狼月の段 !注意! 会話の途中でBL発言してます。 ですが、お互いそういった気持ちではないです。冗談で話してるだけ。友情夢。 しゅる。ギュッ。ドタッ。ぽいっ。ガシャン。 「……え、なにこれ?」 俺の目の前には文次郎、仙蔵、長次、留三郎の四人が立っていた。 先ほどの効果音は、長次に縄標で捕らわれ、文次郎によって縛られ、俺が転び、仙蔵が俺の部屋に俺を投げ捨て、留三郎に首輪をされた音。 さすがこの学園の最上級生。俺が抵抗する暇を与えることなく捕縛、監禁、首輪をした。 うつ伏せになったまま四人を見上げると、何故だか真剣な顔をしてて、背筋がブルリと震える。 「お前ら…、俺のことをそういう目で「違うわ!」 怒りを込めて俺の頭を叩いたのは同じ組の留三郎。 口は悪いし、時々暴走するけど面倒見のいい男。周囲からは俺の飼い主とか言われてるけど、別にイヤじゃない。だっていい奴だし。 その留三郎におもっくそ殴られ、「痛い!」って悲鳴をあげたけど解放はしてくれなかった。 「何だよ…、じゃあなんのために捕縛してんの?」 「虎徹よ」 一歩俺に近づいた仙蔵は重々しく口を開き、膝をつく。 第三者が見たらシュールな光景だぞ、これ。勘違いされてもおかしくねぇ。 「今宵は満月だ」 「あ、そうなんだ?俺に関係あるの?」 満月か。満月はいいよな。明るくてよく見えるから鍛錬になるし、なんか元気になる。 心がワクワクつーか、ドキドキする。童心に戻る感じだ。 ずっと見ていたくなる。満月を見ながら酒を飲んだらきっと美味しいだろうな! そんなことを言ってやると、仙蔵は表情を歪めた。 「……一月の…満月はダメだ…」 「ダメって何がダメなんだ長次」 「狼が暴走する月なんだと」 長次が首を横に振り、文次郎が眉をしかめて教えてくれた。 どこかの書物で見たらしく、本当か迷信か解らないが、一月の満月の日は狼が暴走するらしい。 暴走というか、冬の眠りから覚めた腹を空かせた狼が活発的に動くんだと。 で、俺が捕えたということだ。うん、おかしいよね。 「俺狼じゃねぇし!人間だっつーの!バカかお前ら!バカなのか!」 「そんなの知っとるわ!だが満月になると毎回毎回興奮するだろうが!」 フルフルと怒りで震える仙蔵を見て、今までのことを思い出す。 えっと…、前は六年で戦場実習中に行って、月の光りで血がよく見えたから興奮しちゃったっけ…?でもあれは小平太もだしなぁ。 前の前は眠たくなくて文次郎に一晩中組手に付き合ってもらった…よな?文次郎も鍛錬になってよかったじゃん。 前の前の前は欲求不満だったなぁ…。春画じゃ我慢できなかったから仙蔵に女装してくれって頼んだっけ。勿論断られたけど。 前の前の前の前は小平太と暴れたな。暴れまくって壁とか廊下とかぶっ壊したわー…。 前の前の前の前の前は長次と小平太と飲み明かしたっけ。次の日試験だったけど! 「いや、今回は大丈夫だって。大人しくしておきます」 「信用ならん!今晩はずっとそのままでいろ!」 「えええええ!?だ、だってこの状態のままじゃあ厠に…!」 「知らん!留三郎、部屋の扉に板張り付けておけ!」 「任せろ。ついでに『猛犬注意』って壁紙を貼っておこう」 「……それはいい。文字は任せろ…」 仙蔵、文次郎、長次、留三郎が順々に出ていき、仙蔵が言ったように戸に板を打ち付けられた。 「ちょっとちょっと!友達に対してやりすぎじゃない!?つか首輪の意味は!?」 「獣と友達になった覚えはない!首輪はノリだ!」 「仙蔵さん辛辣ぅ!そしてお茶目さん!」 よほど鬱憤が溜まってたんだろな…。めっちゃ怒ってるわ。そんな酷いことしてないのに。 「とか思ってる場合じゃねぇな。さっさと縄抜けしねぇと…」 一晩中このままとか無理。 だけど縄は頑丈で、抜けない…! 一人じゃあどうあがいても脱出できなかったので、矢羽音を飛ばして助けを求めてみた。 ………ダメだ!