夢/とある夫婦の日常 | ナノ

七松家のバヤイ その4(前編)


「ほら、広がって歩かないの。ちゃんと手繋いで歩きなさい」
「はい!」
「…小平太と私が手を繋いでも意味ないよ。子供たちと繋いで」
「ちぇー…」


今日は家族揃って外出した。
勿論元気いっぱいの子供たちはそれぞれ自分勝手に行動している。
いくら「離れないの」と言っても、三分としてもたないのは解っているので、無理に手を繋ごうとしたら何故か一番に小平太が手を出してきた。
小平太は大人なんだから手を繋ぐ必要ない。寧ろ子供たちと繋いで引き止めてほしい。
口をとがらせている小平太だったけど、長男と次男の手を繋ぎ、三男を肩車する。
土木関係の仕事をしているから子供を担ぐなんて余裕なんだろね。


「父ちゃん、俺腹減った!なんか食いたい」
「俺あっち行きたい!」
「父ちゃん父ちゃん!もっと早く走ってくれ!」
「よし、任せろ!」
「止めて!お願いだから三人を連れて暴走しないで!」


これで子供たちが迷子にならなくてすむって思ったのに、父親が子供連れて迷子になってどうするのよ!
こっちだって末っ子とその上の子を連れていっぱいいっぱいなのに。


「母ちゃーん、お腹空いたー…」
「今さっき朝ご飯食べたばっかでしょ。ほら、ちゃんとお兄ちゃんと手繋いで前見て歩きなさい」


我が家の兄弟仲はなかなかいいので、特に文句を言うことなく兄と手を繋いで歩く。
よし、このまま大人しくしててちょうだい。


「さて、今日はお一人様一個デーです。皆、お腹いっぱいにご飯を食べたければ絶対にゲットして下さい」
『おーっ!』


近所にあるデパートでは、一ヶ月に何度か「お一人様一個デー」というものが行われる。
月によって商品は違うけど、大体食べ物だったりするので、その日は家族全員で絶対参加。
なんたってうちは大所帯だ。いや、大所帯だからこそ参加しなければいけないのだ…!
子供たちはもちろん、旦那の小平太も大食い。しかも肉食。そりゃあ嬉々として参加しますよね!


「はい、それぞれ担当のものは覚えた?間違えたらご飯食べれなくなるから真面目にね」


デパートについた途端、子供たちと小平太の目つきが変わった。
普段はニコニコと何がなくても楽しそうだけど、ご飯となると目つきはガラッと変わる。
こういうとき子供たちの身体能力の高さには関心してしまう…。


「じゃあ取ってきたらレジ付近に集合ね。あ、そろそろ開くみたい」
「よし、お前ら行けー!」


小平太が命令すると子供たちはワッと散って行った。


「名前、私も行ってくる!」
「うん、お願いね。でもお酒はダメだよ」
「……少しぐらい…」
「ダメです。小平太油断したら一日一升以上飲むでしょ。お金ありません」
「うー…」
「ほら、早く行かないとお肉食べれないよ」
「わ、解った!行ってくる!」


いけいけどんどーん!と掛け声とともに、小平太も人混みに紛れて行った。
ちょっと出遅れたけど、まぁ小平太と子供たちなら確実にゲットしてくるだろう。
私は小さい子供たちを連れて日用品や子供たちの服を選びに行く。
ゆっくりじっくり選べるのなんて今日みたいな日じゃないと無理だからね。


「母ちゃん、取ってきたぞ!」
「おれもおれも!」
「俺もっ!」


日用品の買い物を終え、集合場所に向かうと、既に子供たちが戦利品をどっさりカゴに詰め込んでいた。
さすが小平太の子供です。まだ小学生だと言うのにたくさん荷物が入ったカゴを軽々と持っている。
色んな意味で将来が楽しみです、ええ、本当に…。
そして小平太はというと、


「名前、どうだ!」
「う、うん…。さすが小平太だね」


カゴを四つも抱えていた。
しかしよく見るとお一人様一品限り商品以外の食べ物や、お菓子、お酒が入っていた。
ジーッと黙って見ていると、子供たちも誤魔化し笑いをして小平太の後ろに隠れる。
こいつら…。


「お菓子は一人一個までです。あとは戻して来なさい」


妥協して言うと、小平太と子供たちは声を揃えて「えー」と不満そうだった。妥協してあげたのにこれだ。


「じゃあ買いません」
「戻してくる!」
「おれもー」
「俺も!」


買い物にくるたび毎度同じようなやり取りを繰り返す。彼らに学習能力はないのだろうか…。
そう思うけど、可愛いことには変わりないのでついつい甘やかしてしまう。
しょぼんとする子供たちも可愛かったなぁ。


「じゃあお金払ってくるからお前たちは外で待ってて。小平太、お願い」
「おう、任せろ!」
「いい、他の人の邪魔にならないようにね。もし迷惑かけてたりしたらお昼ご飯抜きです」
『はーい!』


