夢/とある夫婦の日常 | ナノ

七松家のバヤイ その7


「名前ー」
「小平太…、重たいよ」


夕食が終わった我が家に、まったりとした時間が過ぎていた。
チビたちが眠たそうに目を擦っていたので、子供部屋に連れて行こうとするけど、一番大きい子供が私の背中に張り付いて離れない。
一番大きい子供っていうのは小平太のこと。
大きい身体で私を背中から包み込んでくれるのには、何だか胸がきゅんきゅんする。普段は格好いいのに、甘える姿は子犬のように可愛い。
でも、身動きが取れない…。小平太は私のことをぬいぐるみか何かかと思ってるのかな…。


「小平太、子供たち連れて行くから離れて」
「んー…」
「小平太?」


腕をパシパシ叩いて言うと、彼は眉間にシワを寄せて子供たちを見ていた。
長男や次男の年長組はテレビに夢中。夢中過ぎて口が開いてるのが可愛い。
チビたちは既にその場で寝転んで、スピスピと寝息を立てていた。もう涎が垂れてるし…。


「あのな、名前」
「うん、なに?」
「私、もう一人欲しい」
「……」


そんな子供たちを見たあと、私を抱き締める力を強めて耳元で囁く。
首筋に若干鳥肌たって、無言でいると、「なぁなぁ」と子供のようにねだってきた。
うんうん、子供は可愛いよ。だけどもういいよね?たくさんいるよね?というか、もうお金がないんで無理です。厳しいです。


「うーん、私はもういいかな?」


それらの気持ちをまとめて、優しくそう言うと、彼は不満そうな表情を浮かべる。いや、十分でしょ。


「やだ、欲しい」
「いりません。十分です」
「名前は子供が嫌いなのか?」
「好きだよ」
「じゃあ「いりません」


空気はピキンと張り付き、それに気づいた長男と次男はテレビを消してチビたちを担いで逃亡。


「小太郎ッ!」
「な、なぁに父ちゃん…。俺らもう寝るよ…」
「お前も新しい弟欲しいよな!?」
「え?」


逃亡しきる前に長男を小平太が呼びとめ、長男はビクビクしながら小平太に振り返る。
子供を巻き込むなんて卑怯な!(と言うか、次も男の子なの!?せめて一人は女の子欲しいよ!)


「弟増えるのは…。うん、嬉しい!」
「小太郎、これ以上増えたらご飯の量減っちゃうし、また私に甘えられなくなるよ?」
「そっ、それはやだ!」
「じゃあ小太郎は私の味方だよね?」
「おうっ、俺弟いらねぇ!」
「名前ッ、卑怯だぞ!」
「先に呼びとめたのは小平太でしょ。あ、もう戻っていいよ」
「わ、わかった…」


喧嘩ってほどじゃないけど、こんな険悪な空気が漂っている部屋にいてほしくない。
さっさと退散させ、残ったのは私と小平太の二人。
正座と胡坐で向い合ったまま、お互いがお互いを睨みつける。


「私はもっと欲しい!」
「だから、これ以上はいらないでしょッ」
「やだ、いる!」
「いらない」
「いるッ!」
「いりませんッ」
「名前、お前頑固だな…」
「小平太ほどじゃないよ」


小平太は一度「これ!」って決めたら、絶対に意見を変えたりしない。
例え私や、親友の長次が言っても変えることなんてない。寧ろ指図されるのが嫌いだ。
細かいことを気にしない性格だけど、自分の譲れないことになった途端、細かくなくなる。


「大体そんなお金どこにあるの?」
「私がもっと働く。体力はあるからな!」
「そしたらその分私や子供たちとの時間が減るよ?」
「……それは…困る…」


私の言葉に威勢をなくした小平太はシュンと俯く。
小平太も子供大好きだから、減ったら寂しいもんね。勿論、私も小平太との時間がなくなるのは寂しい。
大好きな人との子供は嬉しいよ。大変だけど毎日楽しいし、成長を見るのも嬉しい。
でもね、これ以上増やしたら本当に大変なんだよ?まだ愛情が必要な長男たちともっとコミュニケーションとれなくなっちゃう…。


「これ以上コミュニケーションとれなくなるなんて長男たちが可哀想だよ。だから今は必要じゃないよ」
「……」
「小平太、お願い」
「…ずるい」
「え?」
「お願いされたら聞くしかないだろ!」


近づいてちょっと甘えるように言うと、小平太は悔しそうな表情を浮かべて私に抱きついてきた。
ずるいずるい。と言いながらも抱き締めてくれる小平太。よし、もう大丈夫だ。
小平太は私のお願いを絶対にきいてくれる。毎日使ってたらその効力は切れるだろうから、滅多に使わず、こういったときに使う。なので効果は抜群!


「じゃ、今日はもう寝ようか。子供たちはちゃんと寝てるかなー」


抱きついてきた小平太の背中をぽんぽんと叩いたあと、「離れて」と言うように両肩を押す。
いつもだったら名残惜しそうに離れてくれるけど、今日はビクともしなかった。あまりいい予感はしない。


「名前」
「な、なに…?」
「じゃあヤろう」
「……」
「ヤりたい」
「子供は二の次で、本来の目的はそれか」
「いや、子供は欲しいぞ。んでもってヤりたい」
「ご、ごめん…。今日はちょっと…」


離れようとするけど、強い力で腰を固定されているため逃げ出すことができない。顔を背けて断り続けることしかできない!
横目で小平太を見ると、先ほどとは打って変わり嬉しそうに、だけどどこか意地の悪そうな顔で笑っていた。


「拒否されると燃えるな!」
「(しまった…!)」
「子供は諦めたが、これだけは諦めんぞ」


はい、頑固一徹モード。
ニコッと笑う顔からは黒い何かが見えました。
その顔を見て鳥肌がたったけど、


「ま、私が本気を出せばすぐに子供はできるけどな!」


最後の小平太の言葉に背筋がゾッとした。
何でこの人は百発百中なの!?
だけど、その疑問を口にすることはできませんでした。



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