バレンタインデーの段 ●前提の話● 大変なことが起きました。 大好きで、愛して止まない恋人が二人に分かれてしまったのです! 大好きな人が二人になったのは凄く嬉しいのに、今の状況はあまり嬉しくないです。 というか、二人ともいつもと少し違うんです。性格が変わっているんです…! 一人は私を背中から抱き締め、過剰なスキンシップを取り続けている。 彼が話す言葉は少し艶を含んでいて、声には妙な色気がある。しかも耳元で囁かれているものだから今さっきから鳥肌が立ちっぱなしだ。 もう一人は私の目の前に座って、もう私と私の背中にいる自分を恨めしそうに睨んでいた。 だけど私と目が合うと嬉しそうに笑って、でもちょっと恥ずかしそうに目を背ける。言いたいことがあるのか、今さっきから口元で喋っている。…聞きとれないけど。 そんな状況がずっと続いていたけど、とうとう片方が動きだして、事態はとんでもない方向へとむかっていっちゃいました…! ●留三郎のバヤイ● 「っもう我慢ならねぇ!おい俺、女主から離れろ」 「は?嫌に決まってんだろ?女主に触れもしねぇヘタレはどっか行ってろ。俺は女主と二人っきりになりてぇの」 「あ、あの私を挟んで喧嘩はしないでほしいなぁ…」 「ほら見ろ。女主も嫌がってんだろ!つ、つーか別に女主に触れねぇことねぇし…!」 「とか言いながら挙動不審になってるぞ、俺。女主もヘタレな俺より格好いい俺のほうがいいよな?」 「(そ、そりゃあちょっと強引な留三郎も格好いいけど…。…でも…)」 「女主っ、俺のほうがこいつより好きだぜ!は、恥ずかしいけどお前がそういうの望むなら…その…。お、俺だって…っ!」 「(普段見れないヘタレな留三郎もいいかも…!)」 「女主、お前今、こいつ見て「いいかも」って思っただろ」 「へ?あ…そ、そんなこと…」 「女主は俺のこと嫌なのか!?やっぱりそいつみたいな男らしい男のほうがいいのか!?くっそぉ…!」 「そんなこないよ!ちょっとヘタレな留三郎も好きだよ!」 「っしゃぁ!どうだ俺、女主はお前より俺のほうが好きだってよ!」 「…。女主、俺はこいつより何倍も愛してる。言葉で足りねぇって言うなら態度で示してやろうか?」 「(普段見ないような顔でそんなこと言わないでよ…!心臓がいくつあっても足りないじゃない!)」 「どうやら俺のほうが好きみたいだ。諦めるんだな」 「何でだよ!何も喋ってねぇじゃん!」 「好きすぎて声にならないっていうのもあるだろう?」 「知るか!しょうがねぇ!ここは女主を賭けて勝負だァ!」 「望むとこだ。女主、ちょっとの間離れるぞ。すぐに戻る」 「(ほ、頬にキスされた!?)」 「女主、あいつ倒して……その…、必ず俺が迎えにくるッ!」 「(格好いいのに可愛いーっ!)」 但し、勝負は決着つかず。白熱した勝負でした。 ヘタレVS強気 ●小平太のバヤイ● 「女主ー、好き好きーっ!」 「あはは、くすぐったいよ小平太。グリグリしないで」 「んー?じゃあ…」 「うっ…ひゃ!だ、だからってお腹舐めないでよ!」 「だって女主のこと好きだもん!女主好きだーっ。女主も私のこと好きだろう?」 「好き…だけど、お腹をまさぐってくる小平太は好きじゃない…。くすぐったい!」 「女主食べたい」 「直球だね。勘弁して下さい」 「やだ」 「わっ!」 (パチン) 「……何をする」 「女主が嫌がってるだろう。止めろ」 「いいのだ。女主は私のだから!」 「それを言うなら女主は私のものだ」 「でも今さっきから女主の背中に抱きついたまま、何もしてないじゃないか」 「お子様だな、お前は。そんなことしなくても女主のいいとこはあるぞ。なぁ、女主?」 「あ、あの…背中の小平太さん…。耳元で囁かないで下さい…。(ゾクゾクする…!)」 「そうか、女主は耳が弱いんだな」 「―――ひっ…!」 「ほら、いい声で鳴いた」 「こ、小平太…!」 「むーっ…!女主にそういうことやっていいのは私だけだ!女主から離れろ!」 「断る。お前こそ女主から離れろ」 「女主は私のほうが好きだよな?私のほうが女主を守ってやれるぞ?」 「女主、よく考えて答えたほうが身のためだぞ。勿論、私だよな?」 「(何これ…。何で私が選ぶことになってるの?