後輩と接触の段 「おっす鉢屋!久しぶりだな!元気にしてたか?」 「なはは!やっぱり不破の顔で生まれ変わったんだな!」 だからッ!俺は「暴走するな」って言ったのに何でするんだよ! こいつら本当にバカだな!俺よりバカだ! 「失礼ですが、僕と先輩方は初対面です。馴れ馴れしく話しかけないで下さい」 春休みも終わり、新入生を迎える式が行われた。 俺たちは仙蔵が所属する生徒会の手伝いで式に参加し、雑用をしていた。 椅子の設置や生徒、保護者の誘導…。仙蔵や文次郎は先生たちと話してはあっちこっち移動している。 長次と伊作は受け付けをして、俺たちは体力仕事系の裏方。 長かった式も終わり、椅子の片づけをしようとしたら、バカ二人が急に走り出した。 また何か壊すんじゃねぇかと不安になり、慌てて追いかけると、二人の前には不破がいた。だけどそいつは不破じゃなく、鉢屋。生まれ変わっても素顔を見せないらしい。 後輩との接触は極力控えるよう注意したし、仙蔵にも言われた。なのにこれだ。言っておくが、俺は悪くないからな! 「うわー…、そのツンツンした声懐かしー…」 「なぁ、不破はどこだ?それと竹谷も」 「はあ?」 「おいお前ら。無闇に話しかけるなって言われただろ!」 混乱。というより、不愉快そうな表情を浮かべている鉢屋。 二人と鉢屋の間に入って、バカ二人の頭を殴るとその場にしゃがんで静かになる。ちょっと黙ってろ! 振り返って謝ろうとしたが、すでに鉢屋の姿はなかった。…お礼もなしかよ! 「いてぇよ留さん…」 「痛い…」 「バカが!仙蔵に怒られてもしらねぇからな!」 「「それは困る!」」 「ったく…。ともかく、このことはあとで話すとして、早く椅子片付けろ」 「よし、いけいけどんどんで片づけるぞ!」 「俺も頑張る!」 と、言ったものの…。絶対に怒られる。そして一緒にいた俺も怒られる…。 伊作もいねぇのに何だこの不運は……。獣二人の面倒を見るのは辛いぜ…。 「あ、あの…」 「あん?」 頭を抱えて、どう仙蔵に言い訳するか考えていたら、背中をつつかれ、振り返る。 後ろには鉢屋、ではなく不破が戸惑いの表情を浮かべながら立っていた。 「食満、先輩ですよね…?」 「お前……。不破だよな…?」 「はいっ。え、私のこと解りますか?」 「お前…もしかして記憶あるのか!?」 「はい…。食満先輩もですか?」 「小平太、虎徹!ちょっと、こっち来い!」 既に半分以上片づけ終わっている会場には、俺と虎徹と小平太、そして不破しかいない。 「どうしたー?」と二人が近づいて来て、不破の存在に気がつくと、二人は鉢屋のとき同様、明るく声をかけた。 「不破は記憶あるみたいだぜ!」 「マジでか!雷蔵、本当に記憶あるんだよな?」 「は、はい。断片的ですが…。先輩たちは?」 「私たちは最近思い出したのだ。伊作っくんだけ生まれてからずっと覚えたけどな!」 「生まれてから…ですか…。それはまた不運ですね」 「だろ?って、雷蔵。話してる場合じゃねぇよ。早く教室行けって」 「あ、そっか…!すっ、すみません。つい懐かしくて声を……。あの、中在家先輩は?」 「長次も仙蔵も伊作も、あとついでに文次郎もいる。全部終わったら生徒会室に来いよ」 「解りました!」 ペコリと頭を下げ、教室へと走って向かう不破を見送り、俺も椅子を畳んで片付ける。 「雷蔵だけでも記憶があってよかったな」 「きっと長次も喜ぶぞ!」 「だが、逆を言えば不破だけだ。もしかしたら伊作みたいになるかもしれねぇ…」 昔の仲間がいるのに、昔のことを語ることができない。 一緒にいるのに、少し違う友達の行動、考え、思いに戸惑ったり、寂しくなったり…。だけど言うことができない。 それは言葉で表現できないほど心苦しかった。今では笑って言えることだが、そのときは笑えなかったと、伊作は言う。 きっと不破もそうになるに違いない。 「だけど今回は俺らがいるじゃん!」 「そうそう。長次は絶対に協力するし、私たちも協力する!」 