「は…?」

私、今すごくアホ面してると思う。そんな私な顔を見ても笑わないんだから、きっとウツギ博士も本気なのかな?っていやいや嘘でこんなこと言うような人じゃないかこの人は!…でもそうなると。

「旅に出る…ってことですか?」

色んな所って、色んな所でしょ?確かにこの地方を好きになってもらいたい気持ちはあるけど…。同い年のヒビキが旅に出たときだってすごいなあとは思っても、自分もしたいとは思わなかった。

「んー…旅、とまではいかなくてもいいんだ」
「え?」
「チクサちゃんさえよければ、3匹を連れてお使いを頼まれて欲しくてね」

博士の言うことによると、私はジョウト地方の色々な街に行って、博士に頼まれたものを研究所まで持ってくるだけでいいらしい。そのときに3匹を連れて行って欲しいとのことだった。

「旅となるとお母さんも心配になるだろうけど、お使いだったらいいんじゃないかなと思うんだけど…」
「あの、私バトルとか全然出来ないですよ?」
「それはやっていくうちに慣れて行くから大丈夫だよ!特に、チクサちゃんはポケモンと話ができるだろう?使える技や苦手なタイプなどは本人達に聞いてみてもいいしね」
「……でも、私ポケモンのこともよくわからないのに…」
「僕はチクサちゃんだからいいって思ったんだ。3匹だってずっとここにいるよりは、他の場所に行ってみたいと思うだろうし」

博士に言われてテーブルへと目を移す。3匹はクッキーを食べ終わっていた。

「私もそれは思います。この子達に、たくさんジョウト地方について知ってもらいたいっても…」
「うん」
「でもそれって、一応この子達のトレーナーになるってことですよね?私みたいにポケモンについて何も知らない人がなっちゃダメなんじゃないかなと思うんです」

触れたことのあるポケモンが昨日までミントだけだった私が一気に3匹のトレーナーになるなんて、3匹に申し訳ないもん。

「……」
『なあ』
「うん?」
『俺達のこと話してんの?』

ミズゴロウくんが私のシャツを引っ張った。いつの間にか博士移っていた目線を再びミズゴロウくん達に戻す。

「まあ…」
『旅とか聞こえたんすけど…旅に出るんすか?』
「ううん、旅には出ないよ」
『じゃ、誰かが出るとか?』

でもここ、今俺等しかポケモンおらんやろ?キモリくんが冷静に発言。確かにと悩み始める2匹。息の合った3匹だし、この子達と一緒にどこかに出掛けたら楽しいだろうなあ…。

「……ね、」
『?』
「私…君達のトレーナーになってもいいかな?」

キョトン。丸い目を更に丸めて3匹は私を見ている。

『トレーナーって…』
「旅には出ないんだけど、博士のお使いすることになったの。そしたら、博士がこの3匹を連れていかないかって」

本当のことは言わない。3匹に他の街を見せてあげたいからなんて、なんだか恩せがましいもん。

『んー、俺はいいぜい』
「えっ、本当に?」
『ここに来た時点で、トレーナーとかそういうのは出来ないんだと思ってたし』
『…ん、俺もええぜよ』
『俺もっす!』
「でも私、バトルとか全然できないよ?」
『そういうんは大丈夫っしょ?』
『俺等こう見えても強いんすよ』

アチャモくんがへへっと笑った。キモリくんもミズゴロウくんも、アチャモくんの言葉に頷いている。3匹と向かい合う私の肩に、ポンと手がおかれた。

「決まったみたいだね」
「博士?」
「3匹の様子を見ていればわかるよ。嬉しそうだ」
「そう、ですかね」
「うん」

ウツギ博士に言われて3匹を見ると、確かに嬉しそうだった。私も自分のポケモンを持てるんだ…!しかもこの仲良し3匹を、ね。

「…あは、なんか俄然楽しくなってきちゃいました」
「そうかい?」
「はい。…じゃあ、喜んでこのお使いの件はやらせてもらいます!」

敬礼のポーズを博士にとると、不思議そうに3匹が私を見た。

「うん、よろしくね!そしたらまずは自己紹介をしたらいいんじゃないかな?」
「あ、そっか」

「じゃあ…今日からみんなのトレーナーになるチクサです、よろしく!」

私がそう言えばそれぞれから返ってくる返事。3匹と握手をした。小さな手が、前足が、羽が可愛い。するとウツギ博士が気付いたように声をあげた。

「この3匹…名前はどうするんだい?」
「名前?」
「そう、ミントみたいに名前があった方が呼びやすいだろう?」

確かに、それもそうだ。それとみんなに“くん”を付けて呼ぶのも止めよう(めんどくさいなんて思ってないからね…ちょっとしか)

「名前、何かいいのある?」
『別に好きなのでええよ』
『そうそう、チクサの好きなのでさ!』
「んー…はい決まった!」
『えええ!早、え、まじすか?』
「うん、まじ!それでは発表しまーす!」

ジャカジャカジャーン!一応効果音なんかつけてみる。だって名前じゃん。一瞬で出来たとはいえね。

「マサハル!ブンタ!アカヤ!」

キモリ、ミズゴロウ、アチャモの順で指差す。意味なんてさすがに誰も聞かないとは思うけど…止めてね。

『俺がブンタで』
『マサハル』
『アカヤっすよね!』
「うん、偉い!よく覚えた!」
『にしても即興すぎだろい』
『欠片も愛を感じんのう』
「いいじゃん、ねーアカヤ」
『はい!』

「チクサちゃん」
「はーい」
「これが3匹のモンスターボールだよ」
「わ、ありがとうございます!」

手のひらに乗っているモンスターボール。冒険って感じするなあ…。

「それじゃあ既にお使いがあるんだけど、いつ頃出発できそうかな?」
「うんと…どこに行くんですか?」
「最初はキキョウシティだよ」
「あ、それならたぶん明後日には出発できると思います」
「本当かい?」
「はい!」

キキョウシティなら何回か車で行ったことあるし、大丈夫だよね。途中にヨシノシティもあるし。

「それなら明後日の朝、3匹を渡すから一度研究所に来てね」
「わかりました!」

そうしてすぐに私は家に帰った。明後日の準備をするために。家に帰ってケーキを作っているお母さんに話すと、いいじゃない!とめちゃめちゃ喜んでいた。楽しいお使いになるといいなあ!


まだ、スタート地点に立ったばかり