後輩の泣き声の段 前世を思い出したのは中学生のとき、同じクラスの友達が「昨日隣町でお前を見た」って言ってからだ。 まだ朧げではあるけど、楽しかった学園生活を目を閉じるだけで思い出すことができる。 友達の話を聞いて、何度も隣町に向かったが、三郎に出会えることはできなかった…。 きっと友達が見たのは三郎だ。あいつ、私の顔で生まれ変わったのか…。 恥ずかしかったけど、凄く嬉しかったのを何年経った今でも覚えている。。 だけど会えないこの時間がとても寂しい。できれば同じ高校に通いたい。せめて、三郎だけには会いたい。 だから隣町にあるこの学園を選んで、受験をした。偏差値もそれなりに高いから、もしかしたら三郎がいるかもしれない。 いや、三郎のことだ。「電車に乗るのが面倒くさい」の理由で地元の高校を受けるに違いない。 『新入生代表、久々知兵助』 「はい」 そして私たちは出会った。 入学式、たくさんいる生徒の中から四人を探した。 立って動けないけど、八左ヱ門を見つけることができて、三郎も見つけた。しかも二人とも同じクラス! 嬉しくて、今すぐにでも声をかけたかったけど、式の間は動けない。 我慢していると先生に呼ばれた兵助が壇上へと上がって、思わず「あ」と声をもらしてしまった。 すぐにA組を見ると勘右衛門が退屈そうに欠伸をしていた。 「(五人…。五人全員いる…!)」 嬉しくて溢れた涙を拭い、冷静に喋り続ける兵助を見上げる。 やっぱり兵助は優秀なんだね。勘右衛門とはもう話したのかな? 私も早く三郎や八左ヱ門と話したい。それより皆も兵助に気づいてるかな? 式が終わって、皆と話したいことを考えていると、在校生代表で立花先輩が現れ、また驚いた。 よくよく見ると食満先輩、七松先輩、虎徹先輩もいた。 「(先輩方も!?こ、こんな偶然あっていいのかな…!)」 一つ上の先輩たちとはよく交流があった。 中在家先輩は私の指導をよくしてくれたし、話も噛み合った。 虎徹先輩がいるから八左ヱ門も絶対喜ぶぞ。 前の離れた場所に座っている八左ヱ門を見ると、首が船を漕いでいた。 もう、君の尊敬する虎徹先輩がすぐそこにいるんだよ?起きなよ、八左ヱ門。 『新入生は教室へと向かって下さい』 色んなことを考えていると、いつの間にか式は終わっていて、担任の先生の誘導で教室へと向かう。 え、ど、どうしよう…!先に軽く先輩たちに挨拶するべきか、それとも教室に行って、三郎たちと話してから先輩たちに挨拶するべきか…! でもきっと兵助のことに気づいているし…。待てまて!その前に先輩たちは記憶があるんだろうか? 悩んでいるうちにB組の皆は教室に戻って行ってしまい、私だけが取り残されてしまった…。 じゃあ先輩たちに軽く挨拶してこようか。すぐに走って行けば間に合うだろうし。 「あ、あの…」 それでも、どうやって挨拶するか悩んでしまい、とうとう私だけが残ってしまった。 七松先輩と虎徹先輩は凄いスピードで椅子を片付けているので、頭を抱えていらした食満先輩に話しかける。 恐々と話かけるも、嬉しいことに先輩たちにも記憶があった。 何度か言葉を交し、急いで教室へと戻る。 「(あった、ここだ!)す、すみません、遅れました!」 謝りながら教室のドアを開けると、先生もクラスメイトとなる人たちも、全員が私を見て驚いていた。 今立っているのは三郎だった。 「あー…不破か?」 「あ、はい。そうです、不破です」 「ともかく空いてる席に座りなさい」 「すみません…」 ざわつく教室の中を視線を気にしながら歩いて、席に座る。 横目で三郎を見ると、冷たい目で私を見ていた。 「何だお前ら双子か?」 三郎の冷たい目に一瞬だけ思考が停止していた。何であんな目を向けられるのか解らなかったからだ。 ざわついている教室に、ひと際通る声で私に話しかけてきたのは斜め前に座る八左ヱ門だった。 八左ヱ門も…記憶が…? 「え…っと…あの…」 「もしかしてドッペルゲンガーってやつ?」 「おー、それすげぇな!」 「じゃなかったら双子でもないのに同じ顔した人間なんていないよねー」 八左ヱ門の言葉で、教室は私と三郎で騒ぎ始めた。 先生が「静かにしなさい」と言っても、三郎と私を見比べるのを止めない。 「では、いつか僕か不破が死ぬんだろうな」 今まで黙っていた三郎が明るい声で、冗談のように言ってその場をさらに和ませる。 笑い声が響き、三郎も皆と一緒に笑っていたが、 「気持ち悪い」 と私を拒絶していた。 今度は全身から血の気が引いた。 記憶がないのにもショックだがそれ以上に、三郎が私を拒絶したのにショックだ。 頭が真っ白の状態で自分も自己紹介を終え、先生からこの学園についての説明を聞かされた。 だけど頭の中では違うことばかり考えていた。 早く三郎と話したい。八左ヱ門とも話したい。でもどうやって?どう切り出せばいいんだろうか。 「それでは今日は終わりです」 先生の言葉に、クラスメイトは各々に散っていく。 三郎も鞄を持ってさっさと教室から出て行くので私も慌てて三郎を追った。 まずは三郎と話をしたかった。 「さ、三郎!ちょっと待って!」 さっさと帰ろうとする三郎の足を止めたのは、たくさんの生徒が行き交う廊下。 変わらない冷たい目で私を振り返り、「何だ」と聞いたことのないような声色で聞かれ、思わず身体がビクリと震えた。 「あ……その…」 「先に言っておくが、僕はお前など知らん」 「………」 「僕と同じ顔しやがって…!」 「さぶ「その名を呼ぶな!」 怒りがこもった声に、何人かが私たちを見たけど、すぐにどこかへと向かう。 怒っている三郎に前世の話なんてできない…! どう話していいか解らず、「ごめん」と謝ると、大股で私に近づいて胸倉を掴んだ。 「いいか、二度と僕と関わるな!真似しやがって気持ち悪いんだよ!」 そのまま突き放され、三郎は帰って行ってしまった。 私が君を真似たんじゃない…。三郎が私を真似たんだッ…! だって君は変装名人で有名だったんだぞ。 学園を卒業して、双忍として一緒に同じ城に就職したじゃないか…。何で…何で三郎は私を覚えていないんだ…! 突き放され、尻持ちをついている私の横を、八左ヱ門が新しく作った友達と通りすぎ、勘右衛門と兵助も通り過ぎて行った…。 私は一体どうしたらいいんだ…。また皆に会えて嬉しいのに、こんなの……寂しすぎるよ…。 こんなに苦しいなら記憶なんていらなかった!私も三郎に「気持ち悪い」と言ってやりたいよ! 「―――……失礼、します…」 色々考え、私は生徒会室へとやって来た。 いらない。と言ったが、記憶があるなら仕方ない。幸いなことに先輩方も記憶がある…。 「……久しぶりだな、不破」 「中在家っ、せんぱ、いっ…!」 苦しかった心も、中在家先輩の声と表情に、抑えていた感情が全て溢れてしまった。 情けないし、恥ずかったけど、涙は止まることがなかった。 「皆の記憶がっ…記憶がないん、です…!」 ( TOPへ △ | ▽ ) |