夢/とあるわんこの恋模様 | ナノ

大団円の段


「はぁ…疲れた…」


いつも以上に集中して授業を受けたため、若干頭が痛いと、こめかみに手を添える。
八左ヱ門との関係に疑問を抱いた雷蔵と三郎も声をかけてきたが、「何でもない」とだけ伝えると、それ以上詮索することはなかった。
こういうとき、優秀な友人がいてくれると助かる。全てを悟ってくれて、普段と変わることなく楓や八左ヱ門に声をかけてくれた。


「自分の気持ちに整理か…」


昼食も目を合わすことなかった。
八左ヱ門が気を使って席を離れてくれたとき、安心したのと同時に、切なくなった。
いつも近くにいる八左ヱ門がいなくなって、不安になった、寂しくなった。
今もこうやって放課後に、一人で屋根の上にいるのが寂しい。
隣を見るも、いつも優しく、全てを受け入れてくれる八左ヱ門がいないのは耐えがたいものだ。
何で自分がこんなにも八左ヱ門に依存しているのか解らない。
立派な忍者となるべく、くのたま教室ではなく忍たまに入学したのか…。今の女々しい姿を両親が見たら幻滅するだろう。


「わかんない、よ…」


太陽が沈んでいくのを見て、膝を抱えて呟く。
もやもやと悩んでいる今がとても苦しい。早く解決してしまいたいと思うも、どうしたらいいか解らない。
自分の気持ちに整理しろと言われても自分の気持ちは………。


「私の気持ち……」


鼻をすんすんと鳴らしながら、顔をあげると、丁度太陽が山向こうへと沈んでいった。


「ハチは好きだよ。皆も好き…。一緒にいたい……」


ともかく、思っていることを全部口に出してみた。
だけど、どこかに違和感を感じる。
心の中にいるもう一人の自分が、「違うよ」と教えてくれる。
だから、その言葉を口に出すと、身体中が熱くなって、言葉を失う。
言った言葉は、「私はハチが異性として好き」。


「え…?えっと……あれ…?そ、そうなのかな?私、ハチのこと……男の子として好……」


ボンッ!と熱さで爆発しそうなほど、楓の顔は真っ赤に染まっていた。先ほど沈んでいった太陽に負けないほど真っ赤だ。
ドキドキとうるさい心臓を抑えるも、八左ヱ門の笑った顔を思い浮かべるとさらに早まった。


「わ、私……ハチのことが好き、なん、だ…?男の子として…。だから…、恥ずかしいと思うし、…顔熱いし…」


さあ自分の気持ちは解った。次はどうすれば?
伊作に言われた言葉をよくよく思い出しながら、次はどうすればいいか考える。
自分の気持ちの答えが出たとき、解決すると言っていた。
八左ヱ門の気持ちを考えて。とも言われたが、自分が行動すればそれも解決するだろう。


「は、ハチッ…」


丁度、自主練帰りの八左ヱ門が建物の下を歩いていたので、控えめな声で名前を呼んでみた。
もしかして聞こえないかも。と思ったが、八左ヱ門はすぐに気づいて顔をあげてくれた。


「よー、何してんだ?」


八左ヱ門は普段と変わらない様子で笑ってくれる。
その顔を見て、「申し訳ない」という気持ちと、「好きだ」という気持ちが溢れてくる。


「あのね、話したいことがあるからね、…あの、……ここに来てほしい…」
「…解った。ちょっと汗流してから行くわ」
「いっ、今来てほしい!」


さっさとこの気持ちを解決したい。早く伝えたい。
「自分勝手でごめんね」という表情で言うと、八左ヱ門は頭をかいたあと、軽々と屋根まで飛んできてくれた。
自分はここまで上がるのに、もっと時間がかかるのに…。やはり彼は男なんだなぁ…と実感する。
異性と意識した途端、また顔が熱くなった。


「何だよ、話したいことって」
「う、あ……うぅ…」


向い合って目を合わせると、伝えたいはずの言葉が全て消えてしまった。
パニックになっている楓を見て、八左ヱ門は首を傾げる。
楓を落ちつかせようと手を伸ばすと、楓はビクリと震えて後退する。すぐに「ごめん!」と謝る楓だったが、目の前の八左ヱ門は切なそうな表情で笑っていた。


