夢/とある夫婦の日常 | ナノ

食満家のバヤイ その1


朝6時。食満家の朝が始まる。


「おはよう、留さん」
「おう、おはよう。まだ寝てていいぞ?」
「んー、起きる…」


時間どおりに起床するのは旦那の留三郎。
高校のときからの癖で、これぐらいの時間帯に起きて、町内を走っている。
私はまだ起きなくて大丈夫な時間帯なんだけど、私も癖になっているので、留三郎を見送ってテレビをつけてまったり過ごす。


「………」
「おはよう」
「……はよう…」


次に起きてくるのは、朝に弱い長男。弱いくせに毎朝頑張って起きるのは、末っ子長女の面倒を見たいから。
あと、お兄ちゃんらしくなりたいから。
不機嫌そうな顔で洗面台へ向かのを見て、長男のためにココアを作っておく。
「ココアなんて卒業したから飲まない」とか言ってるけど、大好きなのを私は知っている。
今年で小学2年生。ちょっとは大人びたい年頃なのかな?どっちにしろ可愛いのでよしとしよう。


「…眠い」
「寝てる?まだあの子は寝てるよ」
「やだ…。妹が起きたときにはすぐ近くにいたい…、あいつより」
「もー、お父さんのことを「あいつ」って呼んだらダメだよ」
「だって……昨日も俺がお風呂いれるって言ったのに、あいつが…」
「それぐらいで拗ねないの」
「おはようございます」
「あ、おはよう。ココア飲む?」
「うん」


テーブルに伏したままブツブツと留三郎の愚痴を聞いている間に次男も起床。
次男は朝に強く、ちゃんと頭を下げてから挨拶をして、洗面台へと向かう。ここらへんは礼儀正しい留三郎そっくり。

留三郎は結婚前から「絶対に娘が欲しい!」ってうるさかった。
だけど長男、次男の男の子しか生まれず、やっと一年前に女の子が生まれた。
留三郎は感極まって涙流してたっけ…。
でも嬉しかったのは父親だけでなく、留三郎の血を濃く受け継いだ長男と、ちょっと受け継いだ次男も。
誰が妹の世話をするかで毎日もめているほど末っ子を可愛がっている。
大体は長男と留三郎が争っている間に次男が面倒見てるんだけどね。あの子、誰に似たんだろう…。


「ただいまー」
「「おはよーございまーす!」」


長男の目が冴えるころ、留三郎が帰宅。
いつもは大体30分ぐらいで帰ってくるけど、時々、七松さんちの旦那さんと出会うと遅くなる。
そして出会ったら長男と次男の同級生、七松ジュニアがついてくる。これももう慣れたものだ。
長男も次男も「七松じゃん、また来たのかよ」と慣れた様子。
留三郎は子供が大好きだし、なにより同級生の子供だから「あがれあがれ」と楽しそうに家にあげた。


「おはようございます、食満の母ちゃん!」
「おはようございますっ」
「おはよう、七松ジュニア1号と2号。ご飯食べる?」
「「食べる!」」
「パンしかないけど平気?」
「平気!な、兄ちゃん?」
「おう、家に帰っても食べれる!」
「お肉なくてごめんねー」


慣れたように七松ジュニアもテーブルに座って、子供たちと楽しそうに会話をしながらご飯ができるのを待つ。
その間に留三郎は一度シャワーを浴びる。
なんでも、汗臭い状態で娘に触りたくないらしい。……律義だ。


「はい、どうぞ。飲み物は牛乳?」
「なんでもいい!」
「なんでも飲む!」
「あはは、だろうね。はい」
「おい七松、お前宿題やったか?」
「おれ?してない!昨日ずっと父ちゃんと組手してたっ」
「よかったー、俺もしてねぇし一緒に先生に謝ろうぜ!」
「わかった!」


……昨日、「ない!」ってキッパリハッキリ言ってなかったっけ?
嘘をついた我が子に鉄拳制裁を加えようとした瞬間、息子の後ろから怖い顔をした旦那様が登場。


「テメェ!宿題ぐらいちゃんとしろ!」
「いってェ!なにすんだよ!」
「宿題もちゃんとしねぇから0点とったりするんだろ!」
「父ちゃんだって昔0点とってたって母ちゃん言ってたぞ!」
「ばっ…!おま、名前!なんで言ったんだよ!」
「でもね、私と結婚して、幸せに暮らせるようにって一生懸命勉強して、公務員になったんだよ?凄いと思わない?」
「うっ…」
「名前っ…!ば、恥ずかしいだろ!」
「うちの旦那様は格好いいからね」
「や、止めろって!」
「母さん、おかわり」
「はいはい」


口をとがらす息子と、真っ赤になってる旦那。
二人とも可愛いなーって見ていると、一人冷静な次男がおかわりを要求し、静かに完食。
うん、ほんとどっちに似たんだろうね。
ちゃんと食器を下げ、長女が寝ている寝室に向かうのを見て、長男も急いで食べ終わる。
っと、そろそろかな?


「す、すみませーん!」
「あっ!母ちゃんの声だ!」
「今日はいつもより早かったね」
「あいつも大変だよなー。子供たちの世話といい、小平太の世話といい…」


消えた息子を探しに、七松さんちのお嫁さんがやって来た。
ジュニアたちはちゃんと「ごちそうさまでした」と手を合わせてから玄関に走りだす。
私と留三郎は苦笑しながら一緒に玄関に向かうと、旦那さんも一緒にいた。


「いつもいつもご迷惑をおかけしますッ…!」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「おー、お前らやっぱり留三郎の家にいたのか!」
「パン食った!」
「牛乳ももらった!」
「くっ…!?ま、また朝食まで…!?」
「おい、気にしなくていいぞ。お前んちも食費とか大変だし、ちょっとぐらい頼ってくれても構わねぇぜ」
「そうですよー。七松さんちは子供多いから」
「そうか!なら今度奢ってくれ!」
「小平太に言ってねぇよ!つーか子供から目ぇ離すんじゃねぇって何回言わせんだこの野郎!」
「細かいことは気にするな!じゃ、帰るぞお前たち!」
「「おーっ!」」
「あの、またお詫びの品を持ってきますので…!」
「本当に気にしないで下さい。それより旦那さんと子供二人がもう見えませんよ」
「あああああ…!し、失礼します…!」


涙混じりに頭を下げ、三人を追いかけるお嫁さんを見て、失礼だが同情しかできなかった。
今度何かあげようかしら…。


「ったく、あいつんちは本当騒々しいな」
「お嫁さん大変そうだね」
「まーでもあれが小平太だからな。らしいっちゃあらしい。楽しそうで羨ましいぜ」
「……子供欲しいの?」
「え!?え、いや…まぁ……できたら…」
「じゃあ今晩、宜しくお願いします」
「ええ!?ま、マジで?」
「マジです」


真っ赤になる留三郎に悪戯の笑みを浮かべて、ギュッと抱き締めると戸惑いながらも抱き締め返してくれた。
七松家みたいに大家族は難しいけど、私も留三郎とたくさんの子供たちに囲まれたいもんね!


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