「いやぁ、なんかすまんかったなあ!」

ガハハハハハ、そんな笑い声が部室の外から聞こえた。

否、正確には"半壊した"部室の外で、大坊主と六右、対に妖万部、そしてキイの肩にはなぜか通常より一回り大きいカラスが乗っている。その大きさでキイの頭がより小さく見えた。

「おれ山本様の家来になりたくてよー、けど会い方も知らねーからそのへんにいるやつに片っ端から聞いてたらヒョッコリ現れた小坊主が『いい話がある』ってんでなー!」

「…で、『こいつ(六右)を捕まえれば家来になれる』らへんの事を言われて」

「真に受けたと…」

「馬鹿だねー」←何気に妖界を救った(?)奴

「馬鹿だなーおれは!ガハハハ!」←何気に主犯になりかけた(?)奴

(((軽いなお前ら)))

仮にも妖界の長の子が暗殺されかけたのに、何気な主役(?)たちは随分と暢気だ。

「全くだ、おれのレディにこんな大怪我させやがって」

「黒和(クロト)」

若干怒った、若い男の声がした。それはキイの肩に乗ってるカラスで、肩から降りると、『ぼんっ』という音と共に煙が舞った。煙と数枚のカラスの羽から現れたのはカラスじゃなかった。

背中に黒い羽、黒い襟足の長い髪、身体にはほとんど衣類をまとっていない。上半身は裸、下半身ははかまで、あとは手っ甲と脚絆と言う、現代には異様しかない男だった。(大坊主もどっこいどっこいだが)

【鴉天狗・駕籠の黒和】

駕籠とは江戸などで使われた乗り物、要はタクシーである。黒和は拗ねたように大坊主を見上げて指差した。

「ったく、若はともかくキイと爺様の頼みじゃなきゃこんなことしねーぞデカいの」

「ん?なにがだ」

「ちゃんと話聞け馬鹿野郎。若をお送りするついでだ、アンタを旦那様のもとへ連れて行く」

「なにぃ!?本当か!」

「ほんとー」

ぺちぺち体を叩く黒和、そしてキイに右へ左へと首を動かす大坊主にコクリと頷いてキイは続けた。

「笑紋は単純だけど、強いし一応六右を助けようとしてたことには変わんないからー。黒和はあの人専用の駕籠(タクシー)で付き人だからついでに紹介してあげればなーって、ぬらりひょんのじいちゃんが呼んでくれたー」

「うおーマジかー!ありがとよー!」

キイがそういうと笑紋が盛大に歓声をあげるなか、「自分は来なかったのかあのジジイ…」と真知がぼやいた。

「なに言ってんだよ、キイ」

薄く笑った黒和はキイの手をとって口づける。真っ直ぐキイの目を見つめるさまはさながらホストのようで、そして顔が近い。

「おれはキイのためならどこまでも飛んで来てやるぜ。

おまえはおれの惚れた女だからな」

「餓鬼の前でなに口説いてんだストーカー、さっさとそいつら持って帰れ」

ホスト顔負けの黒和(キイは特に無反応だ)に真知が呆れて言うが、瞬間にギラリと烏の目が真知を鋭く指した。

「手前はだまってろデコ野郎。キイの猫だか犬だか知らねえが女もろくに守れねぇ奴がおれとキイの愛に首を突っ込むな」

「来る度来る度女を口説くホスト烏に言われたくねーよ、焼いて喰うぞ」

「まーまー」

お互い顔をギリギリまで近づけガン付けあうそれは、キイに緩く止めらるのが黒和が来る度の日常茶飯事である。

そして、

「じゃあねー六右、ちゃんとお父さんと仲直りしなよーたまになら遊びにおいでー。そのときはおやつ持ってきてねー」

「……」

一言も話さない六右にキイが首を傾げて、むー?ともう一度呼ぶと、暫くして顔を上げた。
六右が見る先は、絆創膏にガーゼ、左腕の包帯を纏った痛々しい彼女。

「…おまえには、借りがある。この借りは、きっと返すぞ」

キイは一度、きょとん目を瞬かせてから口を開く。

「借りとかじゃなくてさあ、六右と、仲直りしたい」

「…え」

見上げて、固まった。

「それで、六右と友達になりたい」

「!!!!!」

珍しく笑ったキイに、六右の中の何かが、墜ちた。急に固まった六右に全員が違和感を覚え、キイはまた彼の顔を覗く。

「むー?どしたー」

「!"!"!"、うっうるっ、うるせぇバカ!バカ!」

「「「「…………。」」」」

「ホラもう行くぞ黒!」

「え?あ、ハイ」

顔を真っ赤に染めて袴をぐいぐい掴んで急かす六右に、一瞬固まってた黒和は直ぐに復活して了承した。

―――惚れたな。

大坊主と、当人のキイ(自覚は無い)以外の心が一致した。
黒和が「流石おれのキイ…」とぼやいていたのは余談である。

「じゃあなキイ、野郎共にちょっとでも触れられたら直ぐに言えよ天誅下してやるから」

「いいからさっさと行けバカ烏」

「うるせーアホ猫」

黒和は自身の黒い羽をひとつ抜くと、手を構えてポツと呟くとブアッと大きく風が舞った。

「キイ!」

六右はキイを呼ぶと、高く手を上げた。

「バイバイ!」

「ではコレにて、御免!」

羽を離すとそれは彼らを覆う程に巨大化し風と共に彼らを攫って消えた。キイも手を振っていた。

「なぁずっと思ってたんだけどさぁ、キイって魔王と知り合いなの?」

「友達ー」

「「ええっ!?」」

「知らなかったのかよ」

「え、真知知ってたの!?」

「…一回だけ会ったことある」

「なぁ魔王ってどんな感じ?」

「「…子持ちのオッサン?」」

「「なにそれ!?」」

六右が、己が惚れた女に借りを返す日は、そんなに遠くない話。





二・家出なんて所詮一日

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