夢/とある獣の生活 | ナノ

後輩と後輩の段


平平凡凡。
俺の人生のテーマを言葉にするなら、まさしくそれだ。
自慢じゃないが俺は頭脳明晰で運動神経も抜群。
中学の担任の薦めで都心の進学校を受験するように言われたが、勉強がしたいわけでも、上を目指したいわけでもなかったから地元の高校を選んだ。
それをよく思わなかった同級生もいた。レベルの低いところに行って、見下したいんだ。とかなんとか…。
そんな陰口ばかり叩くクラスメイトと友達になろうとも、なりたいとも思わず、中学時代は少し暗かったと今では思う。
当時はそんなこと思っていなかったが、この学園に入学して、そう思うようになってしまった。


「おっす、兵助。今日は早いな」
「…おはようございます、国泰寺先輩。何週間ぶりでしょうか」
「さあ?」


だから俺は団体行動というものが苦手だった。
中学では部活は必須だったため、渋々適当な部活に入っていたが、高校では自由。
特にしたいこともなかったので帰宅部になるつもりだったが、偶然目にした弓を引く国泰寺先輩の姿を見て、思わず目を奪われてしまった。
あまりにも綺麗で、それでいて強い意思を宿した目。―――鷹のような人だと。
俺も国泰寺先輩みたいになりたいと、珍しく外界のものに興味を抱いた。


「今日はどうして部活へ?」
「三年が来るまでこっそり練習しようと思ってな。三年が来たら帰るよ」
「別にコソコソしなくても…。国泰寺先輩は弓道部のエースでしょう?」
「あー、ほら俺、嫌われてるから」


国泰寺先輩はとても不思議な方だった。いや、国泰寺先輩というより、国泰寺先輩たちだ。
国泰寺先輩たちの存在を知ったのは、入学式の次の日。
図書委員に所属している中在家先輩が俺に話しかけてきたのが最初で、それから仲良くなった。
他人と関わるのが苦手な俺だが、先輩方と一緒にいると不思議と落ち着く。変な遠慮をしなくてすむのが楽だ。
とてもいい先輩たちなのだろう。そう思うが、先輩方は時々変なことを言う。
「室町」「忍者」「懐かしい」「記憶」……。
そして悲しい表情を俺に向けてくるのだ。それは先輩方だけでなく、隣のクラスの不破もだった。


「俺は帰る」
「もうですか?」
「三年が来る。俺には解る!」
「はぁ…」
「あ、そうそうこれやるよ。杏仁豆腐チョコ」
「ありがとうございます、国泰寺先輩!」


初めて会ったというのに、俺が豆腐好きなのを全員知っていた。不思議でならない。言った覚えなんてないのに何故だ…。
国泰寺先輩は荷物をまとめ、さっさと片づけ、その場で制服へと着替えて道場をあとにした。


「兵助、今日は雷蔵たちと話したか?」
「いえ」
「話せって言っただろ!」
「…」
「ま、いいや。じゃあな!」


そしてもう一つ不思議に思うこと。
同じクラスの尾浜、隣のクラスの竹谷、鉢屋、不破と絡めという。
それに何の意図があるか全く解らないが、先輩方は「とにかく話せ」としか言わない。
もう何か月以上もそんなことを言われてはさすがにうんざりしてしまう。
大体、尾浜と話すのは疲れるのだ…。
あいつは俺とは違って社交的で、いつも明るい。クラス全員と友達になってたし、部活に入らずブラブラ遊んでいると聞く。
竹谷は部活で忙しい男だし、授業中は寝ていると聞く。俺はそういっただらしない男が好きではない。
鉢屋は近寄りがたい。普通に接していても常に警戒しているのが解る。壁も感じる。なら俺は関わろうと思わない。
不破は……。俺に遠慮をしている。でもやけに馴れ馴れしい感じもする。それが解らない…。不破と話すと心が乱れてしまう。


「……準備するか…」


そんなときは弓道だ。
先輩から頂いたお菓子を鞄にしまい、俺は準備を整えた。


「あっれぇ?久々知じゃん」
「……尾浜…」
「久々知って弓道部だったの?うっわ、めっちゃ格好いい!」


更衣室で弓道衣に着替えて道場へ戻ろうとすると、派手な髪型をした尾浜が俺を見て近づいて来た。
ジロジロと観察するように見てくる尾浜に、「離れろ」と言っても耳に届いていないのか、「へー」「ほー」「わー」などと関心している。
十分堪能したあと、少し離れてニコッと笑った。


「なんかすっごい似合ってるな!昔からしてたの?」
「いや、この学園に入学してからだ」
「へー…。でも似合ってるよ。格好いい!」
「それはどうも。じゃあ俺は「ところで久々知は食満先輩たちと話した?」


食満先輩は国泰寺先輩と同じクラスで、時々話かけてくる人だ。
国泰寺先輩と善法寺先輩とは特に仲が良く、空手部のエースでもあるちょっとした有名人。
何でその人と尾浜が?全然接点がなかったと思うんだが…。


「それなりに…」
「あ、じゃあ前世の話とか聞いたんだ?」
「……前世?」
「あれ?聞いてないの?」


尾浜の言葉に頭が一瞬真っ白になったが、理解だけはできた。
「何を言ってるんだ?」と声に出す前に尾浜が「あのね」ときりだしてきたので、口を閉ざして耳を傾けた。


「俺と、久々知。隣のクラスの竹谷と不破と鉢屋って室町時代で忍者してたらしいよ!んで、大の仲良し!大親友なんだって!」
「……」
「だからそいつらと関われって食満先輩から言われたんだけどさー。ほら俺って遊ぶので忙しいじゃん?そういった話は嫌いじゃないけど、覚えてないから解んないだよねー!」


ケラケラと笑う尾浜は、純粋に先輩方の話す「前世の話」を楽しんでいた。悪く言えばバカにしたうえで、信じていない。
勿論、俺もそんな話信じられない。前世なんてあるわけないだろう。


「大体俺と久々知が仲良しなわけないじゃん。だって真反対だよ?」
「そうだな。俺もお前とは仲良くなれない」
「あはっ!俺、お前のそういったところが好きだよ。でも、他人に興味を抱かない人間は俺も大嫌い!」
「「俺も」?俺は嫌いとは言ってないが?」
「ああ、そうだったね!久々知は嫌いじゃなくて、「無関心」なんだよね」


笑いながら言う尾浜の言葉が胸に刺さった。
「無関心」で何が悪い。他人と関わって生きていくなんてしんどいだけだ。辛いだけだ。
何事も、平平凡凡に過ごすのがいいに決まってる。平和が一番なんだ!
もう、苦しい思いなんてしたくない!


「……もう…?」
「ん?」


「もう」って何だ?前にも体験したのか?いや、そんなことない…。だって俺は他人と深く関わらないようにして生きてきたんだから…。


『八左ヱ門も勘右衛門も…、雷蔵も三郎もッ…!皆嫌いだ!』
「何で俺だけ…!」
「久々知?え、ちょっと…。どうしたの!?」


頭がグラグラと揺れて気持ち悪い…。
しっかり立とうと思っても身体中から力が抜け、尾浜に寄りかかってしまった。
「すまない」と言って離れたいのに、身体が重たくて…息が苦しくて…。


「久々知ッ!」


勘右衛門の声を遠くに聞きながら、俺は意識を失った。


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