「ねー謙也、アイス食べたい」

暑い。今日はすこぶる暑い。…いや、間違えた。今日は、ではない。今日もすこぶる暑い、である。

「ほーん、良かったやん」
「そうそう良かっ……って良くないよ!?私はアイス食べたいの、でも食べてないの!わかる!?」
「はは、なつこもええツッコミ出来るようなったやん」

どうやら新しいベルトが欲しいらしい謙也は、アイスが食べたいと言う私の事は一目も向けずにパラパラと雑誌を捲る。
1年生の時に大阪に引っ越してきてから既に2年が経つというのに、思いの外大阪に馴染んでいかない私。そんな私が謙也についノリツッコミのようなものをしてしまったのを見て、わたしの隣りに座る白石は嬉しそうに笑った。

「だって謙也がさあ!」


…しかし今の話題は、そこではない。


「俺がってなんやねん、今のは俺何も悪ないやろ」
「悪い!白石も光もアイス食べたいよね?」
「まあ、暑いしな」
「なつこ先輩が言うなら」
「ほら!みんな食べたいって!謙也!」
「…………いや財前は絶対食いたないやろ!?」

ジャージを羽織りながらテーブルに身体を預ける光を見て、ようやく雑誌から顔を上げた謙也が言い放つ。

「食いたいっすよ」
「嘘やろ」
「本当だよ」
「なつこには聞いてへん」
「ひ、酷い!ねえ白石謙也が酷い!」
「せやから俺はアイス食いたい言うとりますやろ」
「コッワ、アイス食いたいって凄んでくる後輩コッワ」

未だ肩にジャージを羽織ったままの光は、身体を起こして隣りの謙也に思いっきりガン垂れる。それを見て普通に怯える謙也。

「ってか謙也はアイス食べたくないの?」
「食いたいで」
「食べたいんじゃん!」
「誰も食べたないなんて言うてへんやろ」
「だよねえ、アイス食べたいよねえ」
「おお」
「食いたいっすわ」
「せやな」
「……って事で!」
「行かへんで」
「ええー」

謙也がブレない。そう、それは謙也のいい所だ。でも今はもっと容易くブレてもいいよ。もっとユルユルに行こう?


「ちゅーか行きたいんやったら自分で行けばええやろ。コンビニすぐそこにあるやんけ」
「それはそうだけどさぁ」


ブレない謙也に負けてテーブルの上に項垂れていた私だったけど、顔だけを上げて答える。


「でもコンビニって涼しない?俺、夏場コンビニ行くの結構好きやで」


そう、白石が思い付いたかのように声を上げた。


「ああそれはわかる」
「な、ここに居るよりも案外気持ちええかもわからんで」


壁の上の方に一つ、そして入口と私の後ろとで計三つの扇風機が回り続ける部室。風がある分まだマシだとはいえ、ここが暑い事には変わりない。


「うーん…でも今日日焼け止め忘れちゃったからなるべ」
「それはアカンっすわ俺が行きます」


ガタン。『なるべく屋内に居たいんだよね』と全て言い終わる前に、光がそう言って立ち上がる。肩に羽織っていたジャージははらりと床に落ちていった。

「おーええぞ財前行けいけー」
「え、いいよ光悪いよ!」
「おい」


既に身体がドアの方へと向けている光に、私も慌てて立ち上がる。


「可笑しいやろ、なんで俺の事は遠回しにパシろうとする癖に財前には悪いねん」
「それは察して」
「雑か!」
「まあまあ…」

白石が謙也に向けた手を上下に動かして宥めてくれる。ありがとうと心の中で白石にお礼を言って、光に目を向ける。

「光本当にいいよ、私が食べたいって言ったんだから私が行くよ」
「いや、日焼けはホンマに大敵なんで」
「別に今更ええやろ、一日くらい日に焼けたって焦げる訳でもないし」
「謙也さんは黙って」
「コッワ」
「…だって光、そこまでアイスが食べたいって訳じゃないでしょ?」
「そんな事ないっすよ、俺アイス食いたいっす」
「……」

光はそう言ってくれるけど、こんな寒くもない所で上着を羽織っているくらいだ。そもそも光が暑いって言ってるの、ラブルスの二人を見て「暑苦しい」って言ってるのしか見た事が無い気がする。


「……ほんなら俺、行こか?」
「え?」
「え?」


私と謙也、二人が思わず声を上げて目を移した先には、既に白石が立ち上がっていた。


「なんで白石が…」
「いやぁ、なんやアイスの話しとったら食べたなってきてん」
「…あ、それはわかる!話聞いてたら食べたくなるよね」
「そうやろ?」


私がそう言うと、ハハハと白い歯を見せて笑う白石。


「せやから俺行ってくるで?別に今更日焼けも気にならへんし、コンビニに涼みにも行きたいし」
「部長…」
「……」

……でも、白石もそう言ってくれるけど、私にはわかる。結局は白石が気を使って言ってくれているという事を。


「…ううん。やっぱりいいよ、悪いもん。言い出しっぺの私が行く!」


私はそう言って手を挙げる。


「いやいや俺が行きますわ」


光がそう言って手を挙げる。


「ええって、俺が行くって」


白石がそう言って手を挙げる。


「……」
「……」
「……」


三人で一斉に謙也の方を見る。


「……え、ほんなら俺が行」
「「「どうぞどうぞ」」」
「どういう事やねん!?」


結局、みんなで買いに行きました。

(ダチョウ倶楽部をやりたかっただけのお話でした)

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