記憶の続きの段 「あいつらすっげぇ変なこと話してんだぜ」 「ああ、知ってる知ってる。なんか、室町がどうとか…忍者がどうとかって…」 「最初は善法寺が言ってたんだろ?いつしか同じクラスの食満と国泰寺も言うようになって、七松と中在家、A組の潮江と立花も言ってるってよ」 「マジかよー…。C組はバカの集まりだからいいけどよ、A組とB組の二人も言ってるのがマジで気持ち悪いよなー!」 「電波かよ!」 「この間も、歴史の先生に意味わかんねぇこと言ったらしいぜ。「その歴史は違います」って」 「うっわ、ドン引き…。なんか入学式のこと思い出したわ…」 「あれもイカれてたよなー!他にもよ―――」 そいつらは俺たちの存在に気づきもせず、大きな声で話していた。 俺の隣には伊作と、留三郎。伊作は苦笑いを浮かべ、留三郎は今いる二階の渡り廊下から一階に飛び降りて、そいつらに殴りかかりそうな顔をしていた。 くわえていたストローを奥歯で噛んで、中身を全部吸い取る。うめぇ。 「今すぐぶっ飛ばすっ…!」 「まぁ落ちつきなよ留さん」 「これが落ちついてられるかぁ!」 さすが武闘派。 記憶が戻る前にも増して喧嘩っぱやくなった留三郎を、伊作が必死で抑える。 だが、留三郎の肘が伊作の顔面に当たり、後ろへと倒れてしまう。やっぱり不運だな、伊作は…。 呆れながら伊作の隣にしゃがみ込んで「大丈夫か?」と声をかけやると、伊作はふにゃんとした表情で「大丈夫ー」って返してくれた。 「……頭打ったのか?可哀想に…」 「何でそんなこと言うの!?」 「いや、だって頭打ったっていうのに嬉しそうだったから…」 「だ、だって…。前まで僕一人でああいったことを聞いてたから……」 生まれたときから室町の記憶を持っていた伊作とは違い、俺たちはつい最近前世を思い出した。 留三郎と一緒にいたって言うけど、記憶がない間ずっと寂しかったと思う。 俺らは会ったら会ったで喧嘩してたしな…。あれは本当に悪かった。 「でも今はあんなこと言われてもなんとも思わないよ!二人がいるからね!」 嬉しそうに笑う伊作に、俺と留三郎も笑って、「おう」と答える。 伊作に手を出して起こしてやると、廊下の向こうから仙蔵と文次郎がやって来た。 二人はA組で、生徒会に所属している優秀な奴ら。現世でもそれは変わんねぇんだな。 「おいアホは。何してるんだこんなとこで。用事がないならさっさと下校しろ」 「うっせぇ文次郎!そういうテメェらはどうなんだ!つーか今は「は組」じゃねぇんだよバーカ!」 「なんだと!?」 こいつらは前から変わらず、犬猿だ。どうやったら仲良くなるか考えたが、仲がいい二人を想像すると吐き気を催すので考えるのを止めた。 「私たちは生徒会の仕事だ。お前らとは違う。特に虎徹」 「うえ!?お、俺?」 「貴様、ここの試験がマークシートだから受験したそうだな」 アホはの通り、俺は勉強がからっきしだ。中学のころは遊んでばっかだったし。 だけど運動だけは優秀だったから、「スポーツ推薦」ってのを受けるつもりだったんだが、まぁ…ちょっとあって部活を辞めることになってしまった。 夜間でも行くかー。と思ってたところに、同じクラスの奴がここの試験がマークシートってのを聞いて、ここを受験すること決めた。 俺はとにかく勘がいい。それはもう昔から。(前世からって意味な) マークシートのおかげでここに入学できたのだが、あとから聞いた話によると、この学園はかなり偏差値が高いんだって。 「いいか、今遊んでいる時間があるなら帰って勉強しろ。来月には中間があるんだぞ」 「げっ、マジか!」 「虎徹聞いてなかったの?今日、先生も言ってたじゃん」 「やっばー…。俺絶対ダメだ、赤点だわ…」 「安心しろ、虎徹。中間も期末も全部マークシートだ」 「マジで!?よっしゃ、じゃあ大丈夫!」 「大丈夫なわけあるかバカタレ!勘に頼らず意味を理解して問題を解け!」 「文次郎の言う通りだ。それと、勉強がダメならせめて部活に入れ。