「長次は雷蔵を可愛がってたもんな」 「ともかく、不破が記憶を持っていたことは大きな収穫だ。さっさと片付けて生徒会室行こうぜ」 「「おう!」」 何百人の椅子があったのに、あいつらのおかげであっという間に終わってしまった。 受け付けをしていた長次と伊作もその速さに驚き、二人は自慢そうに笑う。 だけどすぐに不破のことを話すと、長次と伊作も笑って喜んでくれた。 特に長次は嬉しそうだった。あまり感情を表に出さない奴だから、本当に嬉しいんだと、顔を見ただけで解る。 「よっしゃ、仙蔵のとこに行こうぜ!」 「そうだね。報告しないといけないし」 「長次、口元緩みすぎだぞ」 「…今日だけは許せ」 騒ぎながら全員で生徒会室へ向かい、ノックをして中に入る。 生徒会室には二年生なのに生徒会長を務めている仙蔵と、やっぱり現世でも会計をしている文次郎しかいなかった。 何故か知らねぇが、この学園には生徒会というものがないらしい。 いや、存在はするんだが、好き好んで生徒会長をやる生徒がいないんだと。だから二年の仙蔵が生徒会長をしている。 「独裁政治の始まりだぞ」と文次郎が言っていたが、その被害に合っているのは主にお前だ。何でまた会計してんだよ…。しかもパソコン使わず算盤って…。 「それはよかったな。どれ、茶でも淹れて迎えてやるか。文次郎、準備しろ」 「何で俺が…」 「ならば先走ったバカ二人にさせよう。おいバカ二人、茶を淹れろ」 「いけいけどんどんで淹れてやる!」 「書類とかにこぼしてもいいなら!」 「……俺が淹れるから大人しくしてろ、バカたれ…」 適当に置いてある椅子に座って、不破のこと、これからのことを話しあう。 虎徹と小平太はお気に入りのソファにぎゅうぎゅうになって座り、喧嘩しながらも遊んでいる。 あいつらは何でもオモチャにするよな。頼むから壊すなよ。どうせ直すの俺なんだし。 「まずはどうやって他の皆の記憶を思い出させるか。だよね?」 「そうだな。…いや、記憶がない相手にどうやって接触するかが先だ」 「虎徹と仙蔵は伊作との接触を避けてたしな。きっと鉢屋、久々知あたりは嫌がるだろうよ」 「記憶がなければただの電波にしか思えなかったからな。あのときはすまなかった、伊作」 「ううん、そう感じるのが普通だよ。気にしないで」 「……手っ取り早く、私たちのように死に場所へ行くのが一番では…?」 「あと学園跡地だな。俺も久しぶりに行きてぇ。虎徹と小平太は頻繁に行ってるみてぇだが」 「お前らは本当に野生児だな…。二人とも部活があるんだろ?」 文次郎が呆れながら二人に話しかけると、二人は笑って答えた。 だけど次の小平太の言葉に、部屋は静まりかえる。 「ところで、他の奴らは記憶を取り戻したいって思ってるのか?」 「おー…そうだな。どう思ってんだろうな」 そうだ、まだ不破の話を聞いていない。 伊作は、俺たちが昔のように仲良くないから記憶を取り戻してほしいと思っていた。 伊作の話を聞いて、懐かしい気分になって俺たちも取り戻したいと思った。 だけどあいつらは?記憶をないまま生まれ変わったということは、前世に悔いがないからかもしれない。そうだとしたら、無理やり思い出させるのは可哀想な気がする。 俺たちの想いや考えを、あいつらに押し付けるのは少し違うような気がしてきた。 冷たい言い方だが、これはあいつら五年の問題だ。 「こいつ…。時々まともなこと言うな…」 「え?」 「バカだからな。直球しかできねぇんだよ」 「え、え?」 「小平太、お前褒められてるぞ。A組の二人に褒められるなんてすっげぇ!」 「そっか!へへっ、やった!」 「バカにしてんだよ、このアホはめ!」 「マジで!?」 ……はぁ…。こいつはほんと…。空気読めよな…! ともかく、五年(いや、今は一年か)の不破がいないと俺らも協力できねぇということで、不破が生徒会室に来るのを大人しく待つことにした。 「小平太ァ!俺の茶こぼすんじゃねぇよ!」 「すまんすまん!」 ま、「大人しく」なんてこいつらには無理は話か。 ( TOPへ △ | ▽ ) |