夢/とある獣の生活 | ナノ

後輩の記憶の段


最近、イライラすることばかりだ。
学園生活にもすっかり慣れたが、勉強が全く理解できねぇ!
多少勉強できなくてもいいって言われたからスポーツ推薦で入学。だけど赤点だけは取るなと言われた…。
マークシートだから解らない問題も埋めることができるが、それでもギリギリだ。
ようするに、俺は勉強が嫌いだ。イライラする。


「雷蔵ー、今日は弁当か?」
「あ、うん。三郎は?」
「私もだ。兵助と勘右衛門を誘って屋上へ行こう」
「そうだね!」


前まで仲が悪かった二人が、やけに仲良くなった。
あまりの豹変ぶり(特に鉢屋)に、クラスメイトの何人かが「何があった?」と聞いたらしいが、曖昧にしか教えてくれなかったらしい。
あ…。「前世からの親友だ」と聞いた奴がいたな…。


「前世前世と…」


仲がいい二人を見ていると理由もなくイライラしてくる。
ついでに、隣の組の尾浜と久々知が来るのもイライラする。
声も聞きたくない。あいつらの話してる内容が嫌いだッ。


「おーい竹谷ー、パン買いに行こうぜー」
「っ、おう!」


クラスでよくつるんでいる友達に誘われ、イライラする感情を抑えつけ、駆け寄る。
丁度出入り口のとこに不破と鉢屋がいて、気まずくなった。
あの日、国泰寺先輩とのことがあってから目もろくに合わせられない…。
不破もどうしたいいか解らない表情を浮かべていたが、鉢屋は俺を観察するような目で見ていた。やっぱあいつ苦手だ…。


「八左ヱ門」
「っだよ…!」
「ご主人様に裏切られて拗ねた犬は可愛くないぞ?」
「は?」
「本当は嬉しいくせに。早く忠犬に戻ったらどうだ?」


ニヤッと、本心を決して言わず、俺の反応を見て楽しむように笑う鉢屋に頭がカッと熱くなった。
殴ってやろうかとしたが、既にその場から離れ、不破と一緒に廊下を歩いていた。


「鉢屋ァ!」
「いやー、あいつも変わらないな」
「三郎…、八左ヱ門で遊ぶのは止めろって何度言えば解るんだよ…」
「ついつい」


マジで殴る…!昼休憩が終わったら殴る!殴っても許されるよな!?


「おい竹谷ー、早く行かねぇと売り切れるぞー?」
「悪ぃ!」


鉢屋たちとは反対方向に歩き、購買へと向かう。
向かうまで友達と昨日のテレビのこととか、部活のこととか話していると、目の前から見覚えのある人が歩いて来た。
国泰寺先輩だ。
一年と二年は校舎が一緒でも、階が違う。だから滅多に会うことなく安心していたが、購買は一つしかないので会ってしまった…。


「…」


俺に関わらないで下さい。とハッキリ言ってやった。
俺まで変な目で見られるのが嫌だからだ。至ってシンプルな理由。誰だって思うはずだ。
名前を呼ばれても、何を言われても、絶対に反応してやるか!そう思ってたのに、


「しかも小平太の奴、俺のパンまで食ったんだぜ!?二時間目用にって残しておいたのによぉ!」
「アハハ、不運だったねー、虎徹」
「伊作っくんに言われたくねぇし!」
「いや、毎時間ごとにパンを食うなよ。どんだけ飢えてんだテメェは」
「成長期ですから」


目も合わせてくれなくなった。
会話に夢中で俺に気づいてないとも思った。視界に入ってないからだと思った。
でも違った。国泰寺先輩は俺に無関心になってしまった…。


「竹谷?」
「悪い…。ちょっと……」
「どうした?具合悪そうだな?」
「……昼から休むわ…」
「おう。しっかり休めよな」


関わらないで下さいって言ったから、国泰寺先輩は俺に関わらない。
望んでいたことなのに、どうしようもないぐらいイライラする。鉢屋のときとは違うイライラ。
気づけば国泰寺先輩のことばかり探している。すぐに気づいて考えないようにするけど、騒いでる集団を見ると「国泰寺先輩?」と目を向けてしまう…。
久々知に弓の指導をしているところを見るとイライラする。
尾浜と楽しそうに笑っているところを見るとイライラする。
不破の頭を撫でて可愛がっているところを見るとイライラする。
鉢屋にからかわれ、怒っているところを見るとイライラする。
関わりたくないのに、国泰寺先輩のことを考える自分に一番イライラする!


「…あー…もー…」


友達と別れ、不快感が昇華できない気持ちのまま渡り廊下までやって来た。
ここは風の通りがいいから好きだ。
丁度窓も開いていたので、窓に寄りかかって空を見上げ、溜息をついて気分を落ち着かせる。
後ろにはたくさんの生徒たちが楽しそうに笑いながら行きかっていた。


「不破も鉢屋も、久々知も尾浜も…。なんか変わったよなー…」


四人ともすっげぇ楽しそうに笑う。時々怒ってる久々知や、不破を見るけど、それでもすぐに笑顔に戻る。
そんな四人を見てると、胸が苦しくなる。懐かしい…って思うんだろうか…。
いや、きっと国泰寺先輩に変なこと言われたからだ。俺は信じてねぇ!


「ってまた国泰寺先輩かよ…」


……そうだ。国泰寺先輩のことを考えまいとするから、余計考えてしまうんだ。
逆に国泰寺先輩のことを考えれば、スッキリするんじゃないんだろうか?


