夢/とある軍人の軌跡 | ナノ

入隊


何故か軍施設の練兵場には、大きな断頭台があり、いつでも首を落とすことができるよう刃が太陽の光りを受け、輝いていた。
その断頭台の前には六人の軍人が横一列に並んでおり、ぴっちり着ているものもいれば、着物の上に羽織っているだけのもの、白衣を着ているものがいた。


「たった一年会わないだけで変わったな」
「うん、いかにも軍人らしくなってる」


前に並んでいるのは恐らく、この軍の最高責任者たち。
若い顔立ちをしているが、雰囲気は一流の軍人。
その中の一人。参謀長の立花仙蔵が一歩前に出て、木造でできた指令台(朝礼台)へとのぼる。


「厳しい訓練を終え、よく入隊した。心から歓迎する」


仙蔵の最初の言葉はとても優しいものだった。
今までの頑張りを褒め称え、何度もこの軍に入隊したことを感謝し、頭を下げた。
そんな仙蔵を見て、隣同士に並んでいた八左ヱ門と名前は眉をしかめる。
斜め前に肩を並べて立っている三郎と雷蔵、八左ヱ門の後ろのほうに立っている勘右衛門と兵助も複雑そうな表情をしている。


「ねえ八左ヱ門。私あんまりいい予感がしない…」
「だな。あれ絶対心こもってねぇぞ」


二人の予想どおり、後ろに待機している文次郎たちも複雑な表情だった。


「まず君たちの仕事は、配属先を決めることだ。卒業前に配属先希望願いを提出したと思うが、確認のため再び書いてもらう」


この春、名前たちは士官学校を無事卒業し、仙蔵たちがいる軍へと入隊した。
同級生だったものも多いが、一般から募集した兵たちもたくさんいた。
昨年までの軍隊は、仕事怠慢、任務放棄などで住民たちから嫌われていた。
その軍隊を一度崩壊させたのが、仙蔵たち。新しく作り上げる軍隊に興味を抱く住民も多く、また軍人だというのに近寄りやすい印象を与えている。
そのため、現在の軍隊は住民からたくさんの指示を得ている。


「その前に機関の上に立つものを紹介しよう」


本来なら、下っ端が決めるものではない。
しかし仙蔵はそれぞれの意見を尊重し、自分の好きなようにさせているのだ。
だからこそ士官学生からの指示も強く、他の街からもこぞって入隊を希望している。
仙蔵の言葉を聞いた文次郎たちは指令台の前に移動し、姿勢を整える。


「私は幕僚機関の立花仙蔵だ。で、こっちから、兵站機関の潮江文次郎。特務機関の七松小平太。情報機関の中在家長次。準軍事組織の食満留三郎。衛生機関の善法寺伊作だ」


その後、簡単に機関の内容と仕事内容も説明した。
少しざわつきが起きるが、すでに士官学生のときから配属先が決まっていた名前たちは特に騒ぐことなく静かに待っている。
すぐにわざつきも収まり、仙蔵による挨拶と機関の説明は終了。
そのまま施設内に向かうのだが、名前たちはその場に立ちつくす。他に残っているのは最高責任者たち五人。


「お久しぶりです」


他の新兵がいなくなったあと、最初に口を開いたのは三郎。
勘右衛門、兵助、八左ヱ門、名前が三郎と雷蔵のもとに集まり、揃って頭をさげる。


「おー、久しぶりだな!元気にしてたか?」
「ほんと久しぶりだよねー。皆変わってないなぁ!」


気さくに、昔のように話しかけてきたのは食満留三郎と、善法寺伊作。
先ほどの雰囲気はすでになく、昔と変わらない柔らかい笑みを浮かべている。
最高責任者になったのだから、それなりに変わったのかと思えば、全然変わってなく、名前たちは少し肩の力を抜いた。


「卒業できてよかったな…」
「まあ私が卒業できたのだから大丈夫だろう!」
「あはは、僕たちは大丈夫だったんですけど、八左ヱ門と名前がちょっと…」
「雷蔵っ、それは内緒だよー!」
「特に名前は危なかったな」
「兵助まで!」


何せ女だ。いくら小平太に鍛えられていたとは言え、体力も腕力も他の仲間には劣ってしまう。
勉学で巻き返そうとしても、どうしても三郎や兵助、雷蔵がいるため上位へは入れない。
目立って優秀なところもなく、卒業は絶望的だったのだが、本当にぎりぎりで卒業できた。


「そんなんだとここに入って苦労するぞ。常に鍛錬しろ!」
「は、はい!」


文次郎の一喝に、名前は姿勢を但し、敬礼を向ける。
「ごめんなさい!」と昔の癖で謝ろうとすると、白い手袋をはめた手が頭にポンッと乗った。


「まあでもお前たちなら卒業できると信じていた。これから頑張ろう」
「潮江先輩っ…!」
「ところで名前、八左ヱ門。お前ら何故私がいる特務ではない?」


文次郎の優しさに感動していると、空気を読まない小平太が乱入。
笑顔だが、不満そうな雰囲気に包まれていた。
ビシッ!と石化する二人に、三郎たちも押し黙る。


「わ、私は体力があまりないので…」
「ならば私が鍛えてやるぞ!」
「いっ、いえ!そんなっ…」
「私と名前もまだ学校を卒業したばかりなので経験不足です!だ、だから他の機関で色々経験を積みたいなぁーっと…」
「そうそう!いきなり特務に入って七松先輩の足手まといになるのは…」
「むーっ…」


それでも納得できない。と言った様子で二人を睨む。
ビクビクと震える二人を助けるよう、長次が「小平太…」と声をかけると、口をとがらせて黙った。


「名前は俺んとこだったよな?宜しくな」
「は、はいッ!」
「八左ヱ門と兵助は俺のとこだな」
「宜しくお願いします」
「宜しくお願いしますッ!」
「雷蔵は私のとこだな…」
「はい、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、宜しくお願いします」
「いいなー、皆…。僕も信頼できる後輩が欲しかった…」


暗い表情を浮かべるのは伊作。隣では小平太も不満そうだった。


「さて、では部屋に行くか。お前たちは今日から働いてもらう。仕事もすぐ覚えろ」


空気はかわり、厳しい顔になった文次郎が名前たちを見る。
ピリッとした空気が名前たちにも伝わり、姿勢を正して敬礼をした。


『ハイッ』



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