(**=夢主視点、##=赤也視点)

**
今日は、私の誕生日だ。
友人達には登校してからすぐにお祝いしてもらい、既にとてもハッピーな気持ちでいっぱいだ。嬉しいなぁ。誕生日って、いいなぁ。そんな気持ちで溢れる私の胸の中だけれど、ほんの少しのだけ。誕生日なのだからと欲張りを言う事を許してもらえるのなら、出来れば祝って貰いたい人が一人いる。

「あ、今日誕生日なんだ!」

丁度登校してきた、このクラスになってから仲良くなった子が声を掛けてくれた。頷くと、おめでとうと言ってくれてまたひとつ、心の中がほわっと温かくなる。

「ありがとう!」

嬉しいなぁ、と思いながらも私の目は時計を気にしてしまう。まだ朝のホームルームまでは結構時間がある。去年まで同じクラスだった時は、いつもそれのギリギリに滑り込みで入ってきていた赤也はおそらくまだ来ていないだろう。
もしも欲張りを言ってもいいのなら。あの、ワガママで気が強くて英語が超苦手なくせにテニスをしている姿が誰もかっこいい。そんな元クラスメイトであり、私の好きな人である赤也からもおめでとうと言ってもらいたい。

「おはよ、おめでと!」

今度は二年生の時に同じクラスだった友達が入ってきてそう言ってくれた。同じく、ありがとうと返す。


しかし、残念ながら私の想い人である赤也は、私の誕生日を知らないのだ。
二年生最後の席替えで隣りになり、仲良くなった私達。話が合うだけに留まらず一緒に購買や自販なんかに行くようになり、怖そうだと思っていた四月の記憶なんて何処へやら。一緒にいれば楽しくて、話をするのは面白くて。
少しずつ募る思いに見て見ぬふりをしていた、ある日の事。
『なんかお前、顔色変じゃね?』
確かに具合が悪かった。でもその日は隣の席の赤也と組んでのリコーダーのテストがあったから、それまではと思って我慢していた。
『別にそんくらいいつでも受けれんだろ』
珍しく心配そうに覗き込んできた彼の瞳と、気にして声を掛けてくれたその優しさを一人、ぼんやりと思い出した瞬間。
瞬く間に顔が熱くなるのを感じてついに、思いに向き合うしかないと悟った。

##
「あ、今日誕生日なんだ!」

今日も今日とて朝から眠い。でも、ザワつく廊下を歩く俺の耳は、どこからか聞こえてきたその声を何故だか拾い上げた。不意に顔を上げる。ここはアイツのいるクラスの前だった。
いつもの癖で、歩きながら教室の中に目をやる。去年の終わりに席替えをして話す様になった彼女とはクラス替えをしてからはほとんど話す事も無くなってしまった。それなのに俺の目は、未だにアイツを追っている。

「……え」

一瞬目をやった彼女の席には友達が何人か集っていた。それはまぁ、あるっちゃある。

「ありがとう!」

しかしながら、おめでとうとお祝いの言葉に返事をした声があまりに聞き覚えのある声で。俺は思わず途中で歩みを止めた。……待て待て待て待て。そうこうしている内に目の前を通り過ぎて教室に入っていった女子は、去年同じクラスだった女子だった。確かアイツが仲良くしていたはず…。

「トイレ行こ」

誰も聞いてねーのに言い訳をして、来た道を戻ってもう一度教室を覗く。さっき入っていった女子もやはり、彼女の前にいた。そんな彼女はというと、嬉しそうに笑っている。

「……」

いや、コレは確定だろ。マジかよ。ぜんっぜん知らなかったわ。言えよ。そんなの言われなきゃわかんねーじゃん。

「……マジか」

俺の口から零れた呟きは、名前も知らない生徒の声に溶けていった。



「底辺が15cmで…」

黒板前から聞こえてくる授業の声に、今日は眠気が促される事は無い。でも、外を見たり、時計を見たり、偶にノートをとったり。視界に入るのはいつもの風景だけど、俺の頭の中はまるで違っていた。
誕生日つったって今更知ってどうすんだよ。つーかアイツって何が好きなんだっけ。何したら喜ぶんだろ。思い出す顔はいつも笑ってんのに、肝心な所の記憶がほとんどない。それは何気無い会話に隠れていたのか、それとも俺がただ知らないだけなのか。空を眺めても、時間割をみても、数式を書き込んでも。今の俺が欲しい情報はひとつも入ってこなくて、ため息が出た。
おめでとうってだけでも言えば良かった。今からは準備出来ねえプレゼントを考えたって仕方がないし、特に女子が喜びそうなものも持ってないし、そもそも何をしたらいいのかもわかんねーし。朝聞いて、さっき聞こえてきてきたけど、って一言言っときゃ良かったのに。

「それじゃあ残りの時間で次の授業までの宿題を…」

時計に目をやると、四時間目ももう残り5分しかない。え、嘘だろ。もう昼飯?そう思うと途端に腹が減ってきた。あー、でもそういや今日購買にも行って…。

「……」

あ、俺ひとつだけ知ってる。アイツが好きな物。
すっからかんの腹の中に、弁当を押し込めるのはもう少し待つことにしよう。授業が終わったら財布持ってソッコーで教室出て。そうと決まれば、後はもう待つだけだ。半分しかとってなかったノートを埋めようと、俺はシャーペンを握り直した。

**
昼休み。友達からお祝いされるのも大抵一時間目の休み時間までで終わり、今となっては普通の日の様な感じになってしまった。それでも友達がくれたお祝いの言葉やメッセージを思うと何度でも嬉しくて、私の心の中はほわっと暖かくなる。
お昼ご飯は、仲のいい友達の席の近くへと移動して食べている。その前に一応携帯を確認するけど、当たり前だけれど赤也からのメッセージは届いていない。

いつも話していたなら、今日誕生日なんだけど、と直接本人に声を掛けれただろうか。そんなどうしようもない、もし、を考えては一人ため息をつきたくなるのを我慢する。友達からもらったものだけでも嬉しいはずなのに、今日の私はなんて欲張りなんだろう。お弁当を持って、いつもの席へ移動する。既に友達はみんな集まっていた。
ガタン!友達の会話の中に入りながらお弁当を広げていると、突然大きな音と共にドアが開いて顔を上げる。そこには、赤也が立っていた。教室を見渡した彼は、私と目が合うと真っ先に目の前にやってくる。

「これ、誕生日おめでとう」
「え……」

ずいっと差し出された袋を受け取り、驚きながらも中を見る。それは購買で売っている中で、私が一番好きなプリンだった。

「知ってたの?」
「たまたま歩いてたら聞こえて、今買ってきた」

言えよ、わかんねーじゃん。拗ねたような顔でそう言った彼に、ごめん、と言葉が漏れる。

「ま、わかったからいいけどサ」

ニッと笑ってみせた彼の笑顔に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。

「じゃ、……また来るわ」

また来る、って。ものの数分と居ずに去っていく後ろ姿を見つめる私の耳に届いたのは、友人達の驚きの声だった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -