがいつ連絡とる暇あったよ!?!?コッチいっぱいいっぱいで携帯すら取り出せなかっただろが!!!」

悪魔すら裸足で逃げ出しそうな顔二名に近よられ、ちとしが無言で胸倉を担ぎ上げた途端朧が絶叫した。
いくら女好きの朧だと言え、否、女好きでありフェミニストだからこそ志を危険な目に会わせることはないはずだ。
しかも今の朧はちとしと真知の形相に悪魔に命乞いをする勢いだ。嘘をついているようには見えなかった。


そして、それは証明される。


コツン、と。安い革靴の音を、志の聴覚は捉えた。


「――――……え、」

志は、自分を見ていた。振り返った先に居た、自分を。
その志は制服だった。あの時、そう、不良に絡まれたときと同じ格好。
制服の志は顔を上げ、私服の志と視線を交わすと、ニコリ、と彼女らしい笑顔を作ってみせる。けれど志は、なぜか落ち着かなかった。自身と正しく向き合っている状況が珍しいからか、ムズ痒いからか、違う。これは―――…悪寒?

志は近づいた。制服の志だ。こつ、こつ、と近づくたび音が大きくなる。なぜか高鳴る心臓に、志は思わず後ずさる。

「っ…?」

動機は収まるどころか速さをました。背中からイヤなものがゾクリとざわついた。

ねえ、知ってる?ドッペルゲンガー

自分と同じ顔の人間に会ったら死んじゃうってやつ。


動きたいのに動けなかった。
目を逸らしたいのに、逸らせなかった。

真っ直ぐこっちを見てくるの。

同じ顔は笑っている。

ただただ、静かに。

不慮の事故にあって死んじゃうとか、自分と同じ顔に、顔を食べられちゃうって。

それは立ち止まった。ジッとこちらを見ている。

自分じゃない誰かが自分に成り代わったように。



本当の自分が殺されたことも、知らされないまま。




それは、“笑った”。




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