大きい子たちが小さい子の手を取って仲良く外に出て行く。
うん、面倒見がいい偉い子たちだ!
小平太が荷物を全部持ってレジへと運び、レジに通したものから袋に詰め込んでいく。
いくら安いからと言っても、量が量だけにかなりの出費…。
はぁ、今月も苦しいなぁ。


「これで全部か?」
「うん、これで終わり」
「よし!じゃあ一旦帰るか!」
「そうだね。あ、ちょっと待って…。醤油買ってくるの忘れた」
「私が買ってくる!」
「え、でも荷物持ってるし…」
「大丈夫!」


荷物を大量に持っているのに、余裕そうな小平太。
まあ…、「大丈夫」って言うなら任せるか。


「はい、じゃあお醤油だけ買ってきてね。お酒はダメだよ」
「どんどーん!」
「ちょっと!話し聞いてる!?」


ダメだ、絶対にお酒買ってくる…。
ハァと重たい溜息を吐きながら外に出ると、少し人溜まりができていた。
何があったんだろう…。
首を捻りながら近づくと、外で待っていた子供の一人が私に抱きついてきた。


「か、母ちゃん…!兄ちゃんたちがっ…!」


ま、まさかまたこいつら何かしたのか!?
慌てて人をかきわけると、長男、次男、三男の好戦的三人組がガラの悪そうな二人の男の人と対峙していた。


「何してるの!?」
「「「母ちゃん!」」」


男の人と子供たちの近くには高そうな車が停まっており、ライト部分が凹んでいた。
もしかして車と衝突したの!?
確かに小平太は車と衝突しても骨折したりすることはない。
だからと言ってまだ幼い子供たちまで骨折しないなんてっ…。ケガしなくて喜んでいいんだが、人間離れしていく子供たちに泣いていいんだか解らないよ!
と思ったのだが、子供たちの後ろに見たことのない小さな男の子が座りこんで泣いていた。さらに横には母親らしき人物。
よく解らない光景だったが、なんとなく理解できた。


「お前、このガキどもの母親か?」
「……ええ、そうですけど。あの、この子たちが何かしましたか?」


男と子供たちの間に入り、子供たちを背中に庇いながら男の人に話しかける。
すると男二人は目を吊り上げて私を睨んできた。
今にも殴りかかりそうな雰囲気で、その様子を見ていた人たちが「おい、やばくねぇか」と囁いている。
しかし私は全く怖くない。いくら睨んでこようが、本気で怒った小平太に比べれば可愛いものだ。


「何かしましたか?じゃねぇよ!親ならちゃんと子供見てろ!」
「ですから、何をしたのでしょうか?」
「テメェのガキが俺らの車壊したんだよ!」


そう言って男が指さす場所は壊れたライト。
怒鳴るばかりでよく解らないが、ようは子供たちがこの車のライトを殴って壊したらしい。
普通は小学生が壊すことなんてできないんだけど、小平太の息子だもん。納得。
いつもだったら「すみません!」と平謝りするところだが、今日は少し違う気がする。


「それは本当?」


子供たちを振りかえり、子供たちの事情も聞いてみた。
すると、これまでの事情をちゃんと話してくれた。


「この子が歩いてるのに車がすげースピードで止まらなかったんだ!」
「だから兄ちゃん二人がこの子を助けて、このおっちゃんたちに注意したの!」
「そしたら怒られちゃって…。でも俺ら悪くねぇもん!おっちゃんたちがちゃんと見てねぇのがいけねぇんだもん!」
「何でライト壊したの?」
「…ムカッとして…」
「そう。解った」


今いる場所はデパート前の屋外駐車場。
たくさんの車が行きかっている危険な場所だ。
だから、子供を野放しにしていた母親が悪い。子供の責任は親の責任。同じ母親としてそれは素直にダメだと思う。
問題の子供と母親を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
でも、だ。もしこれで事故が起きたら悪いのは車になる。理不尽かもしれないが、車が悪い。
あと、ここは速度を落とさないとダメな場所だ。だからこの人たちも悪い。と言うか、たくさん人がいるところでスピードをあげるな。


「ライトを壊したことは謝罪します。息子たちが大変ご迷惑をおかけしました。弁償致します」
「あったり前だろ!」
「ちゃんと躾しろよな!」
「ですが、人がたくさんいる場所でスピードを落とさず、子供を轢きそうになったは事実です。その件に関しましてはこちらのお子様にちゃんと謝られたほうがいいのでは?」


子供たちが助けたとは言え、かすり傷を負っていた。因みに我が子たちは無傷。たくましいわぁ…。
そう言うと男二人は「ハァ!?」と声を荒げ、私の胸倉を力強く掴んだ。
ドキッ!としたけど、怖くはない。小平太なら胸倉を掴むと同時にちゃんと首閉めてる。まだまだだね。



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