夢/とある夫婦の日常 | ナノ

七松家のバヤイ その4(後編)


「おいお前!母ちゃんになんてことすんだ!」
「母ちゃんから離れろよ!」
「母ちゃん殴ったら俺がお前をぶっ飛ばすぞ!」
「うるせぇクソガキ!」
「おいババァ、テメェ今なんつったよ」
「ババァとは失礼な。これでもまだ二十代です。危険なめに合わしたのは事実なのでちゃんと謝罪して下さい」
「ガキをこんなとこに放置したこいつが悪いんだろ!ケガはお前んとこのガキが負わせたしよぉ!」
「あなたたちがスピードを落としていたらこんなことにはなっていません。私はちゃんと謝りました。あなたたちはこの子に謝りなさい。それからお前たちは私の後ろにいなさい」


子供たちが今にも二人に殴りかかりそうなので、宥める。
ほんと好戦的だなぁ、この三人は…。
あとあなたたちのお母さんは、あの小平太のお嫁さんですよ。これぐらいの不良に絡まれたって全く怖くありません。私のほうが強いです。
引くことなく彼らに何度も言い続けていると、限界を超えた男が手を振りかぶった。

パンッ!

と頬を叩く音がその場に響き、後ろからは「母ちゃん!」と悲鳴をあげる子供たち。
もっと小さい子たちは目に涙を浮かべ、私の足に抱きついてから「だいじょうぶ?だいじょうぶ?」と声をかけてくれた。
周りもさすがにざわつき始め、その遠くからは「どいてください!」という警備員らしき人が近づいて来ようとしている。


「あ、あのっ…。私たちはもういいですから…!」
「よくありませんよ。子供が危険な目にあったんですよ。母親として腹が立ちませんか?」
「……」
「いい加減にしろよ!何で俺らがこのガキに謝るんだよ!」
「何度も言わせないで下さい。これはモラルの問題です。ちゃんとお母さんに教えてもらわなかったんですか?」
「うっせぇな!」


また私の頬を叩こうとした瞬間、目の前でピタリと止まった。
あーあ、早く謝らないから…。


「名前、何してんだ?」
「子供を叱ってた」
「そうか、ならば私も手伝おう!」


男の手首を掴んだのは怖い怖い私の旦那様。
ニコニコと笑っていたけど、怒気をまとっている。
警備員がようやく人混みをかきわけやってきたけど、小平太のまとう雰囲気にピタリと動きを止めた。
ギリッと力を加えると、私の胸倉から手を離し、私と男の間に割って入る。不謹慎だけど、小平太のその背中が格好いいと思ってしまった…!


「お前ら、しっかり母ちゃん守ってろよ」
「おう!」
「父ちゃん頑張れ!」
「さて、貴様ら。私の名前に何をしてた?勿論覚悟はできているんだろうな」


ボキボキと拳を鳴らし、準備運動をするかのように腕をグルグルと回す。
男二人は小平太の殺気にすでに戦意喪失。
後ろにいるから小平太がどんな顔をしているか解らないけど、確実に獲物を狩る目をしているんだろうな。と予想できた。


「あ、ケガは大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…!ですが…!」
「子供はちゃんと見ていないとダメですよ。特にこういった人が多い場所では」
「すみません…。本当にすみません…!」
「でもよかったです、事故にならなくて。消毒はしっかりしてあげて下さいね」
「ありがとうございます…。ところであの人たちは…」
「ああ、あとはうちの旦那が片づけてくれますのでお任せ下さい。それより早く消毒を」
「わ、解りました。あの、本当にありがとうございます」
「いえ」


母親が子供を抱え、その場をあとにする。
それを見送るとチビたちが私に抱きついてきたので、抱き締め返してあやしてあげる。
我が子はたくましいかと思えば甘えん坊。でも、自分のことより他人を心配してあげる優しい心の持ち主だ。


「さて、もう終わったかな」


振り返ると男二人の胸倉を掴んで持ち上げている小平太が目にうつった。
あー…そろそろ手を離してあげないと気絶しちゃうよ?


「あ、あの!もうそろそろ手を離してあげたほうが…」
「え、なんで?」
「小平太、もう反省してるみたいだよ」


私が止める前に警備員に止められた。
でもちょっと遅かったみたいで、男二人は空中で気絶してしまった。
私が声をかけると手を離し、近づいてくる。


「名前、大丈夫か?」
「うん、平気。全然痛くないよ」
「でも赤くなってる…。私が名前と同じようにあいつらを叩いてきてやろうか?」
「それは止めてあげて」


心配そうな顔で叩かれた頬に手を添える。
いくら大丈夫だよと言っても、納得してない顔。
でもここまでにしとかないと、今度は彼らの命が危ない。
その優しさはすっごく嬉しいけどね!


「でも…」
「小平太が撫でてくれたら治る」
「そうか!」


頬に添えた手で叩かれた部分を優しく撫でてくれた。
うん、もう痛くない!


「ちゃんと説教した?」
「したぞ!」
「じゃあもういいよ。帰ろうか」
「解った!おーい、お前ら帰るぞー。荷物持て」


何事もなかったように子供たちも荷物を持ち、歩いて家へと帰る。
子供たちを先に送り出し、警備員に近づく。


「いつもご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。この子たちが目を覚ましたら、ここに連絡するようお伝え願いますか?破損したものを弁償したので」
「奥さんもいつも大変ですね…。解りました、伝えておきます。が、連絡しないと思いますよ」
「でしょうね。いつも連絡ありませんもん」
「ですが助かります。こういった若い人たちが増えてて困ってたんです…」
「これぐらいでよければいつだってお役に立たせてもらいます。では」


この地域で七松家を知らない人はあまりいない。
迷惑をかけて目立っているのもあるけど、時々泥棒を捕まえたり、こういったことで名を広げている。
地域に迷惑をかけている分、働いてもらわないとね。
それに、


「母ちゃん、ほっぺた大丈夫か?」
「俺も父ちゃんみたいにやっつけてやろうか?」
「大丈夫だよ。それより今日はいいことしたね。偉い偉い!」
「やったー、母ちゃんに褒められた!」
「お、おれも!母ちゃん、よしよしして!」
「俺も助けたぞ!」
「はいはい、いい子いい子!」


どんどんいい子に成長する姿を見られたのが何よりの収穫!


「名前っ、私もやっつけたぞ!ちゃんと褒めろ!」
「う、うん…。偉いね、小平太。ありがとう!」
「おう!」


子供も可愛いけど、旦那様も可愛い我が一家です。


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