私の幼馴染は、背が低い。
私よりどれだけ高くジャンプしようが、まるで羽が生えたかの様に空を舞おうが、地に足をつければ目線は同じ。その事実は変わらない。しかしそのくせ、昔から可愛いと言えばすぐに怒るのだ。


「ねぇ岳人、これはどうよ」
「…はぁ?」


私が見た瞬間にビビビ!ときたビーチサンダルを見せると、呆れ返った声が返ってきた。
今日は隣りの家に住んでいる岳人に頼まれて、合宿で使うというビーチサンダルを一緒に買いに来ている。そしてこの後、この買い物に付き合うという条件の元で新しく出来たカフェに着いてきて貰う事になっていた。

「モロ女物じゃねーかよ!」
「いいじゃん、私だったら絶対これだけどなぁ」
「それはなつこだからだろ」
「だってこんなに可愛いんだよ?」
「ばーか、可愛くなくていいんだっつーの」

そう言って岳人はもう一度盛大な溜息をついてみせて、それから壁に掛かっているビーチサンダルへと目を移す。私はというと、諦めてビーチサンダルを返しに戻る事にした。
……可愛くっていいじゃないか。だって岳人はどう考えても可愛いタイプの顔だし、背も私と同じくらいなんだからきっと女物の靴だって履けるし。きっと女装させたら、化粧なんて大してしなくたってもの凄いかわい子ちゃんになる自信が、私にはある。

しかしながら、履く本人が嫌だと言うのなら仕方が無い。このサンダル自体は可愛いから私の中の候補として場所だけは覚えておいて、私は再びビーチサンダルと睨めっこする事になった。
そしてしばらくビーチサンダルを見ていたら、どうやら裏側にもサンダルが売られている事に気がついた。そして裏に回った瞬間、私は出会ってしまった。その出会ったサンダルを迷わず手に取り、私は一目散に岳人の本へと向かった。

「岳人!あったよ!岳人の為のサンダルが!」
「お?」
「凄いよ!見て!からあげ柄のサンダル!」

走ってきた勢いのまま、私が岳人の目の前に突き出したサンダル。それは岳人が大好きな、からあげが沢山プリントされたサンダルだったのだ!


「ねえ、凄くない?まるで岳人の為のサンダルみたい!」
「……」


目の前に差し出されたサンダルをじーっと見つめる岳人。


「確かに、すげー攻めてる」
「ね!」
「でも……ああいや、うーん」

しかし私の顔をチラリと見て、唸り声を上げながら悩み始めてしまった。そしてそんな岳人の手にも、ビーチサンダルが。


「あれ岳人、それ…」
「おお。これがいいかなってやつ見つけたんだけど、からあげも捨てがたいな」


そう話しながら岳人が見せてくれたサンダルは、真っ赤な地に白い紐がついたものだった。確かに岳人らしくて、それでいてかっこいい。……でも。


「え、岳人それ大きくない?」


でも、そのサンダルは私が想像していたものよりも大きかった。


「あ?これくらいだろ、普通」
「ええ、本当に?大きくない?」


先程私が持ってきたサンダルを思い浮かべる。……いや、これは大きいでしょ。絶対に。


「大きいと歩きずらいんじゃないの?大丈夫?」
「っだーから、大きくないっつーの!」


そう言って持っていたサンダルを床に置き、靴下を脱いだ岳人はそれに足をつっかけた。
確かに、丁度良かった。……え、待ってよ。岳人って足、大きいんだ。背は私と同じくらいなのに、足はこんなに……。


「ほら、別にデカくねーだろ?」


フン!と岳人は鼻を鳴らして私を見る。それはいつも見てる表情なのに、なんだか突然、不思議な感覚になった。
「でもなぁ」、私の持っているサンダルを持っていった岳人は目の前でぶら下げる。


「お前じゃねーけど、からあげ柄なんてマジで俺の為のサンダルだからなー」


足元にある赤いサンダルと、手に持っているからあげ柄のサンダルを見比べて悩む岳人。でも私は、サンダルを掴む岳人の手に目が釘付けになっていた。

背が低くて、体が小さくて、可愛くて、わがままで。
私の中の岳人は、昔からずっとそうだった。氷帝学園というお金持ちの学校に入っても岳人は少しも変わらなくて、だからそれが当たり前で。

「…仕方ねーな、どっちも買うか」
「えっ」
「だってどっちも選べねえもん」
「……でも、合宿で使うって買うんだから二つも要らなくない?」
「えー、んー」


そう唸りながら、またもや二つのサンダルを見比べる。しかしすぐに「あ」と呟いて、岳人は何故だか得意気に口角を上げる。


「こっちのからあげ柄は、なつこん家と夏に花火する時に履いてく」


歯を見せてニッと笑い、からあげ柄のサンダルを私に向ける岳人。……この表情だっていつも変わらないはずなのに、今は何故か、胸がギュッと掴まれた感覚になる。

「そっか」
「後はまぁ、祭りとかもこれで行けるしな」
「うん……あ!じゃあ、からあげの大きいやつ持ってくるね!」


変な感じがしていても立っても居られなくなった私は、とりあえずサンダルを取りに行こうと勢い良く振り返った。


「あ、おい待てっ」


先程の場所へと向かう為にと、既に一歩を踏み出していた私。しかしそんな私の右手が突然、何かに包まれた。驚いて振り返ると、岳人が私の手を握っていた。


「念の為実際に履いてみたいから、俺も一緒に行く」


「靴履くからちょっと持ってて」と続けた彼が手に持っているサンダルを向けてきたから、私はそれを受け取った。その時に危うく岳人の手に触れてしまいそうになり、慌てて下の方を掴んだ。
岳人の手は、私の手なんて包んでしまうくらいに大きかった。すぐに離されたのにその感覚は消えてくれなくて、私の胸はドキドキと激しく音を慣らしている。


「うし、じゃあ行こうぜ」


靴を履いた彼が、今度は赤いサンダルを手に持って顔を上げた。


「お前は?さっきのサンダル買うの?」
「うーん…」


岳人に言われて、さっきのサンダルは可愛かったなぁとぼんやり思い出す。でもそう思い出しながらも、今は私の手にある、彼には少し小さかったからあげ柄のサンダルに自然と目が行った。

「これにしようかな」
「え?」
「この、からあげ」


自分でそう言ってから、ハッとして岳人の方を向いた。


「ほ、ほら、可愛いし珍しいからさ!友達と会う時のネタにもなるし!…あ、でももし岳人が同じの嫌ならやめるけど!」


慌てて取ってつけたような理由が口から出てきて、自分でも驚いた。
確かに、珍しくて可愛いというのには間違いは無い。とはいえ自分でおすすめだと言って岳人に持っていった物よりも、こんな個性的な柄を選ぶなんて。こんなの岳人とお揃いがいいと言ってるみたいだ。そう思ったらとてつもなく恥ずかしくなり、私は慌てて否定の言葉を述べた。


「いや、それは全然。……つーか嫌とか、絶対思わねえから」


ぶっきらぼうに目を逸らしながら呟く岳人の声が、私の鼓動を早くさせる。
今年の花火の時に岳人とお揃いのサンダルを履いていたら。そう思うだけでなんだか少しだけ恥ずかしいような、嬉しいような気持ちで胸の奥がむず痒くなった。

ああ、今年の夏はもしかしたら、去年までとは違う夏になるかもしれない。

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