夢/とあるわんこの恋模様 | ナノ

忠告狼の段


!注意!
生理ネタ含みますので、苦手な方は進まないようお気をつけ下さい。





「あ、早かったねー」
「…。まぁな」


風呂からあがって部屋に帰ってくると、薬草の匂いが鼻の奥をツンと刺激した。
同じく風呂上がりの楓がついたての向こうで薬を煎じて、パタパタと扇子で扇いでいる。
それが何を意味するか、何年も一緒にいれば解った俺は、特に何も言うことなく手ぬぐいをついたてにかけて、布団を敷く。


「ごめんね、ハチ」
「何が」
「薬」
「別にー」


臭いでしょ?と聞かれ、また「別に」と答えると楓は顔を引っ込めて、扇子を扇ぐ作業に戻る。
薬臭いのは確かだが、俺としても嬉しいことだ。なんたって俺は五年で一番鼻がいいからな。


「(毎月毎月、女ってのは大変だな…)」


別のことに集中するため、壊れかけた虫カゴを手に取って修理を始める。
楓が薬を煎じるようになったのは、女性特有のアレが始まったから。
最初は意味が解らなくて、「臭い!」って怒ったら、楓は真っ赤になりながら事情を説明してくれた。
善法寺先輩から教えてもらい、血の匂いを消すために薬を煎じる。
よく解んねぇけど、普段起きてるときは自在に血を出すことができるらしいが、寝ているときはできないんだと。
だから腰になんか巻いて寝るし、匂いを消すための薬を煎じる。
恥ずかしいからもあるけど、他の誰かにバレないためにやっているので、特に文句はない。バレるのは怖いからな。


「(でもなぁ…)」


薬でいくら誤魔化しても、時々匂う血の香りにハァと溜息を吐く。
こればかりはどうも慣れない。血の匂いには慣れているはずなのに、この匂いはダメだ。
血とは別の匂いが混ざってる、と思う。それが苦手だ。
楓は悪くないし、数日でこれも消える。数日の我慢すればいいだけの話だが、……。


「(興奮しちまう)」
「ハチ」
「ッ…お、おう。どうした?」
「今大丈夫?」
「ああ」


楓に呼ばれて身体が飛び跳ねてしまい、虫カゴを少し壊してしまった…。
今日はもう諦めて楓に顔を向けると、楓は申し訳なさそうに笑って手招きをしてくる。
あまり近づきたくないんだけど、楓に呼ばれるんなら仕方ねぇ…。
ここで拒絶したらまた悲しむだろうし。


「どうした?」


近づくと薬の匂いがきつくなって、少し咳き込む。
すっげぇ臭い…。楓は平気なのか?


「あのね、ちょっとだけいいから腰擦ってくれない?」
「…は?こ、腰?」
「うん、ちょっと……あの、痛くて…」


そう言えば今日一日、元気がなかったような…。
激しい動きをしなかったのは腰が痛かったからか。


「痛ぇの?」
「うん…。普段はそんなことないんだけど、…ほら寒いじゃん?」
「まぁいいけど…。じゃあ横になれよ」
「ありがとう、ハチ!」


ついたて向こうには滅多なことがない限り足を踏み入れない。
ほら、忍たまとは言え楓は女だろ?男が無闇に足を踏み入れたらいけねぇと思うんだ。嫁入り前だしな!
うつ伏せになった楓の横に座って、寝間着の上に手を乗せると「そこー」と枕に顔を埋めたまま言ってきたので、左右に擦ってやる。
改めて触ると俺らとは違うって実感してしまう。小柄だからじゃなくて、本当に細いんだ。
少しでも力入れたら壊れそうな感じがして、何度か「痛くないか?」「大丈夫か?」と聞いてしまった。
そのたびに楓は笑って「平気」「気持ちいい」と答えてくれる。


「ごめん、今度は軽く叩いてー…」
「これぐらいか?」
「うん」


俺が話しかけるとちゃんと答えてくれるけど、それ以外は喋らない。
いつもはうるさいぐらい話しかけてくるのに、今は一切喋りかけてこねぇ…。
痛みは理解できねぇけど、気持ちはちょっとだけ解った気がした。


「(―――また…)」


擦ったり、叩いてあげている間、血の匂いに混じって苦手なあの匂いがした。それがなんなのか解んねぇけど、あの匂いをかぐとすっげぇ興奮しちまう。


「(…解った、メスの匂いだ…)」


近い分匂いも強く、そのたびに心臓の音が早く動きだして、違うことを考えようとする。
じゃないと邪な目で楓を見てしまう…。それはダメだ。楓に失礼だ。
一度目を瞑って自分を落ちつかせたあと、目を開けて楓の顔を見ると、楓が俺を見ていた。
枕に顔を埋めていたから視線が合うとは思ってなかったから、思わず擦っていた手が止まってしまった。


「ごめんね、ハチ」
「き、気にするなって」
「でもほら……。ねぇ?」
「別になんともねぇよ。まぁ、薬臭ぇけどな」
「そっかー…。ごめん、今回だけだから…」
「いいって、気にするな」
「ハチは優しいなぁ。でも、もういいよ。ありがとう、大分楽になった!」


起き上がって自分で腰を叩いたあと、「ありがとうね!」と笑う楓は、昼間よりは確かに楽そうな顔をしていた。
あれぐらいで楽になるならいつでもやってやるのに。
普段は我儘言ったり、甘えてくるのに、こういったことは遠慮気味。…いや、腰擦ってって言ってきたからやっぱ甘えてるか。こいつ甘え上手だからなー…。


