この間亮の家で遊んでいる時にやった、あっち向いてホイ。『勝った方が相手の言う事を聞く』というありがちな設定でやっていたんだけど、その闘いで見事勝利を飾ったのは私だった。


「あれ、全員クレープに並んでるのか?」


今話題のタピオカ程ではないにしろ、女の子は大概が大好きなクレープ。駅前にあるクレープ屋さんには大体いつも何人か並んでいるんだけど、夏休みと言う事で普段よりも多くの並んでいる人達が目に入った。


「うん、そうだよ」


隣りを歩く亮を軽く見上げながら私は答える。その返答を聞いた亮は、目を見開いてからもう一度列を見て「すげーな」と呟いた。

「でも結構いつも並んでない?」
「あー、並んでるかもしんねーけど、あんまり興味無いから背景みたいになってるかもしんねえな」
「……なるほど」

確かに、男の子だけでクレープを食べようと列に並ぶのは中々想像し難い。今はそういう男の子もいると思うけど、亮や亮の周りの友達にはいなさそうだ。


「……」


しかしそうなると、列になってる女子達が背景になってしまうくらいに興味が無い亮を誘ってしまった事に、ほんの少しだけ悪く思った。
嫌だとか思ってるのかな。そう思って、じいっと彼の横顔を見る。私の視線に気づいたのか、チラリとこちらを見た亮が不思議そうに、どうした?と首を傾げた。

「……ううん。亮って、肌綺麗だなぁと思って」
「は?」
「私、亮のほっぺがつるつるなの大好き」

誤魔化してしまった。でも、太陽の光に反射してツヤが出たように見える亮の頬が綺麗だと思ったのも事実だから。
そう言って私が手を伸ばすと怪訝そうな顔をしたけれど、でも特別避ける事もしない亮のお陰で私の人差し指はその頬に届いた。ふに、と沈む私の指。無駄な脂肪が無い彼の頬は、私の頬とはまた違った柔らかさだった。

「柔らかいね」
「そうか?」
「うん!亮のほっぺ、キレイで柔らかいからすごく好き」
「……それ、褒めてねえだろ?」


呆れた様に私の方を見ながらそう言葉を放った亮に、慌ててそんな事はないと両手を振る。


「褒めてるよ!だって私が亮の好きな所の一つだもん」
「ああ、そうかよ」
「まだ他にもいっぱいあるんだけどね!例えば、」
「ストップ」

亮の髪の毛が柔らかい所とか、手がおっきくて温かい所とか!
いっぱいあるからと言った手前、指折りで数えながら教えようとした私だったけど、残念ながらそれは亮の声によって遮られてしまった。そして遮った亮が顔を前に向ける。私達が目指していたクレープ屋さんの列は、もう目の前だった。


「ご、ごめん」


私は先程よりも、随分と小さな声で亮に謝った。亮が止めてくれなかったら、とんでもないバカップルだと思われてしまう所だった。私はまだ仕方ないけれど、亮までそう思われてしまっては申し訳無い。
私の小さな声は届いたらしく、ふっと笑いを零した亮は頭を横に振って「別に、今じゃなかったらいつでも教えてくれ」と言ってくれた。
……もう、亮のそんな所も好きな所だよう。


「…あ、トッピングでアイスも付けれるんだね」


先にクレープを買った人を見ると、クレープにアイスを食べる用のスプーンがついていた。確かに普通のクレープもいいけど、こんなに暑いのだからアイスをトッピングで付けるのもいいかもしれない。
うーん、でも、冷たい飲み物も一緒に売っているみたいだしなぁ。ってかそもそも亮はクレープ食べるのかな。亮が飲み物だけなら私は…。


「ああ、そうみたいだな」


亮は周りを見渡して、そして空を見上げた。


「並んでるだけだと、やっぱり結構暑いな」
「ね、歩いてる時は少し風あったけど」
「……こんだけ風無いと気休めにしかならねえけど、まあ無いよりマシだろ」

「この辺日陰もねーし」。そう付け足して、亮は自分の被っていた帽子を私に被せてくれた。私の頭に伸びた彼の手で、少し暗くなる視界。

そして手が離れて明るくなった視界に映ったのは、私を見て小さく吹き出す亮の姿だった。


「ん?」
「いや、いいなそれ。思ったより似合ってるぜ」


私を見ながら嬉しそうに目を細める亮に、自分の胸から、きゅんと音が聞こえた気がした。


「えへへ、やったぁ」


嬉しくてつい、にへらと笑ってしまった。亮とお似合いの青い帽子が私にも似合ってるというのは、なんだかとても嬉しく感じた。
不意に前の人が歩き出して、私達も同じく歩みを進める。近づいた事により、クレープの焼ける香りが鼻を擽った。


「亮は何か食べる?それともジュースだけ?」


クレープを貰って、列を離れていく女子を目で追う。二人で笑いながら歩いていく彼女達の手にあるクレープには、先程の子と同じようにアイス用のスプーンが刺さっていた。……うん、アイス、やっぱりいいよね。

「あー、俺もクレープ食うよ」
「そっか」
「おう」
「……んえっ?クレープ食べるの?」

何のアイスをトッピングしようか悩んでいたせいで、一度耳を通過した亮の言葉をちゃんと理解出来ていなかった。もう一度巻き戻して聞いたら、え、食べるって…?


「ん、食べる」
「……え、でもだって興味無いってさっき…」


言ってた。絶対言ってた。でも申し訳ないとは思ったけど、これはあっち向いてホイで私が勝ったんだからって納得したんだもん。


「別にいいだろ、なつこが食いたいって言ったモンに興味くらい持っても」


そう言って亮は、今は私が被っている帽子のツバを摘んで下に向けた。いつもの亮と違って普通に被っていた私は、それにより深く被る事になって視界が暗くなる。
少しだけツバを自分で上げて、亮のことを覗き見た。すると私を見る亮と目が合って、私はまた、にへらと笑ってしまう。

「嬉しい」
「ああ、すげえ伝わってる」
「んふふー」

帽子のツバで隠しているつもりだから、頬が緩むのを止めようとは思わない。まあ、これくらいなら他の人に見えてしまっても仕方がないとすら思う。だって笑ってるだけだし、誰にもメイワクかけてないし!


「それじゃあ、亮の初クレープは何味にする?」


また一組分前に進み、私は前にある看板を指差す。「うわ、なんだよあんなに種類あんのかよ」。驚いたように話す亮の方を向くと、大好きな亮の横顔と一緒に私の視界に映る、真っ青な帽子のツバ。今日はバイバイするまで、ずっと帽子被ってる事にしよーっと!

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