伏真嘉高等学校・妖万部部室の昼休み。
「いやぁ、あれは見事な絵だったねー見た人をビックリさせるあの」
「リアリティ過ぎてビックリどころか心臓止まるわ!お年寄りの方々が見たら昇天するぞ!!」
「まぁまぁ落ち着けよー悪気はなかったんだからさぁ、ちゃんと消したし」
そこには椅子にだらしなく座りジャンプを読む白髪少女、高橋キイと、その周りにいる生徒が三人。たった四人だというのに静けさはすっかり無くなり、あっという間に騒がしい教室へと変わった。
「それより、キイ」
キイを呼んだのは黒髪の前髪をで上げている少年、藍原真知。妖万部副部長である。
「なーに」
「お前この前佐々木となにやってた?」
「あ、それオレも思った。てかまず、学校サボってどこ行ってたの?」
思い出したように口にしたのは、茶髪が逆立った少年、藤重朧。
「オマケに頭ケガして帰ってきたし。なにかあったの?」
追い討ちをかけたのは長い黒髪の女子…ではなく女子の制服(スカートと女子用のリボン)を着た少年、五十嵐ちとし。
この、キイを含めた四人が妖万部の部員達である。
ちなみに佐々木、とは前回悪霊猫の元飼い主、元ネクラ眼鏡少年の佐々木啓介のこと。
この様子だと、キイはこのことを部員達には言ってなかったらしい。
考えるように上に目線を逸らし、しばしの沈黙のあと、口を開いた。
「……………………………猫とじゃれてた」
「嘘つけぇ!」
明らかに間を置きジャンプへ視線を戻したキイに、たまらず真知は突っ込んだ。
「血ぃ垂れ流しで気づかねえとでも思ったか!部活のことは絶対報告って言った張本人がなんで破ってんだよ!」
そう。昨朝、キイが見当たらないと不思議に思っていた部員達だったのだが、昼休み、帰ってきたキイの額、というか彼女の真っ白い髪が血で汚れていたのである。しかも姿を現すなりいきなり真知を下敷きにしてぶっ倒れて寝てしまったため、悲鳴を上げずにはいられない。
最終的に保健室に一日爆睡していて聞けず仕舞いだったが、今こうして問い詰めることが出来ているのだが。
「じゃあ訂正、デッカい猫とじゃれてた」
「変わんねーよ!」
「面倒くさかったんだものー」
「面倒ですむ話があるか!」
今日も妖万部は、平和である。
「うちは部長だからいんだよー細かいこと気にすんなよマッチ棒って朧が言ってた」
「部長ってだけでなんでも片付くと思うなよ殴らせろ朧!」
「オレなんも言っていなけど!?」
「ドンマイ朧」
「ちーちゃん止めて!!」
「相も変わらず、短期やのうこのデコっばちは」
「誰がデコっぱちだこの…」
「「「………うわあ!!!?」」」
キイ以外の全員が驚愕したその先はま、机に堂々と陣取る着物姿に頭でっかちな、禿頭の老人の姿だった。
彼は大量の茶菓子を堪能し、机に置いてあるクッキーをもさもさと頬張りながら、キイ達を見下ろしていた。
ちなみにキイもお菓子のひとつをポリポリ口いっぱいに頬張っている上体である。
「あーぬらりひょんさんこんにちはー」
【ぬらりひょん
他人様の家に勝手にあがって飯とか勝手に食べて帰る妖怪】
老人もとい、ぬらりひょんは熱いお茶を器用に火傷せず啜ってから、妖万部部長、高橋キイに歯を見せてニカリと笑った。
「よぉキイ。相変わらず白髪頭だなー病院行けば?」
「お久しぶりですーぬらりひょんさん相変わらず禿頭だねーアートネイチ●ー逝けば?」
――なんだその挨拶。
部員達の心の声が一致した瞬間だった。
「んで、今日はどうしたのじいちゃん」
「喜べ暇人のお前らに依頼じゃ。ちょいと一日預かって欲しい奴がいてな」
「暇人で悪かったな」
毒つく真知を横目にキイ達は周りを見渡すが、その『預かって欲しい奴』は見当たらない。
「預かって欲しい奴って?孫か?ぬらりひょんの孫か?」
「キイちゃん他の話だしちゃダメ!」
「わはは。まぁ孫みたいなもんじゃな!可愛い奴だ」
「んで、その可愛い奴はいずこに?」
「どこって居るじゃろ、ソコに」
むにっ
例えるとそんな効果音が、なぜかキイから発声した。
いなかったはずの存在に視線を向けると、小学生(一年生)くらいの、頬にそばかすがあるちんまりした少年。少年はその小さな手で女性特有の膨らみ、まぁ平たくいうとキイの小さい胸を後ろからわし掴んでいた。
そしてぬらりひょんの目の前に仁王立ちし、踏ん反り返った。
「なんじゃいおなごなのに乳がないのう、餓鬼!」
瞬間、少年の目の前に手が飛び出し、彼の首を鷲津かんだ。
「てめぇのキンタマとっておなごに性転換してやろうか糞餓鬼ー」
「はうっ゛!?」
「キイ待って!女の子がそんなこと言っちゃいけないっていうかそれ以前の問題!」
少年の首を掴んだのはキイで、無表情かつどす黒い影を背負いつつ少年の首を片手で体ごと持ち上げていた。
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