「でっ」

「!?」

六右の体が浮いた。
正確にはキイが六右の体を引っ張り出し、抱えた瞬間、朧の悲鳴が轟いた。

「でえええええええ!!!?」

部室全体が“半壊した”。その先にいる巨大なそれは、辺りを見回しバラバラに散った彼らを確認すると、大口を開けて笑った。

「ぎゃはははは!!このちっこい奴らから魔王のチビ探せってお前…ムリだろ!」

【大坊主(漫才好き)・人を驚かす妖怪】

この巨大な男、れっきとした妖怪である。
男もとい、大坊主はビシッと手を突きツッコムと、男の肩から小さい何が這い出てきた。

「グヒヒしぃかり探せい大坊主
《旦那さま》の御命令じゃ」

【小坊主(漫才嫌い)】

小さく小汚い着物を着ている何か、もとい小坊主はキイと六右、正確にはキイに担がれている六右を見つけると、そこを指差し大坊主に告げた。

「ホレホレ彼処じゃ大坊主」

「おしあれか!おいチビ人間!魔王のチビを…」

「寄越せ!!」

巨大な手が、迫る。

「どわああああ」

突っ込んできた大きな平手を除け、そのまま学校へ飛び出した妖万部達。
しかし町を掛けるが、大きな足のせいか、足自体は鈍いが一歩の幅が半端なく広い。
つまり、大坊主はとにかく早かった。

「テンメエエエ!追っかけ寄越したなクソジジイいいい!!!」

「人聞きの悪いこというな。親鳥が離れた無防備な雛を狙わん阿呆が何処にいる」

「ざけんな!部室どころか学校が崩壊するわそして降りろ!!!」

勢いよく走る中、真知の怒声が響くがちゃっかり真知の背中に乗って一緒に逃げるぬらりひょんはしれっとした顔でアッサリ返した。

「『町を走るマッチ』…うーん微妙」

「てめぇはちょっと黙れ!!!」

((かわいそうに…。))

さりげなくダジャレを言うキイに鬼の形相で振り返る真知。虫の息のこの状況で連続のツッコミはさすがにキツいものがある訳で。

彼に同情の眼差し向けずにはいられないちとしと朧だった。

「まぁそんなワケでワシは逃げるのめんどくさい…用事があるから先帰るぞい」

「おいめんどくさいって言った?魔王の息子にめんどくさいって言った?誤魔化す気ゼロか!」

「じゃっ、夕方には迎えに来るからのう」

「待てやクソジジイ…っていねーし!!」

真知は振り返るがそこには追いかけて来る巨大しかいなかった。
そして、

「じゃマッチ!あとは頼んだ!」

「あ?あ”あ”!?」

「おれら六右くん守らなきゃだから!」

「増えてるから気を付けてー!」

「なにいっ…てああ!?」

いつの間にかキイ、朧、ちとしは真知からずっと遠くにいた。変わり身の早いのがこの部員達の特徴である。
そしてちとしの言った通り、振り返るといつの間にか大坊主だけでなく巨大な妖怪が二、三匹、ドスドスとこちらに近付いてきていた。

「てんめぇら…!」

「真知!」

真知が怒りに身を任せようとしたとき、キイの声が響いた。いつものような「マッチ」ではなく、ちゃんと名前を呼んで。

「蹴散らせ!」

真っすぐ真知の目を見て言い切ったキイ。真知もそれを見て、しぶしぶと言った風に舌打ちをし、敵へと向き直った。

「…ちっ、分かったよ」

「よしいこ」

「はっ離せ餓鬼!あの男死ぬぞ!」

真知が残ったことに気づいた六右は、もがきながらもなんとかキイを見上げて言った。
しかしキイ達は止まらなかった。

「真知が死んだらキミが食べられちゃうよ。大丈夫だって大丈夫」

キイはその小さい頭に手を載せた。

「だって真知だもん、死なないよ」





「どけ人間!踏み潰すぞ!」

いつの間にか増えた違う妖怪が真知に脅しをかけるが、真知は動かなかった。それどころか悠々としていて、右足を一歩引き、構える。

「そうか。なら潰される前に、ぶっ飛ばす」

「え」

バコン!!!

「おぶしゃぶっ!!!」

瞬間、その大きな巨大が吹っ飛んだ。そのまま妖怪は大坊主の肩に乗っていた小坊主の横を通り過ぎ、キラリと星のごとく空へと小さくなって消えた。
そして、真知の片手には、彼の体ほどあるかないかの兎に角大きな大刀。彼はそれを肩に担いでいる。

「【大刀・大罵】
ある化け猫の牙から作った刀だ。コイツの牙は何でも砕き、何でも薙ぎ倒す…例えどんなにデカくてもな。
だが生憎、ウチの部の掟は『無駄な殺生はしない』…峰打ちだ死にはしねぇ。
『部長(リーダー)の命令は絶対』だ」

何処に吹っ飛んだかは知らねえけどな。

真知は刀を肩から離し両手で持ち直した。残る大坊主、小坊主、そして他妖怪二匹は目を丸く(飛び出してるようにも見える)して真知を凝視した。

「なっ…人間の癖に何処にそんな力が…っ」

「てめぇまさか妖怪か!? 何もんだぁ!!」

「んなわけねぇだろてめーらと一緒にすんじゃねぇ!!!」

妖怪二匹が騒げば、真知の一喝が飛んだ。ビリビリと空気が焦げるなか、静かに真知は呟いた。

「れっきとした人間さ。"おれは"な」

そして大刀を構え直し、真知は吼える。

「【妖万部"副部長"】藍原真知!」

「かかってこいよデカブツ共、あいつ(部長)の邪魔する馬鹿共はおれが蹴散らす!!」

「人間嘗めるなよ、妖怪!!!」

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