革命 士官学校を卒業していった先輩たちは、とても優秀だった。 文次郎や留三郎は武術に長け、仙蔵と長次はとても優秀。 伊作は医療に優れており、小平太に至っては最高の軍人になるのではないかと噂されるほど。 そんな先輩たちを持った一個下の後輩は、必死に追い付こうと常々努力を続けていた。 それでも追い付けないほど、彼らの背中は大きかった。 「いつかやるかと思った」 朝から騒いでいる士官学校のとある教室では、先日起こった事件について盛り上がっていた。 そんな彼らを、三郎を中心とする仲のいいメンバー六人は少し冷静な目で見ていた。 「確かに優秀だったからなぁ…」 「アハハ、でもらしいって言えばらしいよね!」 苦笑混じりに頭を抱える八左ヱ門と、楽しそうにお腹を抱える勘右衛門。 八左ヱ門の横にいた名前は雷蔵と一緒に新聞に目を落として、何で騒いでいるかその理由を知った。 「『軍隊ノ革命カ?』…。ようするに、仙蔵先輩たちが、新兵にも関わらず上層部に反乱、そして制圧したってこと、だよね?」 「うーん、名前の言うとおりだったら、本当に凄い人たちだね…」 「凄いって言葉では足りないと思うが?首謀者は多分、立花先輩だろう」 「だろうな。実行犯は潮江先輩、食満先輩、七松先輩か?」 この街には軍があり、その軍に所属するには士官学校を卒業しないといけない。 その士官学校に今、名前たちは在籍しており、今年卒業予定。 冒頭に言った「優秀な先輩たち」は自分たちと仲が良く、また、自分たちの目標とする先輩たちだった。 そんな人たちが入隊したばかりの軍へ反乱を起こしてしまったのだ。 理由は色々囁かれているが、「惰弱した軍を変えるため」が有力説。 冷静に分析する兵助と三郎は名前から新聞を取り、適当に畳んだ。 「ま、あの人たちならこれ以上おかしくならないだろう」 やる気のない目をした三郎は頭の後ろで腕を組み、騒いでいる同級生を見て、「うるさいなぁ」と悪態をつく。 「今の軍は役に立たないって街の人も言ってるしね」 「おい雷蔵、あんま大きい声で言うなよ。上官に聞こえるぞ」 「大丈夫だよ、八左ヱ門。本当のことだもん」 「勘右衛門…。お願いだからその楽観とした考えは止めてくれ…」 八左ヱ門が回りを探るも、上官の姿はなく、ほっと息をつく。 すると名前はニヤリと笑って、 「へなちょこ八左ヱ門」 とからかった。 「へなちょこじゃねぇし!それはお前だろ!」 「私は八左ヱ門ほどじゃないよ。この学校に入ってかなり鍛えられたからね!」 「嘘つけ!お前この間何もないとこで転んで、涙目だったじゃねぇか!」 「え、ちょっ…。どこで見てたのさ!最低だよ、八左ヱ門!」 八左ヱ門の言葉に若干顔を赤くさせ、胸倉を掴むと、八左ヱ門も名前の胸倉を掴んでギャーギャーと騒ぎ始める。 雷蔵も勘右衛門も慣れたように二人を見守っていたが、兵助は表情を変えず、三郎は呆れたように目を伏せた。 しかし、いい加減耳触りになってきた三郎が二人に向かって、 「七松先輩が来たぞ」 「「ひぃいいい!」」 魔法の呪文を唱えると、二人は涙目になって抱き合った。 名前が八左ヱ門の胸にすっぽり収まり、その収まった名前をギュッと抱き締める八左ヱ門。 このような公共の面前で男女が抱き合うなど、破廉恥極まりないが、いつもの光景なので特に誰も気にしていない。 「嘘だ、名前、八左ヱ門」 「う、嘘かよ!お前止めろよな!」 「そうだよ、何で嘘つくのさ!本当に怖かったんだからね!」 「二人がうるさいからな」 「だからってなぁ…」 「あ、七松先輩」 「ふふん。兵助、二度目はきかないよ」 八左ヱ門から離れた名前が腕を組んでそっぽを向くと、目の前に懐かしい顔があった。 あ、やっべ。幻覚が見えるんですけど。 とかなんかコンマ一秒で思ったが、口からは悲鳴が発せられた。 再び八左ヱ門に抱きつき、その存在に気付いた八左ヱ門もまた名前を抱き締めて身体を震わせた。 「よお、久しぶりだな、お前たち!」 「「なななな七松先輩ッ!」」 「お久しぶりですね、七松先輩。いいんですか、こんなところにやって来ても」 三郎の言葉通り、いきなりの登場に、生徒たちは困惑している。 何せ事件の張本人が今目の前にいるのだから。 しかし小平太は気にしない様子で笑って、「細かいことは気にするな」とキッパリいい放った。 「それよりお前たちに仙蔵から伝言がある」 『伝言?』 「伝言というより手紙だ。ほら」 シャツの上に着ている着物の胸から取り出したのはクシャクシャになった一枚の紙。 兵助が受け取って広げると、 「『早急ニ配属先ヲ決メルベシ』?」 「七松先輩、これってどういう意味ですか?」 兵助、三郎、雷蔵、勘右衛門が手紙から顔をあげると、そこにはすでに小平太の姿がなく、友達の名前と八左ヱ門もいなかった。 慌てて周囲を探すと、小平太が二人の腕を掴んで外へと向かっていた。 「久しぶりに会ったんだ!どれぐらい強くなったか見てやる!」 「け、結構です!七松先輩は忙しいでしょう!?」 「そうですよっ。何も小平太先輩の手を煩(わずら)わせるなんて…!」 「細かいことは気にするな!」 「「(嫌だって言ってるのに!)」」 小平太の強さを身を持って知っている二人は、言葉に発することができず、泣く泣く小平太の相手をするのだった。 「ぎゃーっ、死ぬー!」 「名前、死ぬな!俺を置いて絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」 「いけいけどんどーん!もういっちょ行くぞ!」 「「もう勘弁して下さいッ!」」 ( TOPへ △ | ▽ ) |