キイは、目の前の"敵"に言い放つ。

「おいでよ木偶の坊。

この【妖万部】部長、半妖"鬼"の高橋キイが、全力で貴方をお相手しましょう」

その演技がかった口振りは、ボロボロなのに、凛と立つその姿は綺麗で、カッコ良かった。

"大丈夫。"

何故だろう、この女(ヒト)が"大丈夫"と言うのなら、"大丈夫"な気がする―――。

「がっはははぁ!!!」

大坊主は一瞬目を見開くが次にはニヤリとしてから大きな声で笑い、ドスンと盛大に足を踏み相撲取りのように構えた。

「コイツぁいい、さっきの人間以上に笑える半妖だ!!いいだろう妖万部!
おれの名は"大坊主"【笑紋(ジョウモン)】!
名を教えあったからにはおれも、お前さんの笑いに称え、

全力で――――」

ぐぐ、と巨大な脚に力が満ちたとき――

"お前を倒すぞ!"

ゴゥッ、と風がおこった。
真っ正面からやってくる、見えなくとも、大きな力。

「キイー――――――――!」

六右の声と同時に、キイが腕をあげた、瞬間――。

爆発かと思うぐらいの衝撃が、風が、辺りを靡く。しかし地に伏すものはいなかった。

「!!?」

キイが、大坊主、笑紋の拳を"片手"で受け止めていたから。

「なっ…なにぃ!?」

真っ直ぐに笑紋を見るキイは、六右を下ろした後、ぐっと巨大な拳を両腕で巻きつける。笑紋はその巻きついてきた腕を慌てて剥がそうと力をいれるが、それは叶わなかった。

「!(動かない!?)」

どんな力を入れても、手が、ビクともしない。

(なんだこの力は)

(なんだこの、怪力は)

チロリと妖の、紅い眼が見えた。殺気じゃない、なのに内が、体の芯が

――『魂』が、震えた。

「"親玉"―――」

(なんだ、この―――――)

「うお゛っ!?」

「あ゛!?」

「―――見破ったり!」

《バケモノ》は!!!

ズダァン!!

「ぬお゛っう…!」

気持ちのいい一撃、所謂、"背負い投げ"。目と口をかっ開く六右と、投げられた笑紋。手をはたいたあと、ムフンと鼻息をあげてこちらを見下ろすキイの近くで、いつの間にか佇む朧とちとしがいた。

二人は駆け寄り、朧はキイの頭をクシャリと撫でた。

「ったく、ムチャクチャしやがってお前は」

「あとで真知に怒られるよー」

「そん時は朧のせいにするー」

「え゛!?」

「…………」

笑紋は起き上がろうとした。しかし頭からモロに落ちた衝撃、増してやその巨大な図体が仇となったか、躯全体がビリビリとしびれ、また直ぐに落ちた、動けない。
笑紋は確信する。

―――決着は、呆気なく着いてしまったのだ。

「…なんてこった」「負けた。」

ドスンと巨大な体を完全に地に預け、(町の中なのにうまい具合に)唖然と空を仰ぐ呟く笑紋はポツリと呟いた。

キイは、彼の頭のそばでしゃがんだ。

「うちら(妖万部)はねー、関わったヒト達に、必ず伝えることが三つあるのよー」

顔を上げて、小さな半妖の少女を見上げる、指を三本たてていた。

「『一つ、人間に忠告
妖《アヤカシ》此侮るなかれ

二つ、妖怪に忠告
人《ヒト》、此侮るなかれ』

ほんで三つは、『人間と妖怪に忠告

"化物"《バケモノ》

此、侮るなかれ』」

"化物"がなにを差すか。

笑紋は既に分かりきっていた。なのにあまりに清々しい顔が、"敵"とは思えなかった。

「…がははっ!こりゃあ完全におれの負けだぁ!」

吹っ切れたように笑う笑紋、薄く口元をあげるキイ。

これで、一件落着「な、わけ、

あるかー――――!!」

突然叫んだのは小坊主だった。
しかし小さいせいか、辺りを見渡しも見つからない、と思ったら、笑紋の下から、声が聞こえた。

「ん」

「あ?」

「ああ、そういやいたなこんなちっこいのが」

「なぁにをやっておる大坊主!敵に負けを認めてどうする!坊ちゃんを早よう奪え馬鹿者

そして降りろ!!」

キーキー怒鳴る小坊主は笑紋の下敷きになっていた。と言うより、キイに背負い投げされた笑紋の巻き添えになっていた。この巨大に押し潰されて無事な理由が定かではないが。
因みに、キイが狙ってヤッたのかも、また定かではない。