お前も小平太も、身体能力だけは優秀だからな。それで全国優勝でもしてこの学園の名を残せ」 「部活なぁ…。俺、皆に合わせるの苦手ー…そのせいで問題起こしちまったし」 それに部活に行く時間があるぐらいなら、バイトに回したいと思ってる。バイト禁止の学校じゃねぇし。 どうしようか考えてたら、窓の外からバレーボールが飛んできて、伊作の頭に見事命中! 留三郎を巻き込んで廊下に倒れるのを、文次郎と仙蔵が「うわぁ…」って声をもらしながら見ていた。 まぁ犯人は誰か解る。 「お、何だお前ら揃って!何話してたんだ?」 「お前なぁ…」 窓から現れたのは小平太。下を覗くと長次がいて、「すまん」と頭を下げられた。 つーか登ってくんなよ!危ないから! 「ここ現代だぞ。現代でこんなことする人間がどこにいるんだバカ小平太」 「ここにいるぞ?」 「……」 「小平太は虎徹以上にバカだな」 「俺よりって酷いな、仙蔵さん」 「何でB組なんだ。バカなのに」 「口悪いの変わりませんね」 「私か?私スポーツ推薦で入学したからな!」 A組は本当に優秀な生徒だけが集まっている。所謂エリート組。 B組は頭が優秀な生徒、もしくはスポーツ推薦で入学した生徒が混同している。 C組はその残り。ってな感じがこの学園だ。ちなみに普通科な。あと商業科があるが、そっちは知らんし興味ねぇ。 「小平太、だからここでするのは危険だと「長次、細かいことは気にするな!」 「き、気にしてくれよぉ!また僕に当たっちゃったじゃないか…!」 長次は階段を使ってあがってきて、小平太に説教をするが、小平太は全く気にしていない。 伊作の言う通り、少しは気にしてほしいものだ。が、言っても聞くような人間じゃないので、皆諦めてる。 「で、お前ら何してんたんだ?」 「俺と留三郎と伊作は普通に喋ってただけ。あと陰口聞いてた」 「陰口?」 「俺らが電波だってよ」 留三郎の言葉に、その場にいる全員が鼻で笑った。 「私も聞いたぞ!な、長次?」 「ああ」 「私も聞いたが、そんなの大したことではない。どうせすぐ忘れるさ」 「だな。ほっとけばいい」 「留三郎はめっちゃ怒ってたけどな」 「友達を悪く言われて腹が立たないわけねぇだろ!?」 「じゃあ留さんが怒ってたのって…。僕たちの陰口を聞いたから?」 「当たり前だ!俺一人なら全然問題ねぇ!」 「留三郎…」 「留さーん!」 「うおっ!?いっ伊作、抱きつくな!」 記憶が戻って、また昔みたいに笑い合える毎日。 刺激はなくなったけど、今度はゆっくりお前らと歩いていきてぇな! 「っと、その前に…」 「やるのか、虎徹?」 「おうよ。小平太もやってくれ」 「任せろ!」 陰口を言ってた奴らは少し遠くのベンチに座って、笑っていた。 そいつらを見ながら指笛を吹くと、鴉がすぐに渡り廊下に集まる。 この学園近くに住む奴らとはもう仲良くなってんだよ! 何羽か撫でたあと命令を出すと、鴉はそいつらに向かっていく。 「な、なんだぁ!?」 「カラスがなんでいきなり!?うわっ、おい…っ。いてててて!」 「止めろっ、マジで止めろって!」 「おい逃げるぞ!」 「なんなんだこいつら!」 混乱する奴らは立ち上がり、その場から逃げようとするので、小平太がバレーボールを投げつける。 ボールは一人に命中し、近くにいた奴にも当たった。不運な奴らめ。 「おー、さすが小平太だな。見事だ」 「なっさけねぇ奴らだな。あれぐらい避けろ」 「……文次郎、あいつらは一般人だ…」 「何もあそこまでしなくても…。大丈夫かなぁ?」 「いいんだよ、あれぐらい。伊作、今日はもう帰ろうぜ」 「あ、うんっ」 「虎徹、長次、私お腹空いた!何か食べて帰ろう!」 「ああ…」 「じゃあ競争な!負けた奴が驕りってのはどうだ?」 「いいぞ!もちろん私が勝つがな!」 「文次郎、私たちは生徒会室に戻るぞ」 「だな。お前ら、問題起こすなよー」 「「解った!」」 「獣二人に言われても安心できねぇよ…」 さあ、明日は何して遊ぼうか! ( TOPへ △ | ▽ ) |