冬の夜空の方が夏の夜空よりもきれいだというけれど、寒いのが苦手な私には、寒い冬の夜に星を見るのはもの凄く困難なことだ。それに、夏の夜空だってきれいだもん。

「でも俺、星座わかんねー」

ごろんと砂浜に寝っ転がって、夜空の星を見上げながら、ブン太はそう言った。砂浜はまだ少し昼間の熱を帯びているのか、ほんのりと暖かい。

「私もわかんないよ」
「え、そーなの?なのに星見るの好きなの?」

ブン太はこっちを見ることなく、私もブン太を見ることなく、私達の会話は星空に吸い込まれていく。

「うん。星座なんてわからなくても、こうやって星見てるだけで楽しい」
「…へぇ」
「あ、でも北斗七星はわかるよ!あそこからあそこまで、こうやってなってるの」

空が広すぎて言葉では説明が難しい。私が指をさして説明すると、隣のブン太は、なんか見たことあるかもとぼそりと呟いた。

「でしょ?きっと何処かで何度も見てるよ」
「教科書とか?」
「うん。中学のときやったもん私」
「あ!!」
「え!?出た!?」
「ちげーけど、俺、星座知ってるやつあるわ!」
「…オリオン座?」
「げ!なんだよなつこも知ってんのかよ…」

つまんねーと、ブン太の一言。そりゃ知ってるよ。だって、冬場の夜空では一番見つけやすい星座だもん。学校でも何回も習ったし、テストにも出たし。でもブン太でもそれくらいは知ってるんだ。意外。これ、言ったら怒られちゃいそうだけど。


「にしても本当に今日あんのかよ、流れ星」


そう、今日の目的は流星群を見ることだ。二週間も前から目をつけていて、でも1人で見るのは寂しいからと部活帰りのブン太を誘って見に来ていた。

「あるよ、絶対!だってテレビでいっぱい流れ星が見れるって言ってたもん!」
「何、願い事でもあんの?」
「うーん、それはいっぱいあるけど」

可愛い服が欲しい。美味しいケーキが食べたい。勉強しなくてもテストで満点取れる頭が欲しい。かっこいい彼氏が欲しい。
私にも人並みな欲しいものはたくさんある。ただ、流れ星が見たいのは、願い事をしたいからという訳ではなくて。生まれてこの方見たことない流れ星を、見てみたいだけだった。

「ブン太はお願い事考えてきたの?」
「んー、まああるっちゃあるけど。でも星に願うのは違う気して」
「そうなんだぁ。ふふ、でもわかる。流れ星に願うのは違うって」

私は何気なく話しながらブン太の方に顔を向けた。どきん!突然心臓が跳ねる。夜空を見ていたはずのブン太が、真剣な顔をして私の方を見ていた。

「…どうした?」
「いや、ううん。何でもない」

そう言って目を夜空に向ける。チョット待って。何、今の。目だけ動かしてブン太の方を見る。ま、まだこっちの方見てる…!なんで、私なんかついてる?さりげなく左の顔の方を払う仕草をしてみる私。


「……」
「……」


どうしよう。なんか話さなきゃ、なんか…。私は再びブン太の方を見ようと目だけをずらす。

「あ!!!」
「なっ、いきなり何!」
「流れ星だよ!は、お前今の見てねーの?」
「…えええ!嘘!見てない!」
「ばっか、お前どこ見てんだよ!」

なんてこったい!当初の目的も忘れて、肝心なものを見逃すなんて!

「えーだってー!」
「なんたって空見てて今のやつ見逃すんだよ。ど真ん中流れたのに、さっきの」
「うぐぅ…。だってブン太が!」
「え、俺?」

なんてこったい!パート2。見逃した私のことを責めるのをぱたりとやめ、きょとんと目を丸くするブン太。ようやく暗さに目が慣れたお陰で見えるのが嬉しいのか悲しいのか。
そしてそんなブン太とは裏腹に、自分の言ったことをなんとか誤魔化せないかとフル回転する私の頭。

「や、ブン太がさっき私の顔見てたから、何かついてるのかって気になりまして!ええ!」

嘘は言っていない。嘘は言っていない。嘘は言っていない。
流れ星に願い事は3回言うものだと言うから、私もとりあえず3回言ってみる。

「…ああ」
「あ、やっぱり?もー、ついてるなら早く言ってよね」

んー。そう言いながら私の頭に手を伸ばすブン太。何よう、何よう!そう私が身構えているのを知ってか知らずか、さわさわと髪を撫でてそれは離れて行ってしまった。

「…取れた?」
「あー、ん。取れたぜぃ」
「ありがとう!よく見えたね、私よりも暗さに目が慣れるのが早いんだね」

動体視力がいいからかなぁ。ブン太、テニス部でも凄いんだもんね。私も何回か見たことがあるけど、とりあえず毎回勝ってたのは覚えている。

「なぁ」
「あ!!!」
「いきなりなん」
「流れ星!今見た?真っ直ぐ、シュンって!シュンって!すごーい!」
「あーもううるせ!俺もさっき見たし!」
「いーや!今のがずっと凄かったね!」
「ぜってー俺が見たやつのが凄かった!」

ふん!私とブン太と、見合わせていた顔を2人同時に空に向ける。その瞬間。夜空を、一筋の長い光が走った。


「「あ!!!」」

「見た?今の見たよね?」
「見た!すげー長かった!」
「うん、長かった!凄いー!一緒に見れるなんて、凄いね!」

思わず2人で起き上がって話す。さっきは私だけだったけど、2人で見たとなると絶対に絶対に見間違いでもないし!嬉しい!本当に凄い!

「あー、明日赤也に自慢しよっと」
「うん!私もみんなに自慢するー!嘘って言われたら、ブン太がちゃんと証言してね?」
「仕方ねーな。いつでも俺のこと呼べよ?」
「あはは!なんかその台詞、ブン太ヒーローみたいだね」

じゃ、あと30分くらい見よっか!
私はそう言って再び星空に目を戻す。流れ星が無くても、星空はとてもきれいで。ああ、癒されるな。ずっと見ていたいなぁ。

「……」
「次さ」
「うん?」
「次、流れ星が見えたら、お前に言いたいことあっから」

どきん!また、さっきと同じブン太の目。言いたいこと?私に?一体なんなんだろう…。
全く想像もつかなくて、楽しみなような不安なような。でも凄くどきどきして、なんで私こんなに緊張してるんだろう。


それから少し時間が経って、再び私達の目に流れ星が映った。でもさっきのような盛り上がりはない。
ふいに、ブン太が身体を起こした。そして私の方を振り返る。こんな風な真剣な顔をブン太がするんだ、なんて考えちゃうくらいに私のことを見ていて。


「俺、お前のことが…」

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