「雅治暑いー?」
もうデートも終盤。日も傾いてきてだいぶ暑くはなくなってきたように思えても、まだまだ熱は収まらない。テニス部で物凄く強くて、この炎天下に勝るような日でも外で練習していたはずの私の彼氏は、何故だか暑さに弱い。というか、弱い訳ではないんだけど、暑いのが苦手なんだと思う。
「うーん。まあ、そりゃ暑いのう」
「じゃあさ!さっきのコンビニでアイス買お!」
「お、それ賛成」
「やったねーっ」
雅治の許可を得てコンビニへ。涼しい店内に入ってほうっと一息をつく。
お目当てのアイスコーナーへ向かう前に、レジでソフトクリームが販売されているのが目に入った。
「ソフトクリームにする?」
「おん、ええよ」
「1つずつ食べるー?」
「なつこがええなら、俺は1個もいらんけど」
「わかった、それなら半分こしよっか!」
私がそう言うと雅治は、ありがとうと言って頭を撫でてくれた。雅治は自分が嬉しい時にはいつもこうやって撫でてくれるんだけど、その手が優しくて私はとっても好き。
私達はソフトクリームを頼んで、店員さんが作ってくれたものを私が受け取って店を出た。
「暑い…」
「ほんまにな…」
「でもここでソフトを一口…ううーん!美味しい!」
ミルクの味が口の中に広がる。冷房のきいた涼しい中でアイスを食べるのもいいけれど、今日のように暑いところで食べるアイスはまた格別に美味しくて。雅治にも同じ体験をして欲しくて、私は顔を向ける。
「雅は…ん?」
こちらを向いてにやにやしている雅治と目が合った。なんだろう、面白いことがあったのかな?
「何かあった?」
「いや、ソフトクリームの販売員みたいな話し方しとるから」
「えー?そんな話し方してたかなー?」
「うん。あ、ソフト俺も食べたい」
私の疑問はさらりと流されて、でも雅治がソフトを食べたいと言うもんだから私は喜んで差し出してしまう。私から受け取ったソフトは暑さからか表面が少しとけていて。雅治はそこに目をつけて、一口。
「うん、美味い」
「ねー!本当に美味しいね!」
雅治がこうやって私が好きなものを食べて美味しいって言ってくれると、凄く嬉しい。同じものを美味しいって思えるのって素敵だもん。今の私、口元が緩みっぱなしなんだろうなあ。
「ほら、なつこも食べんしゃい」
「雅治はもういいの?」
「また食べたくなったら言うぜよ」
「わかった!でも私に遠慮したらだめだよ?」
「はいはい、とりあえずもう溶けてきとるから急がんと」
雅治の言葉にいち早く反応した私は、返事をする前にソフトを一周一舐め。うん、やっぱり美味しい!
「もうコーンまできちゃった。寂しい」
コーンまで美味しく食べれるとは知っていても、ソフトクリームのコーンまで来てしまえばもう食べ終わりまできてしまったのは目に見えてわかる。あーあ。美味しかったなあ、ソフト。雅治が美味しいって言ってくれたおかげでこんなに美味しく感じたのかなあ。
…なーんて、私、雅治のこと大好きですから!
「次はなつこ1人で食べんしゃい?」
こんなことを考えていたところでの、この発言。んもーう!わかってない!雅治がいないときに1人でいっぱい食べるんだから、一緒にいるときは一緒に食べたいのが私心なのに!
「なんでよ、私は雅治と一緒に食べたいんだもーん」
「やけどもっと食べたいんじゃろ?」
「それとこれとは話が別なのー!」
「…そうなん?」
「そう!」
私は1人納得して再び食べ始める。とはいえ、まだアイスはあるから、まだ舐めると言っても過言ではない。
「んー」
「んー?」
雅治は顎に手を当てて、わざとらしく考えたフリのように見せていて。私はソフトを舐めりながら顔を向けたけど、どうしたんだろう?…ああ、もう少しで終わっちゃう。雅治コーン食べるかな。
「ソフトちょうだい?」
「…コーンでもいい?」
「えーやだ」
「え!ごめん、コーン…と、中に入ってるアイスならまだあるけど…」
なんと!まさか!言わないからてっきり食べないかと…!慌てる私。つーんと顔を背ける雅治。
「ごめんってー!新しいの買う?」
「いらんし」
「えーどうしてー?」
困りました。雅治くんが拗ねております。
「俺はさっきのソフトが良かったのー」
「そ、そんなこども見たいなこと言わないでよ!」
「あ」
「ん?」
「まだあるとこ見っけ」
そう言って嬉しそうに私の顔を見て立ち止まる雅治。まだあるとこ?ソフトクリームが?いや、確かにコーンの中には少しあるけれど、私の顔を見てきているし。
ん?あれ?雅治の顔が近づいてきて、私は反射的に目を閉じる。案の定雅治の唇と私のそれとが優しく触れた。するとそのまま雅治の舌が、私の舌をぺろりと舐めた。何回かぺろぺろと舐めて、満足したのか離れていった。
「ん、美味しく頂きました」
「……それはようございました」