「明日は何か用事があったりするのかい?」 「いや、特に何も…」 「それじゃあ明日も同じ時間帯にまたここに来てほしいんだけどいいかな?」 あんなキラキラした目で言われちゃ行かない訳にいかないじゃんか…! 昨日はあの後ウツギ博士に電話が入ってどうやら長くなりそうだからと帰してくれたはよかったんだけど、私は結局今日も研究所に向かっている。ただ昨日と違うのは、お母さんが作ってくれたポケモン用のクッキーを持っているということ。あの子達喜んでくれるかなあ。 「こんにちはー…」 「あら、チクサちゃんこんにちは。ウツギ博士には聞いてるから、研究室に案内するわね」 「はい」 あ、女の研究員さんもいるんだ。それにしてもいやはや美人。目の保養になります。 そんな研究員さんに案内されて昨日と同じ部屋に入った。あれ、なんか今日はやけに静か。昨日来たときは3匹の声が聞こえていたのに…。 「ウツギ博士、チクサちゃんが来てくれましたよ」 研究員さんがそう言うと、ウツギ博士は本棚の横から顔を出した。そして研究員さんにはありがとうと伝え、私にはおいでと言うように手を振った。 「こんにちは、何か調べてたんですか?」 「うん、前の雑誌にチクサちゃんと同じような人が載っていたのを思い出してね」 「…私と同じような?」 「いろんなポケモンと話せる人さ!…あ、この人だよ」 な、なんてイケメン…!博士が開いたページにはなんとも爽やかな笑顔を浮かべた男の人が写っていた。「一番最初の友達は、家で飼っていたニャースでした」そんな言葉が見出しのように書かれてる。うわ、まだ20歳とか私と2つしか違わないんだ…。 「これは先々月のものなんだけど、僕はその後に一度タクトくんと会っていてね。チクサちゃんと全く同じようにしてポケモン達と話していたんだ」 「へえ…」 そっか、私と同じような人はやっぱりいたんだ。だって私がいるんだもん、同じような人はいて当然だよね! 私は何だか嬉しくなった。タクトさん。うん、ちゃんと名前覚えておこう! 「あ、そう言えば昨日お母さんに頼んでクッキー作って貰ったんですけど…」 「本当かい?ありがとう、あの3匹も喜ぶよ!」 「…でも、今日は静かですね?」 「ああ、2時間くらい前から昼寝をしてるんだ。そろそろ起きてもいい頃なんだけど…」 そう言って頭を掻きながら3匹がいるであろうところに向かう博士。昼寝…可愛いだろうなあ。ミントも昼寝しているときは本当に可愛い。他のときももちろん可愛いけどね!…あれ、親ばか発言? ウツギ博士についていくと、テーブルの近くのソファの上で3匹仲良く寝ていた。うん、やっぱり可愛い! 「みんなよく眠っていますね」 「…どうやら夜あまり寝てないみたいで、たぶんそのせいだよ」 「え?」 「3匹がこっちに来てから大体2週間くらい経ったんだけど、最初の1週間くらいはキモリが夜に全く寝ていなかったようでね。それを知った2匹が段々一緒に起きているようになってしまって」 困ったように博士がキモリくんを見た。寝れない…わけじゃないんだよね。他の2匹と一緒にすやすやと眠っているキモリくんを見る限りでは、違うんだと思う。 「そうなんですか…」 「うん。それにアチャモもボールに入りたがらないし…。まあ、トレーナーに渡す訳じゃないからそれはいいんだけどね」 「あれ、違うんですか?」 「この3匹は研究対象としてホウエン地方のオダマキ博士から送って貰ったんだ。だから、もしかしたらここの空気にまだ慣れていないのかもしれないね」 「空気…」 私は、この街が大好きだ。いつも優しい風が吹いて、暖かい陽が射して、何よりも街のみんながゆっくりと過ごしている。他の街には買い物以外ではあまり行かないから比べられないかもしれないけど、のんびりと時間が流れるこの街が大好きだ。 「私、ここがすごく好きですよ。…だからこの子達にも、こう思って欲しいです」 自然と言葉が出てきた。いつまでいるのかはわからないけど、こっちの地方だっていいところには違いない。ワカバタウン以外の街だっていいところがあるはずでしょ?せっかく違う地方に来たんだもん、楽しんで貰いたいよ。 「…あ、でもよかったですね!」 「何がだい?」 「この3匹、すごく仲良しじゃないですか。だから離ればなれならなくてよかったなあと思って」 3匹で寝ているなんて、しかもキモリくんが寝れないからってみんなで起きているなんて、きっとすごく仲がいいんだと思う。それがもし1匹ずつに分けられるなんてなったら可哀想だもん。 「…チクサちゃん、」 「あ」 『なんかいい匂い…ん?あ、昨日の!』 そう言って嬉しそうな顔をしてくれたのはミズゴロウくん。いい匂いって、もしかして甘い匂いに敏感なのかな? 「おはよう、ミズゴロウくん。今日はちゃんとポケモン用のクッキー持ってきたよ!」 『まじで?どうりでいい匂いすると思ったぜい!』 「でしょ?じゃあ、はい」 袋に綺麗に詰められたクッキーをミズゴロウくんの前に置くと、(ウツギ博士のとはまた違ってる)キラキラした目でそれを見つめた。それから食べていいのかを確認するように博士を見る。 「ああ、食べてもいいよ」 『やりー!』 『……?』 『…何じゃ?』 「あ、2匹も起きちゃったね」 ミズゴロウくんの声に、眠っていた2匹もうっすらと目を開けた。 「おはよう、私のことわかる?」 『…あ!昨日のお姉さん!』 『…ああ』 「今日はクッキー持ってきたから、2匹にもあげるね」 『まじすか!ありがとうございます!』 『すんっげーうまい!』 「本当?ならよかった!」 ばくばく食べるミズゴロウくん。アチャモくんもキモリくんも食べてくれていて、持ってきた甲斐があったなあってしみじみ思う。 「美味しい?美味しい?」 『はい!ミズゴロウさんの言う通り美味いっす!』 『甘すぎんと美味い』 『アチャモの1個もーらい!』 『あ、ちょ、自分の無くなったからって止めてくださいよ!』 『俺のおかげで食えてんだからそんくらいいいだろい?』 『それは確かに…そうっすけど……』 眉間にしわを寄せて不満気なアチャモくん。 『…わーったわあった!次なんかあったら俺のやる!一口!』 『ケチ!』 『ケチで結構!』 『……』 クッキーの取り合いをしている2匹に、黙々と食べ続けるキモリくん。本当に可愛いなあ。思わず笑っちゃうくらい。 「…チクサちゃん」 「はい?」 「君にお願いがあるんだ」 真剣そうな目をしたウツギ博士。どうしたんだろう? 「この3匹を連れて色んな所に行って欲しい」 それは唐突だった |