六年全員受信拒否してやがるッ…!いや、小平太は町に出てるから無理だけど。 つーか伊作は参加してないんだな!それとも忘れられてんのか?はっは、さすが不運の大魔王! 「……ヤベェ…、マジでこのままだと辛い…!辛すぎる!」 今は夕刻。飯はもう食ってるので大丈夫。腹いっぱいになって油断してるときに捕まったわけ…。情けないです、ほんと。いや、でもあいつら結構本気だったしな、しょうがねぇよ。 「仕方ねぇ…。竹谷か小平太の帰り待つか…」 諦め、仰向けになって天井を見つめる。 窓からは太陽の光りが顔を照らしていたが、それも段々と細くなり、とうとう消え、太陽は山の向こうへと落ちて行った。 すぐに夜独特の空気が学園を包み込み、次第に気持ちが高ぶり始める。 満月じゃなくても、夜は好きだ。なんたって忍者のゴールデンタイムだからな! 部屋にいるというの無意識に息を潜め、気配を絶っているのに気がついて、フッと笑う。部屋だから警戒しなくていいのに。 「あー……あいつら竹谷に預けて来てよかったわ」 部屋で飼育している犬や猫は、竹谷に預けている。 近々戦場実習へ行こうと思ってたから、懐かせる意味をこめて預けてる。 あと、まぁ竹谷も世話したいって言ってたしな。気に入った子を持ってってもらってもいい。 「…厠…。厠行きたいッ!」 行ったらダメだと思うと人間行きたくなるもので…。 あと寒い!あいつら布団をかけることなく放置して出て行ったから寒い! 「うおおお…!これはヤバい!誰か!誰か助けてくれ!」 「おっ?なんだこれ。『なんとか犬注意』?」 「この声は小平太だな!つかそれ『猛犬注意』って読むんだよお馬鹿さん!」 「そうなの?まぁいいや。虎徹ー、この板何だ?取っていいのか?」 「取れ!取ってくれ小平太!」 天は我を見捨てなかった! 同じく夜には気配を絶つ癖を持っている小平太が突然現れた。 俺の言葉を聞いた小平太は「解った!」と声大きく返事し、バキッと力強くはぎとる。 釘を刺してるつーのにこの怪力…。俺よりこいつを捕縛したほうがよくないか? 「アハハハハ!何してんだ虎徹!新しいプレイに目覚めたのか!?」 「んなわけねぇだろ!いいからこの縄解いて下さい!」 目に涙を溜めながら笑い、縄を解こうとするが、不器用なので解くことができない。 イライラが溜まってついには苦無を取り出し、雑に縄を斬っていく。 「いッ…でぇええええ!」 「あ、すまん。ちょっと斬れた」 「…ッ…!だー…今日は許す。解いてくれてありがとうよ!」 斬られた場所は腕。血は流れてるものの、言うほど痛くはなかった。斬られるのは予測できてたしな。 起き上がり、固まった身体をほぐす。んー…やっぱジッとしとくの苦手だわ。 「で、何であんなことに?」 「満月の日は暴走するからジッとしとけって仙蔵たちに…」 「ああ、虎徹興奮するよな」 「え、そう?」 「自覚なかったのか?かなり興奮してるぞ」 六年の中で、誰と一番仲がいい?って言われたら、少し迷って小平太と答える。 組み手も、つるむのも、遊ぶのも、猥談するのも大体小平太だ。次点で留三郎か伊作。 その長く一緒にいる小平太に言われて初めて気づいた。でも小平太が言うんだから本当だろう。嘘をつく性格でもないしな。 「そんなつもりなかったんだけどなぁ…」 「なんか月をジッと見てるときの目は危ない。飢えてるのがよく解る」 珍しく真面目な声色で喋りながら廊下へと歩いて行く。 廊下の向こうは中庭で、部屋からは月がよく見えた。 俺も立ち上がって廊下に出ると、煌々と光る丸い月が俺を出迎えてくれる。 「……」 ああ、やっぱ満月は綺麗だな。 夜だと言うのに何であんなにも明るくに光ることができるんだろうか。綺麗だ。 そのおかげで小平太の表情がよく見える。彼も少しばかり楽しそうに笑っていた。お前も興奮してんじゃん。 だけど満月は忍者にとって天敵だ。だって明るすぎる。 解っているけど俺は満月が好きだ。よく見えるからこそ、―――。 「虎徹」 「……興奮してた?」 「殺気が出てた」 「それはヤバいな。仙蔵に言われた通り、俺マジで獣なのかも…」 「まぁ解らんでもないがな!」 「あー…ヤりてぇ!」 「虎徹は欲望に忠実だな」 「お前に言われたくねぇよ。でも女なんていねぇし…、春画は飽きたし…」 「なら男でも抱いたらどうだ?ほら、竹谷とかお前に忠実だろう?」 「は?バカかお前。何で男なんか抱かなくちゃいけねぇんだよ。固いしでかいしなんの楽しみもねぇ!」 「だけど少しぐらい経験しとくのはいいことだぞ?もしかしたら気持ちいいかもしれん」 「何でそんなに薦めるの?え、小平太は経験あんの?」 「ない。ないから感想が聞きたい」 「死ね!絶対ェ抱かん。……まぁ、ちょっとぐらい経験してみてぇかも?とは思う」 「ハハッ、虎徹も結構単純バカだな!」 「お前に言われたらおしまいだよ。そうだ、小平太。お前を抱いてやろうか?」 「それは笑える冗談だな、虎徹。虎徹が私を抱くのではなく、虎徹が私に抱かれるの間違いだろう?」 「ふっざけんな。お前に抱かれたら一生オムツ生活だっつーの!」 「それはようするに、虎徹のが小さいということか?」 「うっわ、小平太には珍しく頭の回転がいいじゃねぇか。可愛いな、抱いてやるからおねだりしてみろよ」 「何だ、誘ってるのか虎徹?だが下手だな。あと私は嫌がられるほうが燃える」 「だー!気持ち悪ィ!見ろ、鳥肌立っちまった!」 「アハハ、私も私も!」 「うー…、今すぐ暴れたい!気持ち悪い!」 「でも暴れたら仙蔵たちに怒られるぞ。だから―――どうだ?」 ドンッ!と後ろから取り出したのは一升瓶二本。何隠してんのかと思ったら酒かよ。いや、匂いで解ってたけど。 町に行くって言ってたのはこの為か。 ニィと笑い返して、廊下に座ると小平太も腰を落として一本渡してくれた。 「この間きり丸のバイトを手伝ったら思ってたよりたくさん貰えたんだ!」 「そりゃあありがたい。じゃ、遠慮なく貰おうか」 蓋を開け、盃に注ぐことなく瓶に口をつける。 久しぶりに飲んだ酒の味を舌で味わい、喉に通すと熱かった。久しぶりだからなぁ…。 「うまい」 「だろう?前から狙ってたんだ」 「マジか。あー、でもつまみが欲しくなるな」 「そうだなー、つまみ欲しいな。長次持ってない?」 のけ反って後ろを見ると、寝間着姿の長次が立っていた。長次も気配消すの得意だよなー…。 長次は何も言うことなく小平太の隣に座り、持って来たイカの炙りをそっと差し出し、自分の盃に酒を注いだ。 「イカーッ!」 「よく…噛め…」 「イカもきたんなら、干し肉も食べたいよな。なぁ、留三郎?」 「そう言うと思って持って来たっつーの」 「僕はお菓子持って来ちゃった!お酒はあんまり強くないからねぇ」 俺の後ろからは留三郎と伊作。 二人も廊下に座り、俺の瓶を勝手に取って盃に注いだ。干し肉うまい! 「全く…。せっかく獣を捕えたのに…」 「小平太のことをすっかり忘れてたな」 最後に現れたのはい組の二人。 呆れた様子だったけど、手にはちゃんと盃を持っている。 小平太が笑って二人に注いでやり、俺は瓶を持つ。 「満月を肴に友と飲むのも風流だな!」 これから先、七人で酒を飲み交わすなんてきっとできない。 だからこの時を忘れないよう楽しむ。 悲しいなんて思わない。もう全員が覚悟してるからな! 「お前の口から風流という言葉が聞けるなんて…」 「文次郎、明日は雨だ。せっかくの実技が虎徹のせいで残念だったな」 「やべぇ…、部屋の雨漏り修理してねぇや…」 「と、留さんやばいよ!僕また濡れちゃう!」 「雨は……静かでいいが、湿気で本がダメになってしまう…」 「外で鍛錬できんから困る!虎徹、バカに戻れ!」 「最低だな、お前ら!」 そんなお前らが大好きだけどな、ちきしょう! ( TOPへ △ | ▽ ) |