「ち、違うのハチ!」
「ごめんな楓。俺が昨日あんなことしたからよ…」
「違うっ」
「でも…」
「私、八左ヱ門のことが好きなの!」


一瞬、時が止まったかのように静まり返った。
楓の告白に驚いていた八左ヱ門だったが、すぐにフッと笑って、「俺もだよ」と答える。


「俺も楓のこと好きだぜ」
「…違う…そうじゃない…。そうじゃないよハチ…」
「……。じゃあ、期待していいのか?」


きっと今の告白を、「同級生として好き」ととられてしまい、楓は半分泣きながら俯いて否定する。
すると、八左ヱ門は真面目な声で聞いてきた。
楓が顔をあげると、目の前には八左ヱ門はおらず、その代わり温かい体温に包まれた。
抱き締められていることに気づくまで時間がかかり、驚きの声すらも発することができなかった。


「いつからかわかんねぇけど、俺は楓のことが好きだ」
「………は…ち…」
「同室だから、同級生だから、友達だから、親友だから…。楓が楓で、女だから好きだ」


ギュッと強く抱き締められ苦しかったが、拒否をすることなく、黙って八左ヱ門の言葉を聞いていた。
いつまで経っても止まない心臓音だったが、それは自分の心臓ではなく八左ヱ門の心臓の音で、彼も緊張しているのだと気づいた楓はふにゃんと表情を緩めた。


「昨晩は悪かった。でも、やっぱ好きな奴が近くにいると…その、俺も……男、だから…さ…」
「うん…」
「大体お前は学園に戻ったら警戒心なくなるのがいけねぇんだよ!ああでもしねぇと解んねぇだろ?」
「うん」
「……」
「…」
「なんか言えよ」
「好き」
「っんだそれ!」


バッと楓から離れると、楓は泣きながら幸せそうに笑っていた。
真っ赤になっている八左ヱ門は、さらに顔を赤くさせ、そっぽを向いて顔を隠した。


「ごちゃごちゃしたけど、解決したよ。私、ハチが好き。大好き!」
「解った!解ったから大声で言うな!」
「だからね、私の恋人になって下さいっ!」


えへへ。と笑いながら離れた八左ヱ門の手を握って、告白すると、八左ヱ門は目を見開き、すぐに溜息を吐いた。


「お前なぁ…」
「どうしたの?」
「そう言うのは男の俺に言わせろよ!」
「あはは!」


笑う楓の頬に手を添えて、油断している楓に唇を当てるだけの接吻をして離れたあと、ニヤリと笑う八左ヱ門。
今度は楓が言葉を失っている。


「よし、逆転!」
「は、はち…!」
「楓」
「え、あ…はいっ!」
「俺の恋人になってくれ」
「…うんっ!」


答えると同時に楓は八左ヱ門に抱きつき、屋根から落ちることなく楓をしっかりと抱き締めた。


「やっと元通りになったと思ったらこれとか酷くない!?」
「でも恋人同士になったからと言って、前と変わらない気がするけどなぁ…。ねぇ三郎、どう思う?」
「雷蔵の言う通り、変わらないだろうな。楓はああいう性格だし」
「いや、きっと八左ヱ門の過保護っぷりが増すと思うぞ。あと忠犬っぷりもな」
「はっちゃんってさぁ、楓の飼い主だと思ってるけど、実は違うよね」
「傍から見れば、楓が犬で八左ヱ門がその飼い主…。だが、よくよく観察すると楓が飼い主で、八左ヱ門が犬だな」
「あはは!それでもつり合いがとれてるからいいんじゃない?二人が幸せなら僕も嬉しいよ」
「俺も。長年の片思いが実ってよかったと思う」
「ああ、いつからか忘れたが、八左ヱ門は楓のことが好きだったな。よく我慢できたものだ…」
「俺だったらもっと早めに告白しとくのになぁ…。はっちゃんってもしかして無自覚マゾ?」
「それは気持ち悪い」
「気持ち悪いな」
「まぁまぁ。ともかく、おめでとうだよ!」
「だな。でもこれで、犬の恋模様を観察できなくなると寂しくなるな」
「今度からは犬同士の恋模様が観察できるのだ」

「お前らうるせぇんだよ!全部聞こえてっからな!」
「私、犬じゃないよー?」

「あーらら…。バレてたみたいだね…」
「よし、じゃあ邪魔しに行っちゃおう!」
「勘右衛門に賛成だ。行くぞ雷蔵」
「兵助も早く!」


三郎が雷蔵の手を、勘右衛門が兵助の手を取って二人の元へと向かい、全員が笑って二人を祝福してくれたのだった。


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