「今日は気持ちよく寝れそう!」
「そうか。そりゃよかった」
「お礼に肩でも揉んであげるよー」
「いいって」
「いいからいいから!」


起き上がって俺の手を掴む楓を拒絶するも、楓は離そうとしない。
つーかもうマジでいいから!今触られると色々とヤバい気がする…!
小さな攻防戦をしていると、楓の寝間着が乱れ胸元が微かに見えた。
瞬間、顔が赤くなって、次に身体が熱くなる。掴んでいた手をバッ!と離すと、楓は後ろへと倒れる。


「いたた…。そ、そんなに拒否しなく「太もも隠せ!」


転んだせいで裾もめくれ、あまり見ることのない太ももが目に入ってしまい、慌てて後ろを向く。
み、見たらいけねぇもん見ちまった…!
口元を手で押さえたまま、楓にバレないよう深呼吸をして落ち着かせる。
……にしても柔らかそうだったな。やっぱ俺らとは違うんだなー……。


「あはは、めくれちゃったね」


心臓の音が楓に聞こえるんじゃないかってぐらいうるさく鳴ってんのに、楓はいつもと変わらない声でケラケラ笑っていた。
知ってたけど、何で楓は警戒心がないんだ?
前だって、俺の布団の中に入って一緒に寝ようとするし…。
未だ真っ赤になった顔のまま横目で後ろを見ると、蝋燭の灯に照らされて乱れた寝間着を直している楓が目に入った。途端、ブチンと俺の中の何かが切れた。


「…ハチ?どうかした?」


動いて乱れた寝間着を戻していると、背中を向けていたハチと目が合った。
暗くてよく見えなかったけど、その瞬間だけ、ハチの目が狼のように光った気がした。
いつもの優しい雰囲気もなく、静かに私を見てくる。
ちょっとだけ怖かったけど、ハチなのは変わりないから声をかけると、私に近づいて来た。
その距離はかなり近く、思わず後ろに身体を引くと手を握られ、肩が飛び跳ねて慌てて目を反らす。
ハチから私に近づいてくることなんてない…。だからビックリしてるんだ。
そう自分に言い聞かせるけど、そんな雰囲気じゃないのはさすがの私にも理解できた。


「―――楓」
「(うっ…!)」


ギュッと力を込めて握ったあと、耳元で私の名前を呼ぶ声に鳥肌が立った。
気持ち悪いような、くすぐったいような、気持ちいいような解らない感覚に戸惑う。
ど、どうしよう…。どうしよう!こんなハチ、私は知らない!だ、だってそんな風に誘った覚えなんてないもん!
握った手にハチの指が絡まれ、さらに強く握られてしまって逃げることができない。
でもどうにかしてこの場から脱出しようと逃げ道を探す。


「髪の毛邪魔」
「ひゃっ!」


逃がさないと言うように、解いていた髪を片手で適当にまとめて、後頭部に添えた。
無防備になった首にハチが唇を落とすとさらに身体が飛び跳ねる。
力が抜けそうになるのを堪え、後ろに逃げようとすると、まとめていた髪の毛を後ろへ引いて布団に組み敷かれる。
背中を打ったけど、頭はハチのおかげで打たずにすんだ。
だけど、天井と一緒にうつるハチの顔を見て、今の状況に危機感を覚える。


「ハ、ハチ…。冗談だよね…?ごめんね、ちょっとふざけすぎた…!今日は大人しく寝るから」


奥歯が震えているまま話したから、ちゃんと言えているのか解らなかった。
きっと私がしつこかったから、ハチが怒ったんだ。ハチの言うことは聞くってこの間言ったばかりなのに…。ハチが怒るのも当然だよね!でも私、今度こそ理解できたよ。だから、


「だ、だからもう許して…」


怖いよ、ハチ。無表情の顔が怖い。
涙で視界が揺らいだけど、何度も謝っていると、目じりを舐められる。
怖くなってギュッと目を瞑ったあと、首筋に鋭い痛みが走った。


「いっ…!」
「よし、今日はこれで許してやる」
「………ハ、チ…?」
「今度しつこかったりしたら、本当に食っちまうからな」


目を開けると、いつもの雰囲気をまとったハチがいた。
痛んだ場所を触ると、歯型?らしき手触りがした。ああ、きっとハチなら人間でも食べるんだろうな…。
触っていた手を掴まれ上半身を起こされたあと、ぐしゃぐしゃと頭を乱暴に撫でてニッと笑った。


「腰の痛みも引いただろ?」
「え?……あ、うん…」
「痛みが酷ぇならそうやって違うこと考えて我慢しろ」
「わか…った…」
「じゃあもう寝ようぜ。灯り、消しといてくれ」
「うん、……ハチ」


いつもの声、いつもの笑顔、いつもの雰囲気…。
だけど何かが違う気がして、自分の布団へ戻って行くハチに声をかけると、ハチは「んー?」と布団に入りながら返事をしてくれた。


「……あの…」
「何だよ。俺もう寝るぞ?」
「あ……じゃ、いいや…。ごめんね、ありがとう」
「おー、おやすみー」
「おやすみ、ハチ!」


ハチが布団に入ったあと、蝋燭の灯りを消して自分も布団に潜り込む。
天井を見上げると、今さっきのハチを思い出して落ちついたはずの心臓が再び早まる。


「(ね、寝れない…!)」


あの声、あの顔。
思い出すだけで顔が赤くなってしまい、腰の痛みも忘れて朝方まで葛藤してしまった…。


「(まぁ、性的な意味で食ってやるって言ったんだけど…。楓は気づかねぇんだろうよ。……明日からどうすっかな)」





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