「お、なんか珍しいもん見てんじゃん」


部室に座って雑誌を見ていると、入ってきたブン太が覗き込んできた。


「えっ、水着?」


反対側からは、ブン太と一緒に部室に入ってきた赤也が顔を出す。


「あ、二人共いい所に」
「ん?」
「この水着いいなって思うんだけど、どう思う?」


そう言って私が指差した水着を見ようと、二人が覗き込んでくる。


「いいんじゃね?」
「はい、適当」


まあこういうのは、ブン太にはあまり期待してないから別にいいのだ。私の期待は、うーんと唸りながら見ている赤也に向けられる。

「赤也は?」
「……いいと思います、けど」
「けど?」
「なつこ先輩こんな胸あります?」
「おいコラ」
「ぶはっ!」

右側から盛大に吹き出す音が聞こえてきた。しかし私はそちらには目を向ける事はせず、もはや真顔でサラリと爆弾を落とした赤也から目が離せない。

「真顔で爆弾落とすから赤也はこえーわ」
「だってこのオネーサンめちゃくちゃ胸でかい…ほら、Fカップって書いてあるし」
「や、そりゃそうかもしれないけど!だからってそんな真顔で言う事ある!?」
「せめてもうちょい悩むふりするとかな」
「そうそう、オブラートに包むとかさ」
「ええ〜、でも先輩がFカップ…」
「…わかんないじゃん!私だって脱いだら凄いかもしれないじゃん!ね!」
「いや流石にそれはねーだろい」
「……ブン太はどっちの味方なの!?」


うーわ出たよ。ブン太もめちゃくちゃ真顔だよ。さっきまで私の味方だったと思ったのに!


「でもなんで水着?水着買うの?」

「…ああ、」「…えっ!?」


ブン太の質問に答えようとするのと同時に赤也から驚いような声が上がり、自分の肩がビクリと震えたのがわかった。


「どうし」
「買うって事は着るんすよね!?いつ着ます!?何処で着るんですか!?それって俺も呼んでくれます!?」
「待って待って多い多い」

突然声を上げた赤也に聞こうとした0コンマ数秒の間。その僅かな時間に紡がれた赤也からの大量の質問とその声の大きさに、思わずブン太の方に仰け反ってしまう。ブン太は「圧がすげえ」なんて言って私の後ろで笑ってる。

「いいですか、赤也くん」
「はい!」
「水着は買わないし、今後着る予定もないです」
「え、ええ…」
「……」
「……」
「でも俺、先輩に似合うと思いますよその水着!」
「もう遅いわ!」

私がそう言い放つと、しょんぼりと赤也は肩を落とした。いや、そんな悲しそうな顔で見られても困るんですけど。もはや私だってしょんぼりしたいんですけど。

「赤也可哀想に」
「あっ」
「別に着てやりゃいいじゃん、減るもんじゃねーし」

私の持っていた雑誌をひょいと持ち上げたブン太は、そのまま自分の前に持って行って私の見ていたページを眺める。

「や、やだよ!人に見せれる様なものじゃないし」
「じゃあなんであんな質問したんだよ」
「…この雑誌の付録が可愛かったから買ったんだけどさ、読まないのは勿体ないなと思って読んでたら、水着可愛いなあと思ったから」
「……色気のねえ理由」


は〜あ。態とらしくため息をついて見せたブン太は、そのまま雑誌をパラりと捲る。


「う、煩いな!大体水着なんて買ったって、そんなの着て何処行く暇も無いでしょうが」
「まあな、それはそうだけど」
「ほーらねぇ」
「…うーん。俺だったら、この中ならこれだな」
「……ええ、この水着?なんか意外」
「いや、この子の顔が好き」
「あーなるほど、そうだよねぇこの流れで顔の事言うのが丸井ブン太ですよねわかりますわかります」
「悪いな」

「…でも海いいなぁ、今年まだ行ってないし行きたいな」

水着ショットの後ろに写る海を眺めて、海へと想いを馳せる。暑いけど、海自体に入らなくても、なんだか行きたくなるのが海なのだ。

「…ああ、そっか。なつここの間の合宿来なかったもんな」
「ん?」
「俺らこの間のお前来なかった合宿で浜ランしたから、当分いいわ」
「あ、そういえば言ってたね」
「なー、赤也」
「…あ、はい。そうっすね」
「そっか」

この間の合宿、しんどかったって言ってたっけ。次の日に登校してきた仁王の顔が死んでた事を思い出す。


そうこうしてる内に、ブン太がトイレに行くと言って出ていった。赤也と二人部室に残されたけど、まだ時間があるしと赤也にこの中でどの水着が好きなのか聞いてみた。

「あー、そうっすねぇ」
「うん」
「……あの、なつこ先輩」
「うん?」

少しの間雑誌を眺めていた赤也が声を掛けてきたので、私は雑誌から顔を上げる。するとそこには、何故か緊張したような顔で頬を掻く赤也が。

「先輩が水着着なくてもいいんで、俺、先輩と一緒に海行きたいっす」
「……え?」


「俺は部活の後とかにでもいいんで」、そう付け加えて私から目を逸らす赤也。


「……」
「……水着着なくていいなら、いいけど」
「えっ!」
「えっ」

赤也が驚いたように声を上げて目を丸くするから、私もびっくりしてしまう。しかしその次の瞬間、パァ!と表情を明るくして笑顔になる赤也。

「本当ですか?」
「うん、本当だよ」
「き、今日ですか?」
「あー、今日はちょっと」
「じゃあ明日!」
「……えっと、来週でもいい?」

財布の中身を考えると、来週のお小遣いが来てからでないと厳しそう。何に使う訳でも無いのだけど。「じゃあ、来週っすね!」。笑って目を細める赤也が嬉しそうで、気付いたら私も笑っていた。

(続きます!)

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