【芥川慈郎//中三】
今日は、私の誕生日だ。
ソワソワとした気持ちで彼との待ち合わせの駅へと向かう私の頭上には、綺麗な青空が広がっている。絶対にそんな訳は無いのに、私の誕生日だから晴れてくれたのかな、なんて思うのは流石に浮かれ過ぎだろうか。

学校の日の朝は基本的に彼にモーニングコールをする。いつもは長い長いコールの後にとびきり眠そうな声で、おはよ…と消え入りそうな声が聞こえてきて、そこから彼と彼の眠気との戦いへ援護の声を掛け続ける時間が5分はある。
しかし今日は、ほんの一時間前の彼は違っていた。たった二度のコールの後に「もしもし!」と元気いっぱいの彼の声が聞こえてきたのだ。心底びっくりして、思わず電話の相手の名前を確認した。それでも画面に表示されているのは間違いなくジローで、そして再び携帯に耳を当てると不思議そうに私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえた。

電車から降りると、ホームの隙間からはやはり晴れ渡った空が見えている。やっぱりいつものそれよりよずっと綺麗でキラキラして見えた。たったそれだけで緩みそうになる口元に力を入れ、私は青空から階段へと目を移す。
幾ら空が綺麗に晴れ渡っているからといってこんなに嬉しくなる私じゃない。誕生日だからといってこんなに浮かれてしまう私じゃない。
ジローは知っているのだろうか。誕生日に自分が起きていた事だけで、こんなにも嬉しく思う彼女がいる事を。昨日の夜寝ちゃったから、朝一番に言いたくて起きてたんだよ、と言われただけでこんなにも浮かれてしまう彼女がいる事を。……私はね、知らなかったよ。こんなにも単純な私がいるなんて。
いつもなら人混みが嫌だなと思う階段もへっちゃらだ。温い空気感の駅の中だって気にならない。

「……え」

そして駅の外に出て再び青空の下に出てこようとした私の目に、太陽に負けないくらいのキラキラな金髪が映った。空を見上げていた彼は、自分に向かって歩いてくるのが見えたのかこちらの方を向いて。

「おはよう!」

誕生日、おめでとう!そう言った彼の顔には、まるで花が咲いたかのような満面の笑み。

「今日なんか、スゲー晴れたね!」

君の誕生日だからかなぁ、と空を見る彼がいつもよりも眩しく見えるのは何故だろう。

「じゃあ行こっか!」

差し出された右手を握ればまるで陽だまりの様に暖かい。

私の誕生日だから、じゃない。私の隣りに、ジローがいてくれるからだよ。
緩む口元を気にせずに私だけの大好きな陽だまりを握り締め、私は歩き始めた。


【向日岳人//高三】
今日は、私の誕生日だ。

「ちょっと着いてきてくんね?」

一緒にお昼ご飯を食べてから少し話していた私と岳人。しかしその間ずっと落ち着かない様子で、というか考えてみればお昼ご飯を食べ始めた時も何だかいつもと少し違った様な気がする彼が、神妙な面持ちで聞いてきた。
お互いに弁当を片付けて一緒に教室を出る。何処に行くの?と聞いても答えてくれない彼は、やはり周りをキョロキョロと見渡している。どうしたんだろう。階段を下りて、1階まで来るとそのまま中庭に向かう。しかし着いた途端にびたっと止まり、それから何か考える様に上を見て、こっち、と告げて再び歩き始めた。

「どうしたの?」

何を考えているのかわからず、もう一度聞いてみる。

「いや、どうもしねえけど」

私の事をじっと見てから彼は答えた。どう見たってどうもしなくない。しかしそう言われてしまってはこれ以上は聞けないというものだ。
そのまま歩いて歩いて、たどり着いたのは音楽室だった。当たり前だけど誰も居なくて、そして教室棟から離れているのでとても静かだ。

「あーっと、」

中に入り振り返った彼が目の前にある椅子を引いた。促されるまま座ると、目を閉じてと言われて目も閉じた。なんだろう。何も見えなくなるだけでもドキドキするのに、後ろから聞こえてくる音が尚更そうさせる。私の周りの空気が動き、擦れる服の音が耳元で聞こえる。首元に冷たさを感じて目を開けそうになるのをぐっと耐えた。

「開けていーぜ」

待ちに待った声と共に私の目に飛び込んできたのは、可愛いハートのネックレスだった。ハッとして振り返ると恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに私を見ている彼と目が合う。

「誕生日おめでとう」

そう白い歯を見せて笑ったのを見て私の胸はキュンと高鳴る。ありがとうと大好きを伝える為に、私は息を吸い込んだ。


【丸井ブン太//大三】
今日は、私の誕生日だ。
空にはきらきらお星様。隣には大好きなブン太。

「ご飯美味しかったね」

大学終わりに一緒に買い物に行き、ご飯を食べた帰り道。昔から人気者の彼は、付き合って何年経っても少しも変わる事無く人気者で優しく、かっこいい。

「な、また行こ」

お店を出てからずっと繋がれている手。付き合って初めて手を繋いだ時にとても嬉しかった事を暫くしてから彼に伝えたら、もっと早く言えよ、とそれからはいつも手を繋いでくれるようになった。何気無い事だった。もしかしたら彼は忘れているかもしれないし、いつの間にか癖になってしまっているだけなのかもしれない。でも私には勿体ないくらいに素敵な彼が、私を好きだと言ってくれる何よりの証拠に思えるのだ。

「あと3時間で誕生日終わっちゃうなぁ」

ただ周りの人が知っているだけの私の誕生日だけど、でも私の世界ではどんな日よりも幸せな誕生日がもう少しで終わりを告げる。

「まだ3時間もあるじゃん」

つーか俺的にはここからが本番なんだけど。そう言った彼の目線の先には彼の住むアパートが。毎年ケーキは彼の手作りで、そのお陰で誕生日が一年で最もお店のケーキに興味が無くなるのだから彼は罪深い。

「ケーキなんだろう」
「……今年のケーキはなー」

話し始めた彼を見ると、彼も私の方を見て優しく目が合った。すると急に繋がれていた手を離され、寂しく宙に揺らぐ私の右手。そして先程まで私を幸せにしてくれていた左手は私の肩に回り、身体ごと自分の元へと引き寄せる。

「家に帰ってのお楽しみ」

ちゅ、と髪に落とされたキスはそのまま星空に溶けていく。まだまだ私の誕生日は、終わらないらしい。

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