後輩の記憶の段 俺は楽しいことが大好きだ。 好きなときに、好きなことをするのが大好きで、色んな人間と話すのも大好き。 たくさんの友達に囲まれて、他愛もないことで笑って、怒って、泣いたりする。そんな日常を毎日繰り返していた。 勉強だって嫌いじゃない。色んなことを学べるのは楽しいと思う。まあそれでも苦手な教科はあるけど…。 何でか解んないけど、遊ぶのが好きだ。たくさんの友達に囲まれていないと落ち着かない。友達がいないと生きていけない。寂しいのは嫌だ。一人は嫌だ。 『八左ヱ門が……。そっか…』 虎徹先輩が死んだ。という知らせを風の便りで耳にした。 きっと八左ヱ門が動くと思って、警戒をしていたのに、彼はあっという間に命を散らした。 虎徹先輩の仇をとったあと、殺されたらしい。 どうしても死体を見つけてあげたくて、俺は山中を探しまわり、何日かして見つけた八左ヱ門は身体中ボロボロで血で黒く汚れていた。 隣にはたくさんの動物の死体が転がってて、虎徹先輩にしか扱えなかった人食い狼まで死んでいた。 どうなったか俺には解らない。だからなのか、涙は全く流れず、俺は八左ヱ門も動物も、まとめて地面へと還してあげた。 『勘右衛門…、あまり無茶はするな…』 『あはは、大丈夫だよ兵助。無茶なんてしてないさ!』 楽しくない。全然楽しくない。 八左ヱ門が死んだ。大事な友達が若いうちに死んだ。まだまだ遊びたかった。 悔しくて悔しくて、自分に襲いかかってくる敵が全部、八左ヱ門を殺した奴だと思うと自分の殺人衝動を止められなくなる。 丁度その頃、兵助も忍務でケガをし、片足がほぼ動かなくなってしまった。 そのせいで兵助は忍者を辞め、豆腐屋を開業した。 大好きな豆腐を作れるのは嬉しい。と兵助は言うけど、顔はいつでも寂しそうだった…。 俺も嫌だった。就職先も違い、なかなか会うことができなかったのに、豆腐屋を開業してからもっと会う機会が減ってしまった。 俺と兵助の関係が敵にバレたりでもしたら、動けない兵助が狙われ、殺されてしまう。それだけは絶対に避けたかった。 『三郎と雷蔵にも会ってないなぁ…』 二人は双忍としてお城に就職した。 だから二人が一緒にいるところを見られていけない。だって彼らは二人で一人なんだから。 手紙のやりとりだけなんて、俺にはつまらないよ…。 皆に会いたい。会って色んなことを話したい。またお団子一緒食べようよ。またバカなことしようよ…! 何度願っても、俺の願いは叶いそうになかった。 『そうだ…。いつも俺ばっか誘ってるから、今度は皆が俺を誘ってよ…。知ってる?大好きな人に誘われるのって、すっごくすっごく嬉しいんだよ…』 俺はいつの間にか人を殺すことに楽しさを求めていた。 だがその代償は高く、俺も八左ヱ門のように命を散らせようとしている。 呆気ないものだ。 自嘲したあと、目の前に銀色の刃が振り下ろされ、そこで意識は途切れた。 「まさか兵助が一番に記憶を戻すとは思わなかったなぁ」 「雷蔵も全部思い出したのは今だろう?」 「まぁね!」 目の前には兵助と雷蔵が笑い合っていた。 さっきまで兵助は苦しそうにそのベットの上で唸っていたのに、今はケロリとした表情を浮かべている。 何で二人が泣いているのか解らない。何で二人が喜んでいるのかも解らない。 俺は不思議に思いながらも二人から目を離せないで、その場に立ちつくしていた。 何だか……笑っている二人を見ていると俺まで嬉しくなる。 おかしい話だよねー。俺、兵助のこと嫌いだったのに。 だってこっちは友達になりたいんだよ?そこに俺がいたことすら気づかないなんて失礼すぎるでしょ。 「よかったな雷蔵!」 「何だか僕まで泣けてきちゃった…」 「伊作…」 「うえーん、ありがとう長次!」 「さすが長次。ハンカチを常備してるとは、紳士だぜ…!」 前世なんて面白い話をするなと思っていた。少し、バカにしていた。俺には関係ないって。 「あとは、三郎と八左ヱ門と…」 「勘ちゃんだけなのだ」 涙を拭って俺を見る二人。 俺には関係ない。と思っていたのに、自然と顔が笑っていた。 ねえ、早く言ってよ。俺、ずっと待ってるんだよ? 「勘右衛門も早く思い出してほしいな」 「勘ちゃん、今度はもっと皆で遊ぼう。だから、思い出してくれ」 「―――うん、思い出したよ」 だって俺、来世でも皆と友達になりたかったもん。絶対に忘れるわけないじゃん! 大親友たちのお願いに俺も全て思い出し、二人をまとめて抱き締めると、後ろにいた虎徹先輩と善法寺先輩が「ええええ!?」と驚きの声をあげた。 「兵助、雷蔵。誘ってくれてありがとう!また宜しくな!」 「え、え…?勘右衛門も思い出したの…?」 「うんっ。ばっちり!」 「……ハハッ、さすが勘右衛門だな。俺たちとは全然違う」 「ふふっ、そうだね。さすが勘右衛門!」 「驚いた?ねぇ、驚いた?」 「「驚いた」」 「…なんか、小平太のこと思い出した…」 「うん、小平太も皆と違ったからね」 「……虎徹、伊作。戻ろう…」 「そうだな」 「邪魔しちゃ悪いもんね!あ、じゃあ僕仙蔵たちに報告してくる」 「俺は……そうだな、もう一回竹谷にアタックしてくるわ!」 「虎徹はほどほどにしとけ…。警戒してるだろう?」 「まぁな!でも諦めねぇよ!」 先輩たちはいつの間にかいなくなっていたが、俺たちは気にすることなくそこで話し続けた。 八左ヱ門が死んだあと、俺が死んで、三郎と雷蔵が死んだ。 兵助は善法寺先輩ほどではないが長生きをしたんだって。 凄く寂しかった。という兵助に俺と雷蔵が謝ると、「今度は死ぬな」と笑ってくれる。 勿論!今度は五人揃って長生きしてやるっ。 「でもその前にあとの二人だね!」 「三郎と八左ヱ門、二人とも勘が良いのに今回はダメなんだな」 「ともかく、先輩たちにも協力してもらってるから、僕たちも頑張ろうね!」 「おーっ」 「ああ」 成績優秀ない組コンビと雷蔵、そして強い先輩たちがいるんだ。絶対に二人も思い出させてやる! ( TOPへ △ | ▽ ) |