「ま、スッキリするかわかんねぇけど、考えてみるか」


第一印象は「怖い」。
見た目も怖いし、あの人がまとう雰囲気も怖かった。
だけど喋ってみると思ったより普通で、笑う顔は少し幼い感じがする。年相応になるのか?普段が大人っぽい雰囲気だから、余計そう感じてしまう。
でもやっぱり怖い。あの人に睨まれると…視線が合うと身体が強張る。
同じクラスの奴も国泰寺先輩のことが怖いって言う奴がいた。睨まれると食われるんじゃないかって。
あ、国泰寺先輩の声を聞くのも苦手だって言ってたな…。
あの人の声はよく通る。七松先輩の声もよく通るけど、国泰寺先輩のは直接脳みそに話しかけられる感じがする。うーん、なんて言ったらいいんだろうな。


「怖い……国泰寺先輩が怖い…」


あの目、あの雰囲気、あの声…。全てにおいて恐怖を抱く。
久々知は国泰寺先輩のあの目が大好きだと言っていた。
尾浜は国泰寺先輩のあの雰囲気が大好きだと言っていた。
不破は国泰寺先輩のあの声が大好きだと言っていた。
鉢屋は国泰寺先輩が苦手だと言っていた。
俺は―――


『嘘…ですよね、食満先輩…』
『…嘘じゃない。俺の手で埋めた…』
『お、俺はそんな話信じません!虎徹先輩は笑って……「行ってきます」って言って…ッ!』
『でも…帰って来ないだろう?そんなに信じられないならここに行け』


ズキンズキンと頭の奥から痛みが襲ってきて、その場にしゃがみこむ。
貧血を起こしたときのように視界が歪み、気分も悪くなった。
嘔吐しそうになるのをこらえ、グッと目を瞑って耐えていると、遠くのほうから声を聞こえてきた。
懐かしい声…。虎徹先輩のよく通る声だ…。


『よくやったな、竹谷!』
『さすが俺の後輩だぜ!』
『もう俺より強くなったんじゃね?』
『竹谷ー、今日も組手付き合ってくれよ』
『お、どうした?可愛い子でもいたか?』
『八左ヱ門!』


―――嫌だ…!先輩が死んだなんて嫌だ!
こんなの絶対嘘に決まってる。あの虎徹先輩が敵に殺されるわけねぇだろッ!
覇気のない食満先輩を押しのけ、とある場所を書いた紙をひったくるように受け取り、急いで向かった。
山中は草木の匂いと一緒に、鉄の匂いや血の匂いが混じっていて、獣たちがやけに興奮していた。
息が切れようとも走り続け、辿り着いた場所は薄暗い場所。
人工的に積まれた石の山を見た瞬間、


『先輩…』


「そこ」に虎徹先輩がいるのが解ってしまった。
何年も一緒にいたから解る。解りたくなかった…。
全ての事態を素直に飲み込めていなかったけど、涙だけは溢れ、止まらない。


『だ、ッて…。行ってきますって言ったじゃないですかっ…!なのに、なのに…なん、で…帰って…ッ!』


「行ってきます」って言ったんだから、「ただいま」って帰って来て下さいよ。
何でこんな場所で、誰にも看取られることなく死んでしまったんですかッ!


『嘘つきな虎徹先輩なんて嫌いだッ!何で…何で俺らを残して逝かれてしまったんですかっ…!』


子供みたいに「嫌だ」と駄々をこねながら、虎徹先輩が死んだことを否定し続ける。
否定して、否定して…。何度も否定したけど誰も答えてくれない。
虎徹先輩が死んでしまった喪失感に、当分の間その場に立ちつくしていると、獣が草木を割って姿を現わした。
虎徹先輩が可愛がっていた山犬のハルとナツだ。
二匹は虎徹先輩が眠っている近くに巣(穴)を作って、この山を住みかにしたらしい。
彼らは早くも虎徹先輩の死を受け入れ、そして代々そこを守っていくと決めた。


『俺はどうすればいい…?』


二匹は俺に寄り添って涙で濡れた手をペロリと舐めてくれた。
お前たちは「守る」ことを選んだ。なら俺は?


『じゃあな、お前ら』


最期に二匹の頭を撫で、その場から離れる。
走ってばかりで体力は限界をとっくにむかえていたけど、すぐに自室へ戻って筆をとる。
虎徹先輩がいないならここに未練はない。
辞表を目につきやすい机に置いて、とある場所へと向かった。
虎徹先輩にしか扱えない狼、ナナシ。
近づくとすぐに牙をむき出して殺気を飛ばしてくるナナシ。普段なら背筋が凍り、冷や汗が流れるが、今日の俺は違った。


『俺の命令をきけ』


虎徹先輩を殺した奴を殺す。忍者としても、人間としても失格だと思う。
だけど、俺は殺さないと気が済まない。
それで虎徹先輩に怒られたり、嫌われたりしても構わない。
だって…、そうしないと俺が狂ってしまいそうになるんだ!
虎徹先輩の敵はとあるお城の忍者全員。


『全員殺してやる』


山中からお城の様子を窺う俺の心は、いやに冷静だった。
隣にはナナシ。その後ろにもたくさんの狼、熊、猪、鷹が戦闘態勢を整え、殺気を身体中にまとわせていた。
どいつも虎徹先輩と俺が手懐けた獣たちだ。
肩にとまっていた鷹のミナトを空に飛ばし、ゆっくりと指をくわえる。


『こんな想いなんてしたくねぇ…。もう会いたくもねぇ…。虎徹先輩なんて大嫌いだッ』


でも、それ以上に敬愛していました。また来世でも、お会いしたいです。
指笛を吹くと、ナナシを筆頭に獣たちが雄叫びをあげ、城へと走り出した。



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