ぶっ

唐突に生じた音に真知が眉を寄せ、それを見上げた。その発信元が、大坊主からだったためである。

「ぶわっはっはっはっは!!!」

大坊主は勢だいに笑った。
笑った。ということは、先ほどはのは思わず吹き出した音らしい。
この状況の中、笑う接点がどこにあったのか。真知はおろか、相棒である小坊主や妖怪たちも意味がわからないと目をまたたかせている。そんな彼らを気にもとめず、大坊主は笑いに笑ったあと、真知を指差して言った。
その表情は嬉しい、というより、楽しいという表現が強面の顔に溢れでていた。

「なかなか面白いなー人間!あんなデッカいの吹っ飛ばすって…雑草かよ!!

あ!ここ笑うとこ!!
ぶっふはっはっはぁっ!」

((なんだこいつ))

真知とその他の妖怪がそう思ったのは、言うまでもない。

「しかしよぉ人間。確かにお前ぇさんは強い笑える男だ、笑えることは大好きだおれは!だから人を驚かすのが好きだし、驚かしたときのびっくりした顔は笑えるから大好きだ!!」

「だがなぁ!」

「…………?」

大坊主の空気が、変わった。

「おめぇ…おれのもういっこの得意なもの……知らねぇな?」






「………………オッケー。前方左右異常なしっ」

ひょっこり茶色い頭を壁の角から出して周辺を確認したのは朧だった。
囮(真知)(しかも一方的)に気をとられている妖達を見計らい、なんとか人気の少ない場所へ出たキイ達。ちとしは朧の言葉に安堵の息を吐く。

「とりあえず撒いた…かな?」

「また来るだろうがとりあえずはな。しっかしこれを夕方までやんなきゃいけねえのか」

そう言って朧がジト目で睨みつけた先は、キイに襟足を掴まれながらもそっぽを向いている六右の姿だった。

「まず学校どうすんだよ。部室なんか半壊してるぞ?」

「そこは多分テツがなんとかしてくれるよ」

「―――フン。莫迦な奴らじゃ。」

「きさまら人間がおれら妖にかなうわけがなかろうが。どうせすぐに見つかって喰われるのがオチじゃ」

けっ!と悪態をつく六右に反応はそれぞれだったが、(朧は「くそがき…」と六右を睨んで←まだ根にもってる)(ちとしは朧をおさえていた)一番見事に態度が変わってないのはもちろんキイだった。

六右をじぃっと凝視していたが、ようやく口を開く。

「…きみさぁ」

「(ビクッ)…な なんじゃい」←若干トラウマ

「なんで人間嫌いなの?」

((いきなり核心キタ――――!!))

朧とちとしはあ゛っ!と驚愕という表情をそのまま表した。
一方六右はその質問に一瞬固まったが、その意味を理解した途端今度はジワジワと顔を歪まし、反抗的にな態度にでる。

「なんでって……、きさまには関係ないだろ゛っ!?」

「いいから答えろよ」

((脅迫だ――――!!))

が、またもや六右の細い首をキュッと締め上げ強硬手段に移るキイは朧とちとしが思った通り、周りから見てもこれは紛れもない脅迫だった。

「"人間好きの"おやじさんの息子が、なんで人間を嫌っちゃうの」

その言葉に目を見開いた。なんで知ってる、そんな目だった。

「プリンどうこうが本当かは知らないけど、それで家出したんじゃないでしょ」

「…」

「え、そーなの?」

「そーなの」

「でもなんでキイが知って…」

「…………おれだって」

顔を(それはそれは気まずそうに)歪ますあたり、図星らしかったが、朧が聞き返す前に、先に六右が呟いた。

「おれだって最初っからきらいじゃなかった…。おやじが人間を好きなように、おれも…人間がきらいじゃなかった」

ギリ、とキイの腕に力いっぱい爪をたて睨みあげた瞳は、憎しみと、どこか悲しみが混じった瞳だった。

「きさまらに………っ!人間に裏切られるまではな!!」





「おやじ!」

出来るだけ大きく、出来る限り届くように声を張り上げる。
けれど、それは少し上ずっていた。

扉の先は、本の山。本。本。本。
図書室なのか、資料室なのか、わからない、というより決まっていなかったそこは、とにかく本と紙だけが埋め尽くされていた。

「おやじ!」

もう一度、声を張り上げた。今度は苛立ちが混じっていた。

「どうした?」

気楽な返事が返ってきた先は、本の山の中に唯一存在している大きな窓。
窓はそこしか無いようだが、それが異常に大きい為、充分な明かりとなっていた。その明かりを有意義に活用している人物が一人。

彼の人、妖の長――山本五郎左右衛門である。

都合上、かつ光の逆光によって、彼の姿は定かではない。ぱらりと本をめくる手を止めて、振り返る。

「……!」

それを見て、息を呑んだ。

分厚い本を持ち息をきらしている我が子、もとい、六右。

「お前…それは…」

彼はソレを見て、少なからず驚いている様子だった。
なぜ、お前がそれを、
六右は荒い息を整えずに、とても切羽詰まった表情で父の言葉を遮り問うた。

「母さんが人間に裏切られて死んだって…なんで教えてくれなかったんじゃ…。なんでそれを知ってて…人間とずっと一緒にいる……!」

「………」

「………」

ふう、と父はゆっくり息を吐くと、真っ直ぐ息子を見据える。
無表情。

彼が息子を見る時の、悪い癖である。

「…………六右、」

――人間を憎むな。

沈黙、後に彼はそれだけ言い放った。息子の怒りを買うには、十分だった。

「なんでじゃ!なんで魔王が、妖怪の王ともあろうものが人間にヘコヘコする!?」

「ヘコヘコはしてないぞ」

「してるよ!おやじは人間がコワいから!負けるのがコワいからヘコヘコしてるだけなんじゃ!!

あんな弱いやつら…っ」

「人間なんてみんな消しちゃえば」

ぱん

「それ以上いったら、次は殴るぞ」

息子に平手をかました父の声は、低かった。

「お前の言い分は唯の私情でしかない。我が息子ながら、呆れる」

六右の瞳に涙がいっぱいいっぱい溜まっていった。それは平手を受けたからか、おもい言葉か、父によるものということは確かだった。

「……だったら!」


魔王の息子なんて、やめてやる!

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