夢/とある夫婦の日常 | ナノ

七松家のバヤイ その6(前編)


!注意!
あんまり使わないようにしていますが、子供の名前が出てます。しかも固定。(名前の一覧は設定をご覧ください)
ほぼ子供との会話になりますので、苦手な方は進まないように。





「母ちゃん!」
「あら…」


末っ子を背負って大量に買った荷物を両手に抱え、帰宅していると後ろから大きな声が響いて振り返る。
振り返らなくても誰に呼ばれたかすぐに解った。例え人混みの中でも通る声の正体は、小平太そっくりの我が息子。
ボロボロになったランドセルをガシャンガシャンと音をたてながら走って近づいてくる長男に、足を止めて待つ。
あーあ、ちゃんとランドセル止めないと中身でちゃうよ?


「母ちゃん、買い物帰りか!?」
「うん、そうだよ。小太郎は学校帰り?」
「おう!」


長男はニヘヘ!と笑い、背負っていた末っ子の頬をつついて私から買い物袋を取った。
大量の食材が入っているから大人の私が持っても重たいのに、長男は軽々と持って私の横に並ぶ。


「持ってくれるの?」
「だって父ちゃんが「母ちゃんは大事にしろ」って言ってたからな!」
「そう。それは頼もしいな」
「俺、かっこいい!?頼りになる!?」
「うん、頼りになるよ」
「父ちゃんより!?」
「うんうん、小平太より頼りになる」


一生懸命聞いてくる長男に頭を撫でながら答えてあげると、パッと顔を明るくして喜んだ。
両手で買い物袋を持ったまま私の周りをチョロチョロと動き回り、今日学校であったことを楽しそうに報告する長男を見て、私も自然と笑みがこぼれる。
子供の笑顔ほど癒されるものはないよ。特に可愛い可愛い我が子だったら尚更ね。


「遊びに行かないなんて珍しいね」
「俺だって毎日遊んでるわけじゃないぞ!」
「そうなの?いっつもボロボロで帰ってくるから遊んでばっかだと思ってたよ」
「ちげぇよ!これからの世の中、いんてりなんだぞ!」
「……インテリって言葉、知ってる?」
「強い!」
「あはは!」


やっぱり解るわけないよね。
笑っていると「なんだよー!」って怒られたけど、訂正することなく「頑張ってインテリになれるよう勉強しようね」って言うと、押し黙って大人しく隣に並び、「うん…」と元気なく答えた。
うーん、これは無理だね。きっと夜ぐらいになると小平太と遊んでるに違いない。ま、元気に真っ直ぐ育ってくれれば、私は文句ないよ。
笑って頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんで私を見上げてきた。


「母ちゃん」
「なぁに?」
「手ぇつないでいい!?」
「うん、いいよ」


甘えるような声でおねだりをされたら断れるわけないじゃない。断る気もないけど。
片手で荷物を持って(小学生にして私より力持ちとかさすがです)、手を繋ぐ。手を繋ぐ前より恥ずかしそうな顔をしてたけど、それ以上に嬉しそうだった。
もー…何でこんなに可愛いのかしら!思春期になっても我が子たちは変わりそうにないよ。


「俺な、ほんとは母ちゃんと一緒にいたいんだ」


珍しく小声で喋る長男に耳を傾ける。


「でも俺長男だから…。母ちゃんに甘えていいのはチビだけだからガマンしてんだ」


我が家は大所帯だ。小平太そっくりの子供がワラワラといる。しかも年子だから年々増えていっているので、私は小さい子にばかり構っている。
だから必然的に長男や次男の上の子たちは我慢するようになったり、一人で何かをしようとする。
そこは旦那の小平太が構ってあげたり支えてあげてるけど、母親と父親では甘え方が違う。
そこまで言って長男はギュッと握る手に力をこめた。
顔に出さないよう、態度に出さないよう、私に甘えるのを我慢していた長男。
普段は暴走したり、言うことをきいてくれないやんちゃっ子だけど、弟たちの為に色々考えててくれてたんだ…。
そう思うと胸がキュッと苦しくなって、私も長男の手を強く握りしめた。


「小太郎は私のこと好き?」
「好きに決まってんだろ!」
「じゃあ甘えてきてよ。私も小太郎のこと好きだから甘えてきてほしいな」
「えっ…。で、でも……」
「そりゃあ家事してるときに甘えてこられると困るけど、何もないときは全然困らないよ」
「……い、いいの…?」
「いいよ。じゃあ今日は一緒に寝ようか」
「っうん!」


今まで見たことないぐらい眩しく笑って、早く帰ろう!と言いながら私の手を引っ張る。
本当にごめんね。チビたちばっか構って、上の子たちを全然見てなかったよ…。私、母親失格だなぁ…。


「あとね、いっしょにおフロ入りたい!」
「うん、いいよ。頭洗ってあげる」
「あとな、あとな!今日は俺が母ちゃんと一人占めしたい!」
「うーん、それはちょっと難しいかもしれないけど…。でも小太郎と一緒にいてあげる」
「絶対だぞ!絶対だかんな!」
「はいはい」
「母ちゃん好き!俺ずっと母ちゃんと一緒にいたい!」


あらあらまぁまぁ。なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら、この子は。
きっとこれは子供を産まないと解らない気持ち。
くすぐったいけど嬉しい言葉に緩む口元。
家に帰るまで色々なことを約束していると、あっという間に我が家が見えてきた。
長男が鍵を開けてくれて、急いで家へとあがる。
いつもだったら「ドタドタ走らないの」って怒るんだけど、今日ぐらいは許してあげよう。統一性のない躾はよくないって言うけど、今日の私はダメだ。息子が可愛すぎる。
台所へ向かうと長男が持っててくれた荷物が置かれており、長男は姿を消している。きっと手を洗って、宿題をさっさと終わらせているんだろう。今日はずっと私が構ってあげるって約束したからね。
何か報酬があると凄まじい集中力を発揮するのは、やっぱり小平太譲りだ。
一人で笑いながら末っ子をおろして、荷物を片づける。さて、私もさっさと用事を終わらせるか!


「母ちゃん、終わった!」
「もう?凄いねー、小太郎はおりこうさんだ」
「だろ!もっと褒めて!」
「ふふっ」


私も集中していつも以上の速さで家事を終わらせていると、宿題を終わらせた長男がやって来た。
ノートいっぱいに書かれた漢字をえばりながら見せてきたので褒めてあげると、「もっと!」と言って腰に抱きついてくる。
「もっと褒めて!」なんて…。本当に我が子たちは素直だ。


「ただいまー!」
「かーちゃーん、はらへったー」
「はらへったー」


長男を褒めていると次々と息子たちが帰宅してきた。
「お腹減った」と鼻歌交じりに歌いながら台所へやって来て、私に甘える長男を見た次男と三男、チビたちは「あーっ!」と大きな声をあげて突撃してきた。



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