「あ?何、今日お前誕生日なの?」

朝練終わりで、他の生徒よりも遅く教室に入ってきたブン太。隣の席である私の机の上に山積みになったお菓子の山を物欲しそうに見ていたので、慌てて友達の所から帰ってきた私はズバッと言ってやった。今日は私の誕生日で、このお菓子達は私の誕生日プレゼントなのだ、と。それを聞いたブン太はパチンと鳴らしてガムを割り、目を丸くしてそう言った。

そうして迎えた昼休み。なんと、ブン太がジュースを奢ってくれると言う。えー!ウソー!ブン太が奢ってくれるなんて夢みたい!と驚いていたら、「10秒経っても廊下に来ないならやめる」と言われたので、もはやブン太より先に教室の外へ出たのは先程の話だ。


「どうしよっかなあ」


自販機の中身はとうに把握している。悩むとすれば、今日の気温と私の気分だ。何がいいかな。でも暑いし、昨日の雨でジメジメしてるしな。

「候補は?」
「カルピスか、ネクターか、MATCHか」
「ふーん。ちなみに俺はMATCHな気分」
「気分ってか、ブン太いつもMATCHじゃない?」
「だってMATCHうめーもん」
「それはそう」

あーでもないこーでもないと悩んでいたら、あっという間に自販機の前まで来てしまった。どうしようか。


「決まった?」
「まだ」


不思議なもので、自分で買うのは直ぐに決まるのに誰かに買ってもらおうと思うと思うと悩んでしまう。

「そんな悩むかね。俺なら秒でMATCHだけど」
「それはブン太だからでしょ」
「……」
「……」
「…もうMATCHで良くね?」
「わかった、ブン太は自分のMATCH買って下さい」

横から話し掛けてくるブン太を見ず、私は自販機の三種類のジュース順に目で追いながらそう告げる。
はあと溜め息をつく音がして、赤い髪が私の視界に入ってくる。お金を入れて、MATCHの下にあるボタンを押して、下のポケットからMATCHを取り出すのは、黒いリストバンドのついた腕だ。そして身体を起こしてから、私の方を見る。「なんだよ、やっと決まった?」。そう言って首を傾げる彼を見て、私は初めて、自分がブン太の事を目で追っている事に気づいた。


「ううん、まだ」


自分でも驚いて、目を逸らす。その時に偶然目に入ったのは、私の目線の位置にあるネクター。「じゃあ金入れとくから、あっちで待ってるわ」、そう言って幾らかお金を入れたブン太は、中庭へと出ていった。

飲み物を買い、中庭へ出るとそこはとてつもなく暑かった。その中で一人ベンチに座っていたブン太は、私の足音を聞いてこちらへ振り向いた。


「おっせ……なんだよ、結局お前もMATCHじゃん」


私の手の中にあるMATCHを見て、フンと鼻で笑ったブン太。そうだよと答えながら私はブン太の横に腰を下ろす。お礼を告げてお釣りを渡して、ペットボトルのキャップに手をかける。プシュッ。弾けるような音と共に漂った甘い香りは、普段私の隣の席から漂ってくる香りと同じで。


「それじゃあ遠慮なく、いただきます!」
「おいおいおい、待てって」


口を当てようと意気込んだ瞬間ブン太に声を掛けられて手を止める。すると、ブン太のMATCHが近づいてきた。


「誕生日、おめでと」


そう言ってニヤリと笑ったブン太は「乾杯」と続け、コツンと私のMATCHに自分のそれをぶつける。どきん!まるでその振動が、私の心臓まで響いていったかの様に心臓が高鳴って。


「あ、ありがとう」


目を逸らして、勢い良くMATCHを飲み込む。口の中に広がる微炭酸が、ピリピリと舌を刺激する。…美味しい。確かに美味しい、けど。
少しだけ、目だけを動かして横を見る。同じくMATCHを飲んでいたブン太と目が合って、またもや心臓が飛び跳ねた。
それから、少しの間何も言えずにブン太と見つめ合う。暑いとか、甘いとか、そんなのは忘れていた。


「お前…」


ブン太が何かを言いかけた、その時。聞き慣れたチャイムが中庭へと響き渡った。学校中に昼休みの終わりを告げる予鈴だ。


「あー、っとにお前が無駄に悩むから時間無くなったじゃん」


はあ、と本日二度目の大きな溜め息をついたブン太が、チャイムの音に驚いて固まっている私の横で立ち上がった。

「え、ごめん」
「しかも結局MATCH買ってるし」
「だってブン太が勧めるから」
「だったら最初から買っときゃ良かったじゃん」


そう言ってブン太は歩き始める。


「えー、でもネクターもカルピスも飲みたかったんだもん!」


私も立ち上がって後を追い掛ける。


「俺は最近ネクター飲んでねえな」
「そうなの?ネクター美味しいのに」
「…じゃ、俺が全国優勝したら今度はお前がネクター奢りな」

そう言って持っていたMATCHを右手に持ち替えて、ブン太が左手の小指を私に向けた。…えっ、これって、えっ。


「うん!」


胸がどきどきする。自然と頬が緩む。勢い良く頷いて小指を絡めた私は、恋の始まりを感じた。
それはきっと甘いんだけど、ピリピリと痺れる微炭酸のように少しだけ刺激的で。私達が持っている、この、MATCHのような恋になるだろう。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -