夢/とある獣の生活 | ナノ

記憶の回収の段


なんの違和感もなかった。


「お前生まれ変わっても不運なんだな。なんとも言えねぇなぁ…」
「ううん、虎徹の記憶が戻ったから不運じゃないよ。昔に比べたらマシになったのかもね!」
「そうかぁ?つか留三郎、伊作と幼馴染なんだろ?大丈夫か、不運的な意味で」
「あー……巻き込まれてばっかだな」
「やっぱかよ!伊作ー、現世でも留三郎巻き込むなっての!」
「でも虎徹もこれから一緒にいるってことは、虎徹も巻き込まれるってことだよね」
「……あーっ!」


C組の国泰寺の記憶が戻ったらしい。
最初は一番やる気がなく、ぶちぶちと文句を言ってたり、善法寺を見下してたような目で見ていたのに、戻ってからは全く変わった。
だけど違和感はなく、寧ろ今の国泰寺のほうが「国泰寺らしい」と思ってしまう。
俺はA組だし、こいつらとはなんの関係もないのに、何故かそう思ってしまう…。
いや、最初に会ったときから懐かしい感じはしていた。


「(…そう言えば昔……)」


あまり記憶にねぇが、昔から誰かを探していた気がする。
名前も思い出せねぇが、誰かを呼んで、探して、親にも聞いて…。ああ、会う人間に「―――は知らないか?」とも聞いてたな。
そのたびに親から怒られ、周りからは奇特な目を向けられた。
小学生にあがっても止めなかったが、親に「いい加減にしてくれ」と泣かれてからは聞くことを止めた。…思い出した。


「(こいつらを呼んでいた…のか?)」


だから前世のことを善法寺から聞いたとき、怖くなって逃げ出した。
探していた奴らが目の前にいると、何故だか怖くなった。思い出したくないとも思った。探していたのにおかしな話だ。
できるだけこいつらと関わりたくないと思っていたが、今回こんなことになってしまった…。


「大体この辺だと思うんだけどなー…」
「伊作、こっちじゃね?」
「そっちかも」


最初、獣道を歩いていたが、国泰寺の記憶を取り戻してからはもっと深い獣道を歩き続けていた。
同じクラスの立花は息を切らせながらも気合いで二人についてきている。正直、今にも倒れそうなぐらいゲッソリしている。
何度か声をかけてやったが、「うるさい」としか言われないのでもう知らん。


「おっ!伊作、こっちだ!こっちの気がする!」
「ま、待って虎徹!」
「おい伊作、あんまりはしゃぐなよ。どうせ転ぶんだから」
「ついたのかー?」


国泰寺、善法寺、食満、七松がガサガサと森の奥へと入って行き、中在家と俺も遅れて進む。
振り返って立花の様子を見ると、「先に行ってろ」とでも言うように手で合図してきたので、置いて行く。…あの手の振り方もどこかで見たことがあるな。
国泰寺と七松のおかげで獣道だというのに歩きやすくなっており、特に問題なく進むことができた。
鬱蒼としていた森を抜けると、明るい場所へと辿り着く。目の前には竹林。
一瞬だが、何か大きな建物が見えた気がしたのだが、気のせいだろうか…。


「ここだな」
「ここだね」


記憶がある二人は満足そうに笑い、その場に座り込んだ。それと同時に立花もやって来て、竹林をジッと見つめる。
七松も、中在家も、食満も…。全員が何もない竹林を見て、黙っている。


「解ってるけど、歴史って寂しいね…」
「頑張っても未来には残らねぇもんなぁ…。あ、おい小平太。どこ行くんだ?」
「ちょっと中入ってくる!」
「じゃあ俺も行くかな。伊作は入るなよ、絶対に迷子になるからな!」
「解ってるよ!」


そう言って二人は竹林の中へと入って行った。
今、門が見えたぞ。立派な門だった…。
忍び装束に身をまとい、ボロボロになっているのに顔は笑っている二人を見て、胸が苦しくなる。


「(……俺も思い出したい)」


幼いころは覚えていたのに、「おかしい」と言われてから忘れてしまった記憶を取り戻したい。
もうそこまで出てきてるんだ…!こうやって見えるぐらい思い出しているんだ!なのに何故!


「文次郎、大丈夫?」
「善法寺…」


頭を抱えて俯いていると、善法寺が声をかけてきた。
心配そうな表情で覗き込み、肩を擦ってくれるのがまた懐かしい。
お前はいつも優しいな、いや…怒っていたか?くそ、よく解らない…。


「すまない、善法寺…」
「ん?」
「……きっと…俺は…。俺は記憶があったのに、忘れてしまったようだ…。全く思い出せん」
「大丈夫だよ、文次郎。虎徹が思い出せたんだからきっと文次郎も思い出すって!」
「すまん…」


無理しないで。という善法寺だが、俺は無理に思いだそうと座って頭を捻る。
何度か竹林を見ても、懐かしい「感じ」しかせず、思い出すことはできない…。
他の奴らはどうなんだろうか。
そう思って立花を見ると、まだ呆然と竹林を見ていた。中在家は懐かしそうな顔を浮かべている。
食満は善法寺と楽しそうに喋り、竹林の中からは七松と国泰寺の笑い声が響いていた。


「(ああ、やはり懐かしい…)」


ザァアアアと風が吹き、竹がしなって葉を落とす。
ゆっくり目を瞑ると自然と心が休まり、思い出に浸る。
もしかしたら俺の妄想かもしれないが、瞼の裏に古い映像が流れる気がした。


「―――文次郎、そろそろ帰ろうよ」
「……」


いつまで目を瞑っていたか解らないが、善法寺に声をかけられ目を開けると周囲は薄暗くなっていた。
いつの間に夜になってたんだ?どれだけ俺らはここにいたんだ?だって駅についたのは昼間で……。


「本当は夕方までに帰るつもりだったんだけど…。山を降りるころには夜かもね…。電車あるかなぁ…」
「じゃあ泊まろうぜ!学園跡に来ても記憶戻れてねぇんだし、明日も探索だ!」
「でも……」
「こいつらも微妙な顔だしさ。文次郎に至っては記憶取り戻したくてたまらねぇ顔してるぜ?な、文次郎?」
「…そうだな、ここまで来たし最後まで付き合ってやる」
「私も!私も記憶戻したい!ここに来たらすっごく懐かしい気分になる!」
「でも泊まるってどこに?」
「え?そこらへん?冬じゃねぇし死なねぇだろ」
「バカ虎徹!今は室町じゃないんだよ。現代にきてまで野宿とかイヤだよ!」
「じゃあどうすんだよ」
「それは…」
「はぁ…。貴様らは本当にアホなのだな…」


二人の会話に口を挟んだのは、立花。
呆れて溜息を吐いたあと、取りだしたのは財布。口元には不敵な笑みが浮かんでいた。


「金ならある」
「「おおおお!」」


さすが仙蔵だ。抜かりがねぇ。
ガキみたいに喜ぶ伊作と虎徹を見て、俺と長次が笑った。あいつらはほんと感情がすぐに出るよな。


「よし!じゃあ村に戻って宿捜そうぜ!帰り道は俺に任せな!小平太、伊作背負ってやれ!」
「任せろ!」
「ダッシュで帰るぞダッシュで!」
「おい待て虎徹!本当に帰り道解るのか!?」
「俺の野生の勘、舐めるなよ!」


自信満々に山へと入って行く虎徹に、俺達は半信半疑でついて行く。
最後に竹林を振り返るも、記憶は戻ることがなかった。


「(いや…今さっき……)」
「おい潮江、ニヤニヤしてねぇでさっさとついて来い!遭難しても知らねぇぞ」
「うるせぇ食満。いいからお前はあのバカの手綱を持っとけ」
「うるせぇとは何だ!」


それでも…、記憶が戻らなくてもこいつらとはうまくやっていけそうな気がした。


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