「いやぁすまん、体が動かん!」

「動かんじゃねぇわ、このデカブツ!『旦那様』が待ってるというに!なんのために貴様をやとっ……………て」

小坊主が怒鳴るのをやめたのは、目の前にキイがいたから。何故だろう、ただこちらを見下ろしてるだけなのにとてつもない寒気、否、悪寒が、己の背筋を震わせる。

なにより、彼女の"種族"を、知ってしまったのだから。

「ねー、ちっこいオッサン」

「な、ちっこ……!」

「『旦那様』ってだーれ?」

「…かっ!半妖如きが気安く」「ああ?『旦那様』は山本様だぞ!」おいいいいこのデカブ…」

「ふーん」

ビクッッ、

肩が痙攣した小坊主、キイの妖怪じゃない目がキラリと光ったように見えた。山本様、つまり六右の父親であり妖怪の長である。
さてそうなると、いよいよ話がおかしくなってきた。

「え、は?どゆこと!?
あんたコイツ(六右)の刺客じゃないの!?」

「あ?なにをいってんだ?
刺客はお前さん達じゃないのか?坊ちゃんをさらって」「ねーよ!むしろその逆だよ!護衛!だいたいそんなの誰から聞いたんだ、魔王本人か!?」

「だからー『坊ちゃんを連れ戻すように』って、山本様の言伝だって、

小坊主が………」

「「「・・・・・・」」」

「あれ?」

キイが気がついた先には、いつのまに抜けたのか、ていうかどうやって抜けたのか、小坊主がそそくさと角のほうへ逃げている。

「あ!逃げた!」

「待てコラジジイ!」

「チビじじい略してチビじい!」

…まぁ、『チビじい』は余談だとして

「誰が待つか畜生!(誰がチビじいだ!)」

悪態をつきながらも、小坊主はただ逃げることを優先とした。伝説と化したものと思っていた。

彼女の"種族"を、知ってしまったのだから。
彼女の"種族"を、貶してしまったのだから。

ゾクリ、とその通り身の毛がよだった。

生きて帰れるかも、解らない。

「こうなったらあの大刀小僧に送った奴ら(妖怪)集めて…」

――――ずんっ

「よう、呼んだか」

「ひいいいいいいいッ!?」

目の前を遮ったのはその大刀、真知が小坊主を見下ろしていた。

知らなかった。
今ならあの娘以外に、怖いものはないと思っていたのに。

「へー、つまり?
『旦那様』のフリしてあのデカいの利用して、
テメーだけ楽して天下盗ろうとしたんだ?

なぁ"親玉"?」

「あ、あ、ぁぁあぁ…」

はっきり言って、怖い。

「おー真知お疲れー」

「お疲れじゃねぇよチビ。なにまた大怪我してんだ!!」

「一番のチビはそこのチビじいだよ」

「ま、ままま待て落ち着け!聞け!

坊ちゃんは家出していたのだろう!?だからだ!だから山本様が誤りたいから連れ戻せと…!」

「そーゆーヒトじゃないよ」
「あのヒトは、すぐ誤るほど弱くないし、連れ戻せとか言うほど、強くもないよ」

振り返ると、真っ直ぐに小坊主の目を見て言ったキイ。
眼が離せなかった。威圧感のような、でも殺気とは違う、強い眼。

「ってわけで、真知」

「ほらよ」

「あ゛!?」

ヒョイと摘まれた小坊主は、恐ろしいものを、見た。いつの間にか出したのか、自身の刀、閃紅を、まるで野球のバットのごとくググッと構えるキイを。

「き、貴様まさか…!?待て待て待て待て!!」

「へいっ」

カキーンッ


あああああああ……


小坊主は空高く舞い、そして星になったのだった。

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