どっち選んでも、どっちかが怒るに決まってるじゃない…!)」 「困ってる女主も可愛い!女主女主ー、女主好きー!」 「困ってる女主の表情もいいな。でもどうせなら……」 「おう、そうだな!せっかく二人に別れたんだ。それで楽しもう!」 「……え?ちょ、ちょっと待って小平太さんと小平太!」 「まず私が最初な!」 「私が先に決まってるだろう」 「ちょっとちょっとちょっとーっ!お願いだからその展開だけは止めて!」 「「女主うるさい。どっちが先か決めるから静かに待ってろ」」 「(どうしてこうなった!)」 どっちが先にヤるかで戦闘開始。そのおかげで逃げることに成功しました! 子供VS大人 ●伊作のバヤイ● 「…」 「ねえ、君いい加減女主から離れなよ。女主が困ってるじゃないか」 「そういう君のほうが離れなよ。君が背中にくっついてるから身動きとれなくて苦しそうなんだけど」 「はあ?それは君だろう?正面から抱きつくなんてバカじゃない?後ろからのほうが女主も安心するよね?」 「え!?あ…まぁ…その、安定感はあります…」 「ほら。女主の気持ちを考えれないなんて恋人として失格。僕のほうが女主にはふさわしいよ」 「ふふっ、だから君はアホだって言われるんだ。女主、恋人なら正面抱きのほうが愛を感じない?僕は嬉しいよ、女主をこんな近くで感じられて」 「あ…そう、ですか…。あのでも…ちょっと恥ずかしい…」 「恥ずかしがる女主も可愛いね。ちょっと虐めたくなっちゃうなー」 「うひゃ!く、首舐めないで!」 「ごめんねー、我慢できないや」 「我慢できるように薬盛ってやろうか?あ、それとも去勢がいい?僕に任せてよ。つーわけで、女主に触れるなゲス野郎」 「優しい声で女主を安心させてあげてるんだろう?でも言葉が汚くなってるよ、直したら?それと、ゲス野郎は君だよ。何で服に手突っ込んでんの?」 「女主は柔らかくて気持ちいいねー。どこ触っても柔らかいなんて最高だよ」 「うううう…!伊作くんと伊作くん…。お願いだから二人とも離れて下さい…」 「「やだ」」 「(何で二人とも黒いのよ!)」 私を挟んで冷戦を始めるのは止めて頂きたい! 腹黒VS腹黒 ●八左ヱ門のバヤイ● 「おい、俺…。女主から離れろ…」 「女主はいつでも可愛いし、柔らかいし、いい匂いするよなー。俺、お前のことめっちゃ好きだぜ!」 「あ、ありがとう、八左ヱ門…」 「離れろって言ってるだろっ…!」 「女主の匂いってすっげぇ落ちつくんだぜ。何でか知ってるか?」 「……し、知らない…」 「俺が女主のこと好きだから!」 「離れろッ!」 「…ったく何だよ、お前。今さっきから俺の邪魔しやがって…。つーか邪魔。女主も困ってるしどっか行け」 「え!?女主、俺のこと邪魔?邪魔してるか?」 「そ、そんなことないよ…!八左ヱ門も八左ヱ門だし…。後ろの八左ヱ門も八左ヱ門だけど…」 「お、俺女主に嫌われたら生きていけねぇ…!悪いとこあったら言ってくれ、すぐに直すからな!」 「そういうとこが嫌いだって言ってやれよ、女主。女主は俺が好きだし、お前には触られたくありませんってな」 「女主〜…、俺のこと嫌いにならないでくれよ…!」 「誰もそこまで言ってないよ!八左ヱ門も好きだよ。だから泣かないで?」 「女主…ッ!っへへ、やっぱ女主は優しいな!」 (バチン) 「いてっ!」 「女主に触んじゃねぇよ駄犬が…」 「ハチ!だ、大丈夫?」 「い、痛い…。女主、痛い…!」 「女主ー、そんな弱虫放っといていいぞ。好きな奴も守れねぇ弱い奴はダメだ。女主が守れなかったら恋人失格だろう?」 「でも…」 「女主…。俺頑張るから…!そいつより強い男になってみせるから…!だ、だから俺を捨てないでくれ…!女主ー、好きだぁ!」 「ハチ…!私も好きだよ。大丈夫、絶対に捨てない!」 「女主…」 「ひ!(八左ヱ門の低い声…!お、怒ってる…!?)」 「番犬の躾を怠ると、狼になっちまうぞ?」 「あ……は、はい…。気をつけます…」 「女主を困らすな!お、俺がお前から女主を守ってやる!」 あっという間にハチが負けてしまったけど、飼育することを許してくれました。番犬の躾も怠らない前提で。 子犬VS番犬 バレンタインデー用SSSでしたっ。 ( TOPへ △ | ▽ ) |