今日は、私の誕生日だ。
しかしながら、残念な事に朝からはパラパラと雨が降っては止んでを繰り返していた。空はどんよりと曇り空、校内でもどこか肌寒さを感じる程に気温も高くない。
……というのにも関わらず、私の胸の中は綺麗晴れ渡り、それどころか花でも舞っているかの如く浮かれている。何故ならば今日は、光先輩と付き合ってから初めての私の誕生日だからだ!
一日中ソワソワしていた。昨日の夜、日付が変わったのと同時に先輩から来たLINEを何度見返した事だろう。見れば見る程先輩の事がどんどん好きになってしまうのに、会いたくなってしまうのに。でも何度だって見たくなってしまうのだから仕方がない。
光先輩に会いたい。今日だけで何度思った事か。お昼ご飯だって一緒に食べたのにこの有様なのだから、自分の光先輩好きには困ったものだ。

漸く授業が終わり、待ちに待った放課後。夕方頃には止むかもしれない、と朝の天気予報で言っていた雨はやはり降っているままだけど、私にはそんなのは関係なかった。
『最後の授業理科やから少し遅くなるかもしれんし、教室で待っとって』
ソワソワする。先輩早く来ないかな。待っててと言われたから待っているけれど、でも教室の外くらいになら出てもいいだろうか。そう思ったが最後、カバンを持って私は立ち上がった。だってその方が先輩も楽だろうしね。なんて、誰も聞いていないのに心の中で言い訳をしながら教室の外へと向かう。
私が出ていくのを見た友達に、楽しんでね!と声を掛けられ、それでまた浮かれてしまう。そう、私はこれから光先輩と放課後デートなの!放っておけば軽くスキップなんかしそうなので、床を踏み締める様にしてドアを開けた。
「へ?」
するとなんと、目の前には光先輩が立っていた。……え、嘘、何、ホンモノ?会いたすぎて幻でも見えたって事?
「カバン持ってどこ行くとこやったん」
初めこそ驚いた顔で見ていた先輩だったけれど、すぐに私だと理解して声を掛けてきた。
「あ、いや、光先輩の事廊下で待ってようかなって」
喋ったという事は幻では無い。思い焦がれた目の前に立っているこの先輩は、ホンモノだったのだ。
「そうか。おおきに」
未だ動かないままの私達は、私は教室内に、光先輩は廊下に立っているままだ。
ぽん。しかしいとも簡単にその境界線を超えてきた先輩の手は、そのまま私の頭に乗って何度か優しく撫でてくれた。一瞬にして頬に集まる熱。柔らかな先輩の表情は私の大好きなそれで。
「ほな行くで」
黙って自分を見つめる私に笑いを零し、私を撫でていた手は先輩の制服のポケットへ。
「……はい!」
背を向けて歩き出した先輩の動きを見て漸く私の中の時が動き始めたのか、そう返事をして一歩を踏み出そうとする。しかしその直後、不自然に静かな背後と強烈な視線を感じて振り返る。……ヒッ!クラスメイトから惜しみなく注がれる視線が恥ずかしくて、私は弾ける様に教室を出た。
「なんでそないに顔赤くなっとんねん」
自分の横に着いた私を見るなり、先輩は口元を緩める。
「だ、だって先輩がっ」
あれは本当に短い時間だったけれど、いつの間にか二人だけの空間になってしまっていた。
……だって先輩が、ああやって笑いながら頭を撫でてくれるなんて思わなくて。でも私にその言葉を声にする事は出来ず、途中で口を噤む。
「……俺が何?」
そう言って首を傾げた先輩のピアスがきらりと光った。
「……何でもないです」
はあ。どうしよう。胸がキュンキュンする。結局何も言えずに先輩から目を逸らすと、窓ガラスに水滴が付いていた。
いつもならやだな、と思うのになぁ。それなのに少しだってこの胸の高鳴りは収まらないし。光先輩はいつも、私の中にあるドキドキのリミッターをすぐに壊しちゃうんだからずるい。
「雨止まへんかったな」
「そうですね」
「傘ちゃんと持ってきた?」
「あ、はい!」
時折止む時間があったとはいえ雨は朝から降っていたから。本当は光先輩と手を繋いで帰りたかったけど、こればかりは仕方がないのだ。

玄関に来ると、まだ早いからか人は疎ら。光先輩が思ったよりも早く私の教室に来れたのは、授業が早く終わったからだって言ってた。流石私の誕生日!、と先輩に言ったら「自分の授業やなくて、俺のクラスの授業のを早く終わらす辺りがお前らしいわ」と笑っていた。
先輩と離れて靴を履き替える。外から直接空気が舞い込む生徒玄関は湿り気の帯びた冷気が溜まっている。
「あ、光先輩早い」
傘を取りに行くと、先輩は一足先に取り出していた。
「すぐ見つけるので待ってて下さい!」
乱雑に詰め込まれた傘立ての中から、分かりやすいようにと以前友達とマスキングテープを巻いた傘の柄を探す。そしてそのお陰ですぐにそれは見つかり、私も無事に傘を救出。
「お待たせしました!」
傘を持って振り返る。私を見ていた先輩と目が合って、それだけで自然と笑ってしまうのだから私の表情筋はとても素直だ。
「あ、雨少し弱まった感じしますね」
「せやな」
一緒に玄関口に行くと、どうやら昼頃よりはその雨足は幾分かマシになっている様に思えた。しかし傘を差さなくてもいい程では無く、私は傘のボタンへと手を掛ける。
「でもこんくらいやったら、俺の傘だけでええんちゃう?」
そう言われて横を見ると、光先輩は自分の傘のボタンを外していた。
……それって、どういう?ちゃんと理解出来ないままの私に向けて、広げた傘を自分の方に傾ける先輩。
「せやから、傘に入ってこいって言うてんねんけど」
先輩の言葉で漸く傾けられた傘の意味を知り、すぐに先輩の傘へ飛び込む。そうして見上げた先輩は物凄く近くてかっこよくて、もうこのまま時が止まっちゃえばいいのにって思うくらい。
濡れる足元も肌寒い空気も今の私にはへっちゃらだ。光先輩が入れば、私にとってはどんな日でもスーパーハッピーバースデーになるのだ!

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